月に水まんじゅう

萩原 歓

6 狂戦士ミスト

月姫:さて何か狩りしに行くか
☆乙女☆:うん今日は一日できる^^
ミスト:俺はそろそろ落ちるよ
月姫:えー
☆乙女☆:;;
ミスト:ごめw午後からくるからwノ


 ミストはログインしたばかりなのに、話もそこそこにいきなりログアウトした。


☆乙女☆:忙しいのかな
月姫:いあwあれだよあれwレイアさんw
☆乙女☆:?


 道具屋の前で、新しくギルドに入ったヒーラーの、レイアがうろうろしている。
レイアは黒猫タイプで、薄紫のローブをまとい、孔雀の羽が散りばめられたような扇を持っている。ヒーラーと言うよりもダンサーのようだ。
 レイアが近づいてきて話しかけてきた。


レイア:こん^^
月姫:こんです
☆乙女☆:こん^^
レイア:ミストさん落ちちゃった?
月姫:うん最近リア充みたいですよ
レイア:えーそうなのぉー
月姫:忙しくてあんまりインできないってさっき言って落ちました
レイア:あーあそうなんだーじゃ野良でもいってこよ


 レイアは月姫と☆乙女☆には用がない様で、さっさとメンバー募集をしている野良パーティに入っていった。


月姫:ミストはレイアから逃げてるんだよw
☆乙女☆:ああそうなんだー


 ミストは狂戦士で前衛職だ。敵との戦いにおいては、先頭を切って斬り込んでいく。
課金によって装備が整っているせいもあるが、プレイヤースキルが高く獣人国家の中でなかなか目立った存在になっていた。
 月姫も高いプレイヤースキルと、容貌のおかげで一目置かれる存在である。『○○姫』という名前のキャラクターが何名かいるが、通称『姫』と呼ばれるのは、月姫のことだ。
ただし中の人が男だと知らないものも多い。
つまりこの二人は『アンダーフロンティア』の二枚看板ともいえる。またこのギルドは解体するグループも多い中、メンバーの入れ替わりはあるものの、最古の大手ギルドでもあるので入団希望者が一定数いる。
 そのうちヒーラーの女の大半は、ミストと狩りなり対人戦なりのパーティを組んでいくと、終了したころには彼にべったりになる。
ミストは単にゲームの都合上、ヒーラーを守りながら戦っているだけなのだが、どうやらその行動は他の戦士たちと違い、女性に勘違いを促す様だ。


☆乙女☆:ミストさんてもてるねえ
月姫:ps高いってのもあるけどさ
☆乙女☆:んープリに優しいよね
月姫:そりゃそうだよプリ死んだら終わりじゃんw
☆乙女☆:まあねえw
月姫:ミストは前衛だけど脳筋じゃないとこがいいよなw


 ☆乙女☆もレイアの気持ちがわからないでもなかった。
ミストは好戦的であるのに、冷静で落ち着いていた。ゲーム内のことも勿論よく知っているが、月姫との雑談でも、ミストは博識さを嫌みなく感じさせる。
 ☆乙女☆と月姫にとって兄のような存在で、憧れるのは当たり前の大人の男性なのだ。
 レイアよりも、☆乙女☆のほうが圧倒的にミストと親しいが、☆乙女☆にはミストを宇宙の果ての星のような存在だと感じていた。

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