月に水まんじゅう
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パソコンを起動させると、ゴミ箱の隣に横向きの少年のイラストがついたアイコンがあった。
星奈はまだ小学六年生だが、ダブルクリックすればこのアイコンが起動されることを知っている。
兄の修一は今年、市内でも難関の高校に入学し、両親から最新のパソコンを買ってもらっていた。
そしてこの少しだけ古いパソコンは、妹の星奈のものとなった。
少し緊張してダブルクリックをする。
高らかなトランペットのファンファーレが鳴り響き大きくタイトルが浮かび上がった。
『Knight Road』
星奈は音楽を聴きながら画面を眺めていると、甲冑を着た戦士と木の杖を持ちローブを着た猫、筋骨隆々で弁髪姿の格闘家などが、次々とポーズを決め始めた。
動画が止まると『ログイン』のボタンが現れる。星奈はそっとクリックした。
「修一、学校はどうだ?」
父親の伸二が威厳を感じさせるように、ゆっくりと太い声で尋ねる。
「うん。まあまあかな。思ったよりも授業は難しくないみたい」
修一は最近かけ始めたウエリントン型の眼鏡の位置を、細かく直しながら答えていた。
母親の奈保子は満足げに修一を眺めている。星奈は少しだけ疎外感を感じたが、目の前の豪華な夕飯は修一の進学のおかげだと思い、不満には感じなかった。
それよりも兄が眼鏡のせいで、優しい瞳が隠され『メガネ男子』になってしまったことが残念だった。
星奈は『Knight Road』のことを教えてもらいたく、食後すぐに部屋に戻ってしまった修一を追いかけた。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
ノックをすると「いいよ」と返事があったので「お邪魔します」と頭を下げて部屋に入った。
「あのね。ナイトロード?ってパソコンにあったんだけど、遊んでもいいかなあ」
「んん?ああ。やろうとおもってインストールしてたんだった。でも、もうやる暇なさそうだなあ」
修一は椅子を回転させて天井を眺めている。
「やってないんだ」
「出来るならやっていいよ。ほら」
小さな紙切れに修一はIDとパスワードを書き、星奈に渡す。
「ありがとう」
「まあほどほどにな。あと本名とかキャラにつけるなよ」
「うん」
操作について、公式ページを読んでも理解できなかったところがあり、星奈はもう少し修一に聞きたかったが奈保子がやってきた。
「星奈。お兄ちゃんの邪魔したらダメよ。これから忙しくなるんだから」
「あ、はーい」
「お風呂入って寝なさい」
「わかった。じゃ」
星奈は修一の部屋を出た後、これからの兄のことを想った。
――修一は小さい頃から、喘息とアトピー性皮膚炎を患っており、身体も弱い方だった。母親の奈保子は常に息子の状態を気に掛ける日々で、衣食住こと細かく管理していた。
部屋の掃除は勿論のこと洗剤や食物にも気を配られた。奈保子は良いと思えることはすべて試し、継続させた。
そのおかげなのか年齢なのかわからないが、中学に入学するころには喘息の発作はもう出ず、アトピー性皮膚炎も落ち着いていた。
それからはより高い学力を発揮し、今では難関高校に入学。両親は鼻高々だ。 修一は医師を目指すと言う。生来の虚弱さを克服し、志を高く持つ修一は片桐家の中でスターだった。
伸二も奈保子も彼に集中してしまっている。家族の盛り上がりを星奈は遠巻きから懸念していた。
星奈はまだ小学六年生だが、ダブルクリックすればこのアイコンが起動されることを知っている。
兄の修一は今年、市内でも難関の高校に入学し、両親から最新のパソコンを買ってもらっていた。
そしてこの少しだけ古いパソコンは、妹の星奈のものとなった。
少し緊張してダブルクリックをする。
高らかなトランペットのファンファーレが鳴り響き大きくタイトルが浮かび上がった。
『Knight Road』
星奈は音楽を聴きながら画面を眺めていると、甲冑を着た戦士と木の杖を持ちローブを着た猫、筋骨隆々で弁髪姿の格闘家などが、次々とポーズを決め始めた。
動画が止まると『ログイン』のボタンが現れる。星奈はそっとクリックした。
「修一、学校はどうだ?」
父親の伸二が威厳を感じさせるように、ゆっくりと太い声で尋ねる。
「うん。まあまあかな。思ったよりも授業は難しくないみたい」
修一は最近かけ始めたウエリントン型の眼鏡の位置を、細かく直しながら答えていた。
母親の奈保子は満足げに修一を眺めている。星奈は少しだけ疎外感を感じたが、目の前の豪華な夕飯は修一の進学のおかげだと思い、不満には感じなかった。
それよりも兄が眼鏡のせいで、優しい瞳が隠され『メガネ男子』になってしまったことが残念だった。
星奈は『Knight Road』のことを教えてもらいたく、食後すぐに部屋に戻ってしまった修一を追いかけた。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
ノックをすると「いいよ」と返事があったので「お邪魔します」と頭を下げて部屋に入った。
「あのね。ナイトロード?ってパソコンにあったんだけど、遊んでもいいかなあ」
「んん?ああ。やろうとおもってインストールしてたんだった。でも、もうやる暇なさそうだなあ」
修一は椅子を回転させて天井を眺めている。
「やってないんだ」
「出来るならやっていいよ。ほら」
小さな紙切れに修一はIDとパスワードを書き、星奈に渡す。
「ありがとう」
「まあほどほどにな。あと本名とかキャラにつけるなよ」
「うん」
操作について、公式ページを読んでも理解できなかったところがあり、星奈はもう少し修一に聞きたかったが奈保子がやってきた。
「星奈。お兄ちゃんの邪魔したらダメよ。これから忙しくなるんだから」
「あ、はーい」
「お風呂入って寝なさい」
「わかった。じゃ」
星奈は修一の部屋を出た後、これからの兄のことを想った。
――修一は小さい頃から、喘息とアトピー性皮膚炎を患っており、身体も弱い方だった。母親の奈保子は常に息子の状態を気に掛ける日々で、衣食住こと細かく管理していた。
部屋の掃除は勿論のこと洗剤や食物にも気を配られた。奈保子は良いと思えることはすべて試し、継続させた。
そのおかげなのか年齢なのかわからないが、中学に入学するころには喘息の発作はもう出ず、アトピー性皮膚炎も落ち着いていた。
それからはより高い学力を発揮し、今では難関高校に入学。両親は鼻高々だ。 修一は医師を目指すと言う。生来の虚弱さを克服し、志を高く持つ修一は片桐家の中でスターだった。
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