グラデーション

萩原 歓

13 告白

 食事を終えて店を出た。食べ歩きをする予定が先走った正樹の告白で狂ってしまった。
「静かなとこどこかある?」
「港が見える丘公園ってのがあるんだ。ほんとは夕方に連れていこうかと思ったんだけど」
「そこいこっか」
「おう」




 少し歩いて公園に着く。薔薇が綺麗に咲き乱れていていい香りが漂っていた。
「すごーい。きれい」
 展望台に上り港を感嘆した声をあげて☆乙女☆は身体を乗り出していた。
「海っていいねえ」
「ああ、海近くにないのか」
「うん。花火も川であげるもん」
 正樹は☆乙女☆の隣になって一緒に景色を眺めた。(海も空も綺麗な青だな)
ブルーのワンピースの☆乙女☆が溶け込んでいきそうに見えた。


 綺麗な青い景色に囲まれて正樹は少し落ち着いた。二人でベンチに腰掛ける。
「のんびりするなあ」
「ほんと――さっきの続き話そか」
 ☆乙女☆が一呼吸おいて切り出した。正樹はまた少し緊張したがゆっくりと口を開いた。


「あのさ。まだミストが好き?」
「え。ミスト?結婚したじゃん」
「まあそうだけどさ。前ミスト好きだったじゃん」
「ミストはさ。私がまだ小さい頃の兄貴に似てたんだ。優しくて物知りで穏やかで。KR始める前にはもう兄貴は自分のことに必死でね。
私のことなんか構っちゃいられなかったんだ。だから投影してたのかも兄貴の姿をミストに」
「そうなのか」
「姫はリアルで会う前はおねーちゃんって感じだったよ」
「えー」
「あはは。だってあのキャラじゃ思ってもしょうがいないよ。おかげで警戒することもなかったけど」
「そうか。じゃあ良かったのかな」
「初めて会って姫は男なんだって実感したときにドキドキした」
「そか」
「ん。私も姫が好きだよ」
 真っ直ぐ見つめる☆乙女☆が愛しくて正樹は思わず抱きしめてしまった。
「ちょ、ちょっと」
「あ、ごめ」
 素早く身体を話した後しばらく沈黙が流れた。


「今日は帰る?」
「一応一泊する予定だったんだ。こっち方面来ることってないから、ビジネスホテルにでもって」
「俺んち来てくれる?」
「ん。いいよ」
 少し景色を眺めた後、正樹のアパートに☆乙女☆を連れてやってきた。☆乙女☆が夕飯を作ってくれるというので途中でスーパーで買い物をしてきた。




 正樹は部屋の鍵を開けて☆乙女☆を招き入れた。
「へー。結構きれいにしてるんだね」
「まだあんまり住んでないしな。とりあえずそこでも座ってよ」
 荷物を置いて☆乙女☆はクッションに座って足を延ばした。八畳ほどのワンルームの部屋は家具がパソコンデスクと、こたつくらいで特に収集癖ない正樹には片付けるものがあまりない。
「ちょっと歩き疲れたよ」
「今お茶でもいれる」
「ありがと」
 ティーバッグの紅茶を飲みながら少し話をして☆乙女☆は夕飯を作ってくれた。小気味いい包丁の音が聞こえる。


「中華もいいけどやっぱ日本人は和食だよなー。これ、うめえ」
「よかったよ」
 きゅうりの酢の物にメバルの煮つけと残り物の味噌汁はとても暖かい味がした。
「さすが調理師」
「今日はそんなに凝ったものしてないんだ。ごめん」
「十分だよ」
 色々買い込んでも残れば正樹があとは消化しなければならない。負担がない様にできるだけあるものを使って作ってくれた☆乙女☆の気遣いが正樹には嬉しかった。


「あー。美味かった。ここんとこ手料理食ってなかったしな」
「最近の男子って結構自炊するって聞くけどね」
「うーん。俺は食うの専門だしな」
 正樹が手際よく片付けていると☆乙女☆は感心して言った。
「さくっと片付けるね」
「姉貴二人に躾けられてるからな」
 二人で笑って片付けた。


 いつの間にか日が落ちて窓の外が真っ暗になった。
「風呂いれるよ」
「あ、うん」
 先に☆乙女☆を風呂に案内して布団を敷いた。一組しかないので一応自分用にこたつ布団を出しておいた。
「ありがと。さっぱりしたよ」
 湯上りのすっぴんの顔は少し幼げで、上気した桃色の頬が可愛らしかった。
「冷蔵庫のお茶とか勝手に飲んでて。俺も入るよ」
「ん」
 短い髪をごしごし拭いている横を通って正樹も風呂場に向かった。
 湯に浸かりながら正樹は叶わないかもしれないが☆乙女☆を抱く手順を考えていた。(と にかく丁寧にしないとな)

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