フォレスター
21 聖夜
久しぶりの一人きりのクリスマス。
父と母は劇的な夫婦関係の回復を果たし二人でディナーと洒落込んだようだ。
兄の颯介もその恩恵を受けているのかデートらしい。
母の慶子に適当にするからと、食事の支度は頼まずピザでもとることにした。
注文をして十分もするとバイクの音が聞こえチャイムが鳴った。
直樹は財布を持って玄関を開けピザを受け取った。
冴えた夜に星が輝いている。
風はないが空気は乾いて冷たい。
「ご苦労様。こんな時期に悪いね」
学生だろうか、まだまだあどけない若い男が、赤ら顔で白い息を吐きながら、お釣りを取り出している。
「いえー。彼女もどうせ今日バイトなんすよー」
「そっか。じゃあ後でゆっくりだね」
「いやあー」
頭をヘルメットの上からかきながら「ありがとうございましたあ」とバイクに乗ってブウウンと去って行った。
なんとなく鼻で笑って、右下の郵便受けに目をやると葉書があった。
『大友直樹 様』
以前住んでいたアパートの住所が書いてあり、転送されてきていた。
裏返すと結婚式の写真が載っていた。
『新郎 飯田俊明 新婦 飯田里佳子 (旧姓 西原)』
(里佳子、飯田主任と結婚したのか)
少し驚きながら、あたたかいピザの箱と葉書をテーブルに置き、冷蔵庫からビールを取り出そうとしたがやめて、赤ワインを出した。
ピザを広げてワイングラスにワインを注いだ。
葉書に向かって「おめでとう」と口に出していいワインを飲んだ。
一口飲んでから香りを嗅ぎ、もう一度口にワインを含み味わった。
(安い割に美味いワインだな)
シンプルなマルゲリータのピザをかじり写真を眺めているとどこかで見覚えがある気がしてくる。
(そりゃ、里佳子と主任だから当たり前なんだろうけど……)
写真はケーキ入刀時の場面だ。
金屏風をバックに里佳子は豪華なウエディングドレスに、ピンクの小花が散りばめられたヘッドドレスをつけ、その後ろに控えめな飯田が支えるようにして立っている。
(ああ、あの構図だ)
緑の雇用のポスターと構図が似ていた。
ただし全く色も意図も違うのだが。
ワインの瓶を半分ほど空けると、少し陽気になり笑いたくなった。
自分と里佳子の構図が似て非なるものだったが心から彼女の幸せを祈った。
写真の里佳子は自分が見たことのない満足そうな表情で、飯田も初めて見るような優しい目をしている。お似合いだ。
(俺も恋人でも探すか)
何冊かもらってきた車のパンフレットに目を向ける。
深い緑一色の自分の世界に満足しながら、緋色のワインをじっと見つめた。
一口含んでゆっくり飲み込むと胸の奥からぬくもりを感じ小さな炎が灯る気がした。
(いいクリスマスだな)
直樹は満足してもう一度グラスを掲げ「乾杯」とつぶやいてワインを飲み干した。
終わり
父と母は劇的な夫婦関係の回復を果たし二人でディナーと洒落込んだようだ。
兄の颯介もその恩恵を受けているのかデートらしい。
母の慶子に適当にするからと、食事の支度は頼まずピザでもとることにした。
注文をして十分もするとバイクの音が聞こえチャイムが鳴った。
直樹は財布を持って玄関を開けピザを受け取った。
冴えた夜に星が輝いている。
風はないが空気は乾いて冷たい。
「ご苦労様。こんな時期に悪いね」
学生だろうか、まだまだあどけない若い男が、赤ら顔で白い息を吐きながら、お釣りを取り出している。
「いえー。彼女もどうせ今日バイトなんすよー」
「そっか。じゃあ後でゆっくりだね」
「いやあー」
頭をヘルメットの上からかきながら「ありがとうございましたあ」とバイクに乗ってブウウンと去って行った。
なんとなく鼻で笑って、右下の郵便受けに目をやると葉書があった。
『大友直樹 様』
以前住んでいたアパートの住所が書いてあり、転送されてきていた。
裏返すと結婚式の写真が載っていた。
『新郎 飯田俊明 新婦 飯田里佳子 (旧姓 西原)』
(里佳子、飯田主任と結婚したのか)
少し驚きながら、あたたかいピザの箱と葉書をテーブルに置き、冷蔵庫からビールを取り出そうとしたがやめて、赤ワインを出した。
ピザを広げてワイングラスにワインを注いだ。
葉書に向かって「おめでとう」と口に出していいワインを飲んだ。
一口飲んでから香りを嗅ぎ、もう一度口にワインを含み味わった。
(安い割に美味いワインだな)
シンプルなマルゲリータのピザをかじり写真を眺めているとどこかで見覚えがある気がしてくる。
(そりゃ、里佳子と主任だから当たり前なんだろうけど……)
写真はケーキ入刀時の場面だ。
金屏風をバックに里佳子は豪華なウエディングドレスに、ピンクの小花が散りばめられたヘッドドレスをつけ、その後ろに控えめな飯田が支えるようにして立っている。
(ああ、あの構図だ)
緑の雇用のポスターと構図が似ていた。
ただし全く色も意図も違うのだが。
ワインの瓶を半分ほど空けると、少し陽気になり笑いたくなった。
自分と里佳子の構図が似て非なるものだったが心から彼女の幸せを祈った。
写真の里佳子は自分が見たことのない満足そうな表情で、飯田も初めて見るような優しい目をしている。お似合いだ。
(俺も恋人でも探すか)
何冊かもらってきた車のパンフレットに目を向ける。
深い緑一色の自分の世界に満足しながら、緋色のワインをじっと見つめた。
一口含んでゆっくり飲み込むと胸の奥からぬくもりを感じ小さな炎が灯る気がした。
(いいクリスマスだな)
直樹は満足してもう一度グラスを掲げ「乾杯」とつぶやいてワインを飲み干した。
終わり
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