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萩原 歓

12 啓発

 林業体験を終え一週間ぶりに出社すると、会社の建物そのものに違和感を感じてしまった。
いつも通りに受付にいる仏頂面の里佳子に挨拶をし、掲示板を眺めてから自分のデスクに座った。


「大友、おはよう」
 飯田の明るい声がかかる。
「あ、飯田主任。おはようございます」
「なんか日に焼けたのか精悍になってるな。行ってきたんだろ」
「ええ」
「今夜暇か?話聞かせろよ」
「あ、ええ。いいですよ」
「じゃ、また夜にな」


 里佳子にも話さないといけないと思ったが、まだ約束を交わしていないので先に飯田に話すことにした。
きっと里佳子は今週末、手料理を振舞ってくれつつ直樹に林業体験はどうだったか、――本題は、これからどうするつもりなのかを聞き出そうとするだろう。
 直樹は気を引き締めて仕事を開始した。




「で、どうだったよ」
 ざわめく店内でジョッキを片手にすぐさま飯田は聞いてきた。
「なんていうか。よかったです」
「はああー。そうかあ」
 飯田は納得したような、がっかりしたような複雑な表情で大ジョッキを空けた。


「すみません」
「いいよいいよ。帰ってきた時のお前、なんかいい顔つきになってたもんなあ。五日くらいでそんなに変わるもんかと思うくらいになあ」
「うーん。上手く言えないですけど自分の居場所って感じでした」
「そうか。しかし啓発セミナーにでも行ったみたいな効果だな」
 飯田の言いように直樹は笑った。


「案外そうかもしれませんね。自分が変わる……じゃないな取り戻したような」
「うん、うん。早いうちにそういうのが見つかるっていいことだよ」
「ありがとうございます」
「いつから、どうする?」
「来春から林業組合に就職しようかと。人手不足なんでほぼ入れるらしいです」
「俺とちょうど同じ時期にここ離れるわけだな」
 ほうっと息を吐き出し、しみじみと飯田は言った。


「すみません。こんなに世話になっておきながら……」
 直樹は申し訳ない気でいっぱいだったが、それでも振り返るつもりはなかった。
「いいんだ。まあお前ならいつでもここに戻れるからさ。その気になったらまた相談しろよ。でも彼女とはちゃんと話しあえよ。俺は話したら振られちまったんだがな」
 やれやれと言うように壁のメニューを見ながら飯田は頭をかいた。
「え、そうなんですか?飯田主任は出世コースじゃないですか。なんでまた」
 焼き鳥の串をタクトのように左右に振って飯田は話した。


「彼女はさ。ああもう元カノか。ネイリストで小さいけどサロンも経営してるんだよ」
「へー。かっこいいなあ」
「だろ?ハンサムウーマンってやつか。だからはっきり言って俺の出世なんかあんまり影響しないわけよ。
ついてきてほしいって言ったんだけど無理だってさ。遠距離恋愛も自信がないって言われちまったよ」
「はあ」
「俺は結婚考えてたんだけどなあ。あーあ。だからって俺も出世諦めたくないしさ」
「なんか難しい選択ですね。」
「まあしょうがない。道が違うんだもんな。しかしへこむよな。俺にしてみると尊敬できる女だったんだよなあ」
 いつも快活な飯田でもさすがに恋人との別れは堪えているらしい。
これだけぐずる飯田を初めて見た。


「すぐにもっと合ってる人が出てきますよ」
「うーん。しばらくいいや。仕事だ仕事。今日は飲むぞ!」
 少しヤケ酒気味になってきている飯田を見ながら、自分の少し先もこうかもしれないと思い、直樹はとことん飯田に付き合った。

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