フォレスター
5 デート・2
車を降りて遊歩道を歩く。
標高が町中より高いせいか少し涼しく、日差しも変わらないはずなのに、木の隙間からちらちら覗く太陽はとてもまぶしい。
地面がアスファルトなのが残念だ。
柔らかい草や落ち葉の上をゆっくり踏みしめながら歩きたいものだ、と直樹は思ったが里佳子の足元がヒールであることに気づき、これぐらいがちょうどいいのかと考え直した。
久しぶりにのんびりするなと思い、直樹は気持ちのよさそうな木陰を見つけ、座ろうと里佳子を誘った。
寝っ転がって、「一緒に横にならない?」と言ってみたが、服が汚れると嫌だと言いシートを敷いて里佳子は座った。
「ここって何か遊べるものあるの?工芸とかさあ」
「んー。散歩くらいだっけ」
「えー。そうなの?やることないわねえ」
「ここはのんびり森林浴でもするとこだよ」
不満顔の里佳子はストレスがあまりないのだろう。
癒されることよりも行動することに興味があるようだ。
木々と草と光だけの環境は彼女にとってあまり関心のないデータベースなのかもしれない。
「お弁当でも食べようか」
「うん。じゃ、あっちの木のテーブルに行こう」
場所をかえてテーブルと丸太の椅子があるほうへ向かった。
こちらはむき出しの地面とまばらな芝生が、不安定な足元を作っている。
里佳子のおぼつかない歩みを気遣いながら、直樹は彼女の手を引いて席までエスコートした。
休憩コーナーと書かれている看板があり、テーブルも十卓ほどあるが、小さな子供を連れた若い夫婦が一組座って食事をしているくらいだ。
二人も腰かけて荷物を下ろした。
「ちょっと足が痛い」
「少し裸足でいるといいよ。でもヒールで来るとは思わなかったよ」
「だってヒールしかないもん。一番低いの選んだんだけど」
少し膨れて彼女はため息をついた。
「ごめんごめん。機嫌直して」
「んー」
「今度スニーカー買ってあげるよ」
「えー。いいわよ、そんなの」
笑って里佳子は直樹からトートバッグを受け取りお弁当を出し始めた。
二段の黒塗りの重箱が入っている。
「本格的だね」
少し驚きながら直樹が言うと
「なんかさ。お母さんが口出してきてさ。手もだけど」
と、やれやれというように彼女は蓋を取った。
一段目には卵焼きにウィンナー、プチトマト、から揚げ。
二段目にはおにぎりと漬物が入っている。
メニューは標準的な弁当だがきちんと並べられ隙間はなかった。
「さすが。里佳子のお母さんって感じ」
「そう?」
「うん。なんかきちんとしてるね」
「まあね。うちさ両親ともに公務員じゃない。なんでも固いよね。直樹んちはフリーダムな感じよねえ」
「うーん。自営だしね。フリーダムなのは親父と兄貴だけだけど」
「ああ、そうなの。まあ確かに直樹は固いからね」
笑っておしぼりと割り箸を差し出す里佳子に「俺、固いかなあ」と首を傾げながら直樹はそれらを受け取り弁当をつまみ始める。
やはり甘い卵焼きだ。
しょっぱいくらいのほうが好みだがこれはデザートだと思って、残りはあとで食べることにした。
里佳子はいつものように主食をあまり食べず、おかずばかり食べている。
「歩いたんだからもっと食べれば」
「うーん。果物もあるからそっち食べるよ。直樹、食べちゃって」
別のタッパーをとりだし、大粒のよく熟れたピオーネを食べ始めた。
直樹は自然の風を感じながらゆっくり食べていると、もう一組いた若い夫婦がよちよち歩く男の子と立ち去るところが目に入った。
子供はまだ二歳にもならないのだろうか、危なっかしい歩みでふらふらしている。
何歩か歩いてぐらっと傾き転んでしまった。
「あっ」
見ていた里佳子が小さく声を出す。
当然、男の子は大きな声で泣き始め、若い母親が「大丈夫、大丈夫。痛いのとんでけ」と言いながら、少し赤くなったおでこをさすってやっている。
父親は「大丈夫か?」と母親よりも心配そうに、子供と母親の顔を覗き込んでいる。
だんだんと泣き声もおさまり、ひっくひっくとしゃくってはいるが歩き始めた。
家族連れが小さく見えなくなってから里佳子は眉をひそめて言った。
「もっとちゃんと抱っことか手をつなぐとかすればいのにね」
直樹は家族を見送りながら
「あんなもんじゃないの」
と、素っ気なく言った。
「えー。顔に傷でも残ったらどうすんのよ。男の子だからってさ、いまどき」
ぶつくさ言う彼女に直樹は笑って「過保護だな」と言い、「ごちそうさま」と手を合わせて箸を置いた。
里佳子を家の近くまで送り、直樹はアパートに戻ってポロシャツとジーンズを脱ぎ、Tシャツとトランクス姿になった。
(びみょうに疲れた……)
ベッドに転がり天井をぼんやり見た。
弁当を食べた後、もう少し歩こうと彼女を誘ったが風景の変わらなさに飽きてしまったようで「遅くなるといけないから」と、帰宅を促されてしまった。
直樹は一緒にどこかで夕飯を食べようと思っていたのだが、里佳子は夕方までには帰ると言ってあったらしい。
彼女は家族との約束を絶対に守る人だ。
もう少し一緒にいようとか思うことはないのだろうか。
直樹は自分が重箱に詰められた弁当になった気がして、軽いため息をついた。
標高が町中より高いせいか少し涼しく、日差しも変わらないはずなのに、木の隙間からちらちら覗く太陽はとてもまぶしい。
地面がアスファルトなのが残念だ。
柔らかい草や落ち葉の上をゆっくり踏みしめながら歩きたいものだ、と直樹は思ったが里佳子の足元がヒールであることに気づき、これぐらいがちょうどいいのかと考え直した。
久しぶりにのんびりするなと思い、直樹は気持ちのよさそうな木陰を見つけ、座ろうと里佳子を誘った。
寝っ転がって、「一緒に横にならない?」と言ってみたが、服が汚れると嫌だと言いシートを敷いて里佳子は座った。
「ここって何か遊べるものあるの?工芸とかさあ」
「んー。散歩くらいだっけ」
「えー。そうなの?やることないわねえ」
「ここはのんびり森林浴でもするとこだよ」
不満顔の里佳子はストレスがあまりないのだろう。
癒されることよりも行動することに興味があるようだ。
木々と草と光だけの環境は彼女にとってあまり関心のないデータベースなのかもしれない。
「お弁当でも食べようか」
「うん。じゃ、あっちの木のテーブルに行こう」
場所をかえてテーブルと丸太の椅子があるほうへ向かった。
こちらはむき出しの地面とまばらな芝生が、不安定な足元を作っている。
里佳子のおぼつかない歩みを気遣いながら、直樹は彼女の手を引いて席までエスコートした。
休憩コーナーと書かれている看板があり、テーブルも十卓ほどあるが、小さな子供を連れた若い夫婦が一組座って食事をしているくらいだ。
二人も腰かけて荷物を下ろした。
「ちょっと足が痛い」
「少し裸足でいるといいよ。でもヒールで来るとは思わなかったよ」
「だってヒールしかないもん。一番低いの選んだんだけど」
少し膨れて彼女はため息をついた。
「ごめんごめん。機嫌直して」
「んー」
「今度スニーカー買ってあげるよ」
「えー。いいわよ、そんなの」
笑って里佳子は直樹からトートバッグを受け取りお弁当を出し始めた。
二段の黒塗りの重箱が入っている。
「本格的だね」
少し驚きながら直樹が言うと
「なんかさ。お母さんが口出してきてさ。手もだけど」
と、やれやれというように彼女は蓋を取った。
一段目には卵焼きにウィンナー、プチトマト、から揚げ。
二段目にはおにぎりと漬物が入っている。
メニューは標準的な弁当だがきちんと並べられ隙間はなかった。
「さすが。里佳子のお母さんって感じ」
「そう?」
「うん。なんかきちんとしてるね」
「まあね。うちさ両親ともに公務員じゃない。なんでも固いよね。直樹んちはフリーダムな感じよねえ」
「うーん。自営だしね。フリーダムなのは親父と兄貴だけだけど」
「ああ、そうなの。まあ確かに直樹は固いからね」
笑っておしぼりと割り箸を差し出す里佳子に「俺、固いかなあ」と首を傾げながら直樹はそれらを受け取り弁当をつまみ始める。
やはり甘い卵焼きだ。
しょっぱいくらいのほうが好みだがこれはデザートだと思って、残りはあとで食べることにした。
里佳子はいつものように主食をあまり食べず、おかずばかり食べている。
「歩いたんだからもっと食べれば」
「うーん。果物もあるからそっち食べるよ。直樹、食べちゃって」
別のタッパーをとりだし、大粒のよく熟れたピオーネを食べ始めた。
直樹は自然の風を感じながらゆっくり食べていると、もう一組いた若い夫婦がよちよち歩く男の子と立ち去るところが目に入った。
子供はまだ二歳にもならないのだろうか、危なっかしい歩みでふらふらしている。
何歩か歩いてぐらっと傾き転んでしまった。
「あっ」
見ていた里佳子が小さく声を出す。
当然、男の子は大きな声で泣き始め、若い母親が「大丈夫、大丈夫。痛いのとんでけ」と言いながら、少し赤くなったおでこをさすってやっている。
父親は「大丈夫か?」と母親よりも心配そうに、子供と母親の顔を覗き込んでいる。
だんだんと泣き声もおさまり、ひっくひっくとしゃくってはいるが歩き始めた。
家族連れが小さく見えなくなってから里佳子は眉をひそめて言った。
「もっとちゃんと抱っことか手をつなぐとかすればいのにね」
直樹は家族を見送りながら
「あんなもんじゃないの」
と、素っ気なく言った。
「えー。顔に傷でも残ったらどうすんのよ。男の子だからってさ、いまどき」
ぶつくさ言う彼女に直樹は笑って「過保護だな」と言い、「ごちそうさま」と手を合わせて箸を置いた。
里佳子を家の近くまで送り、直樹はアパートに戻ってポロシャツとジーンズを脱ぎ、Tシャツとトランクス姿になった。
(びみょうに疲れた……)
ベッドに転がり天井をぼんやり見た。
弁当を食べた後、もう少し歩こうと彼女を誘ったが風景の変わらなさに飽きてしまったようで「遅くなるといけないから」と、帰宅を促されてしまった。
直樹は一緒にどこかで夕飯を食べようと思っていたのだが、里佳子は夕方までには帰ると言ってあったらしい。
彼女は家族との約束を絶対に守る人だ。
もう少し一緒にいようとか思うことはないのだろうか。
直樹は自分が重箱に詰められた弁当になった気がして、軽いため息をついた。
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