フォレスター
2 里佳子
アパートのチャイムが短く鳴り、ドアを開けると恋人の里佳子がスーパーの袋を携えて立っていた。
「ご飯作りに来たわよー」
「ん」
勝手知ったる我が家と言うようにブラウンのヒールを脱ぎ散らかし、部屋にどんどん入って行った。
直樹はヒールを揃えて里佳子の後ろを歩く。
今日は和食らしい。
週末にいつも手料理を振舞ってくれる里佳子は、直樹の栄養面を考慮してくれており塩分、カロリーともに控えめで健康的だった。
北欧デザインの大きな花柄の派手なエプロンはそっけない直樹の部屋を明るくする。
「何か手伝おうか?」
「いいのよ。テレビでも見ていて」
彼女は一人で効率よくやるのが好きなようで直樹の手伝いをいつも拒んだ。
直樹は手持無沙汰でローソファーに横たわり、テレビをつけ適当なチャンネルの適当な番組を見て待った。
「お待たせー」
明るい声がかかり直樹は起き上がった。
二人掛けのテーブルに着くと、次々に里佳子は料理を並べた。
グリーンサラダ、肉じゃが、から揚げ、味噌汁。
狭いテーブルは料理でいっぱいになった。
「最低でも一汁三菜じゃないとね」
てきぱきと並べご飯を装った。
「いただきます」
直樹は手を合わせて食べ始める。
「どう?」
「美味しいよ」
「よかった」
にっこりする里佳子に、もう少し甘さを抑えて欲しいと言いたかった直樹だが、普通こういうものなんだろうなと思い、黙っていた。
里佳子以外にも何人か女と付き合ったことがあるが、彼女ほど家庭的で、なおかつ現実的にしっかりしている女はいなかった。
一歳年下なのにもう尻に敷かれそうだ。
おそらくこのままいけば里佳子と結婚することになるだろう。
そろそろ付き合って三年になる。
舌に甘味の残る肉じゃがを噛み砕きながら将来を予想していた。
里佳子が入浴している間、いつもの習慣で直樹は食器を洗った。
食器棚にはいつの間にか花柄の洋食器が増えている。
派手な花柄に落ちていく冷たい水が心地よく、ここ数年、泳いでいないことを思い出していた。
風呂場に向かう前の里佳子に「直樹はいい旦那さんになると思う」とにっこりして言われたが、『いい』とは何だろう。
この場合、家事を手伝うことだろうか。
洗い終えてテーブルに着き、冷蔵庫からジンを取り出してグラスにつぎ、一口飲んだ。
冷たさと焼ける喉のギャップに直樹は、はぁと息を吐き出してからデスクトップのパソコンに向かい電源を入れた。
里佳子は長湯ではないが出た後、セミロングの髪を乾かすことや肌の手入れに時間をかけるのでゆうに四十分は遊べるだろう。
最近始めたネットゲームに接続してみる。
鉛色の毎日に少し活気を感じさせるこのネットゲームにはまっていて近頃、睡眠不足だ。
不思議なもので現実の人間関係よりも、ネット上での付き合いのほうが心が通い合っている気がする。
チャットの会話は携帯電話のメールと同じ文字の羅列なのに、話し声が聞こえてくるくらいのリアリティを感じる。
仲良くなったネット上の知り合いとゲームのことで盛り上がり始めたころ、後ろから里佳子がやってくる気配を感じた。
チャットで「じゃあ、落ちるよ」と打ち、ゲームをやめてパソコンの電源を落とした。
化粧を落としあどけない顔つきになった里佳子はパソコンデスクの横のベッドに腰かけて
「なあに?ゲームなんかしてるの?」
と、聞いてきた。
直樹はなんとなく気まずさを感じながら
「うん。ちょっとした気分転換だよ」
と、答えた。
「直樹って眼鏡似合うね。あっさりしてるからかな、顔。塩顔てやつ?なんかしまるよ」
「そう?視力はいいけど目が疲れるからさ。パソコン用」
眼鏡をはずして机に置き、ジンの入ったグラスを持ち上げて
「飲む?」
と聞くと
「ううん。もうちょっとしたら帰るから」
と、そっけなく言う。
入浴しこれから抱き合うのがだいたいのパターンだ。
その後、里佳子は自宅に帰る。
実家住まいなので、気軽に外泊ができないのはわかるが情事のあと、さっさと帰る彼女にいつも直樹は感心していたが寂しさも感じた。
直樹も軽くシャワーを浴び寝室に戻ってくると、里佳子はベッドでゴロゴロし携帯電話をいじっている。
「たまには泊まれば?」
里佳子の隣に座り、薄いピンク色のタンクトップを脱がせる。
「うーん。付き合ってること、まだはっきり言ってないのよね。お父さんがうるさくてさ」
「そっか」
うつぶせのままの薔薇の香りがする背中に唇を這わせる。
背中まで手入れがなされており、すべすべして柔らかい。
「このままでもいい?」
タンクトップとお揃いのショーツを剥いで後ろから覆いかぶさった。
「後ろからはやだ。動物みたいだもん」
ぐるんと仰向けになる里佳子に直樹は少し鼻で笑って
「人間も動物だと思うけどね」
と言い、やはりいつもと同じように向かい合わせで抱き合った。
「ご飯作りに来たわよー」
「ん」
勝手知ったる我が家と言うようにブラウンのヒールを脱ぎ散らかし、部屋にどんどん入って行った。
直樹はヒールを揃えて里佳子の後ろを歩く。
今日は和食らしい。
週末にいつも手料理を振舞ってくれる里佳子は、直樹の栄養面を考慮してくれており塩分、カロリーともに控えめで健康的だった。
北欧デザインの大きな花柄の派手なエプロンはそっけない直樹の部屋を明るくする。
「何か手伝おうか?」
「いいのよ。テレビでも見ていて」
彼女は一人で効率よくやるのが好きなようで直樹の手伝いをいつも拒んだ。
直樹は手持無沙汰でローソファーに横たわり、テレビをつけ適当なチャンネルの適当な番組を見て待った。
「お待たせー」
明るい声がかかり直樹は起き上がった。
二人掛けのテーブルに着くと、次々に里佳子は料理を並べた。
グリーンサラダ、肉じゃが、から揚げ、味噌汁。
狭いテーブルは料理でいっぱいになった。
「最低でも一汁三菜じゃないとね」
てきぱきと並べご飯を装った。
「いただきます」
直樹は手を合わせて食べ始める。
「どう?」
「美味しいよ」
「よかった」
にっこりする里佳子に、もう少し甘さを抑えて欲しいと言いたかった直樹だが、普通こういうものなんだろうなと思い、黙っていた。
里佳子以外にも何人か女と付き合ったことがあるが、彼女ほど家庭的で、なおかつ現実的にしっかりしている女はいなかった。
一歳年下なのにもう尻に敷かれそうだ。
おそらくこのままいけば里佳子と結婚することになるだろう。
そろそろ付き合って三年になる。
舌に甘味の残る肉じゃがを噛み砕きながら将来を予想していた。
里佳子が入浴している間、いつもの習慣で直樹は食器を洗った。
食器棚にはいつの間にか花柄の洋食器が増えている。
派手な花柄に落ちていく冷たい水が心地よく、ここ数年、泳いでいないことを思い出していた。
風呂場に向かう前の里佳子に「直樹はいい旦那さんになると思う」とにっこりして言われたが、『いい』とは何だろう。
この場合、家事を手伝うことだろうか。
洗い終えてテーブルに着き、冷蔵庫からジンを取り出してグラスにつぎ、一口飲んだ。
冷たさと焼ける喉のギャップに直樹は、はぁと息を吐き出してからデスクトップのパソコンに向かい電源を入れた。
里佳子は長湯ではないが出た後、セミロングの髪を乾かすことや肌の手入れに時間をかけるのでゆうに四十分は遊べるだろう。
最近始めたネットゲームに接続してみる。
鉛色の毎日に少し活気を感じさせるこのネットゲームにはまっていて近頃、睡眠不足だ。
不思議なもので現実の人間関係よりも、ネット上での付き合いのほうが心が通い合っている気がする。
チャットの会話は携帯電話のメールと同じ文字の羅列なのに、話し声が聞こえてくるくらいのリアリティを感じる。
仲良くなったネット上の知り合いとゲームのことで盛り上がり始めたころ、後ろから里佳子がやってくる気配を感じた。
チャットで「じゃあ、落ちるよ」と打ち、ゲームをやめてパソコンの電源を落とした。
化粧を落としあどけない顔つきになった里佳子はパソコンデスクの横のベッドに腰かけて
「なあに?ゲームなんかしてるの?」
と、聞いてきた。
直樹はなんとなく気まずさを感じながら
「うん。ちょっとした気分転換だよ」
と、答えた。
「直樹って眼鏡似合うね。あっさりしてるからかな、顔。塩顔てやつ?なんかしまるよ」
「そう?視力はいいけど目が疲れるからさ。パソコン用」
眼鏡をはずして机に置き、ジンの入ったグラスを持ち上げて
「飲む?」
と聞くと
「ううん。もうちょっとしたら帰るから」
と、そっけなく言う。
入浴しこれから抱き合うのがだいたいのパターンだ。
その後、里佳子は自宅に帰る。
実家住まいなので、気軽に外泊ができないのはわかるが情事のあと、さっさと帰る彼女にいつも直樹は感心していたが寂しさも感じた。
直樹も軽くシャワーを浴び寝室に戻ってくると、里佳子はベッドでゴロゴロし携帯電話をいじっている。
「たまには泊まれば?」
里佳子の隣に座り、薄いピンク色のタンクトップを脱がせる。
「うーん。付き合ってること、まだはっきり言ってないのよね。お父さんがうるさくてさ」
「そっか」
うつぶせのままの薔薇の香りがする背中に唇を這わせる。
背中まで手入れがなされており、すべすべして柔らかい。
「このままでもいい?」
タンクトップとお揃いのショーツを剥いで後ろから覆いかぶさった。
「後ろからはやだ。動物みたいだもん」
ぐるんと仰向けになる里佳子に直樹は少し鼻で笑って
「人間も動物だと思うけどね」
と言い、やはりいつもと同じように向かい合わせで抱き合った。
「現代ドラマ」の人気作品
-
-
361
-
266
-
-
207
-
139
-
-
159
-
142
-
-
139
-
71
-
-
137
-
123
-
-
111
-
9
-
-
38
-
13
-
-
28
-
42
-
-
28
-
8
コメント