太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜
64,洞窟内探検⑨(喜び)
自分でも知らない言葉が口から出る。
すると、剣から緑の炎が消えて代わりに青紫色の炎が上がる。流れ込む力は先程の比じゃない、が何かを吸われるような感覚がある。
いや、気にするだけ無駄か。
表情は変わってないが、幼女がどこか訝しげに炎を見ている。
……今、解放してやるからな。
危険を察知したのか、幼女が先に飛び込んでくる。
今の俺には、彼女の動きがはっきりと認識できていた。
彼女が自分の間合いに入ったのを確認し、剣をより速い速度で薙ぎ払う。
彼女は驚いてはいないものの、自分の腕が地面に落ちている理由が分からず硬直している。
血は出ていない。切り口を焼いてある。
『闇よ、敵を捕らえよ』
闇の牢獄が彼女を囲む。
牢獄の中では強い引力が働き、何者も逃さない。
「しばらくそこで待っててくれ。すぐに終わらせるから」
彼女に一言だけ伝え、俺はパーンクァフルとルビアスの戦いに目を向ける。
ルビアスが広い洞窟内で空を飛び、ブレスを吐き、体当たりをしてパーンクァフルに攻撃を与えているがパーンクァフルはそれでも余裕そうだ。実際余裕なのだろう。
彼女は最初の位置からほぼ動くことなく、魔法と触手だけを駆使して相手している。
見ているのに気づいたのか、パーンクァフルとルビアスが俺を一瞥した。
(おや? そっちは終わったのかい。)
「ああ、あとはお前だけだ」
─アレン! 今すぐその魔法を止めて!!─
魔法?
この青紫色の炎か
いや、これはまだ必要だ
─いいから! それは私の魔力を使っていない!─
(んん? その炎は。)
「……無慈悲之刃」
パーンクァフルに向け空を斬り、鎌鼬を生み出してその後を追う。
切れないものにぶつかるまで、この鎌鼬は大きく速くなりながら進んでいく。
受け止めようとする触手ごと切断し、さらに加速していく。
(これはまずいね。遊びすぎた。)
パーンクァフルがようやく俺を正面に構えた。
まて、ルビアスは?
上に目をやると、ルビアスが糸で吊るされているのが見えた。
プツンッ
その瞬間、俺の中で何かが切れた音がした。
剣から流れ込む力がさらに倍増し、正体不明の何かが吸い取られる量もそれに比例して増加した。
許さない。許さない。許さない。許さない!
下段に剣を構え、駆ける速度も上げる。
ドクン
「!?」
突然、胸が苦しくなり足が無意識に止まってしまった。身体中が鉛のように重く感じ、その場に倒れ込む。指先すら動かせない。息をすることも難しく、徐々に意識が遠のいていく。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
吸おう吸おうと思っても思うようにいかない。
このままだとまずい。
なのに湧いてくるのは焦りではなく憎しみ……!
あいつを……俺は……!
(アレン様!)
視界が真っ暗になった俺に懐かしい声が聞こえた。
(今、助けます。申し訳ありません。)
途端、自分の中に、吸われていた何かが戻ってくるような感覚がした。心の中を埋めつくしていた憎しみもゆっくりと消えていく。
(もうすぐです。こんなことになっているとは。)
呼吸が安定し、体の重さもなくなってきた。
助かっ……た?
視界が開け、虹色の炎がゆらゆらと揺れて僕の体を包み込んでいるの分かった。熱くない。春の日差しのような、優しい温かさだ。
(アレン様、動けますか?)
「うん、ありがとうルイフ」
ルイフは僕の返事を聞いて肩を撫で下ろす。そして、パーンクァフルの方に向き直った。
(白蜘蛛、何をしているのですか。)
(虹炎鳥……遊びだよ、遊び。)
ルイフの威圧が増す。僕でさえ体が震えてきた。こんなルイフを僕は知らない。
(太陽の申し子と竜の存在の重要性は重々承知のはず、その命を危険に晒しておいて遊びですか?)
(……殺そうとは思ってなかった。)
(貴方はそうでも、アレン様達はそうではありません。分かりますか? 私の言いたいことが。)
(……うるさいね)
(今、なんと?)
(…………)
(言いたいことがあるなら言いなさい。)
(…………)
まるで親子喧嘩みたいだ。
僕はしたことないけどね。
─アレン。大丈夫?─
ああ
お陰様で
─どうなる事かと─
心配かけたな
糸から抜け出したルビアスが寄り添ってきた。
でも、さっきのは何だったんだ?
(あれは恐らく、その剣の裏の名を呼んだことで発動したのでしょう。)
裏の名前?
一通りパーンクァフルを説教し終わったルイフが振り返って言ってきた。
(一種の呪いみたいなものでしょうか。発動したのは、魂を生贄に持ち主に力を与える禁忌の術式ですね。さらに、この術式は抜け殻となった持ち主の体を呪いの力その物が支配してしまうというもの。魂の消滅は単なる死よりも残酷です。前にもお伝えしましたが、太陽の申し子であるアレン様が死ぬ可能性のひとつですね。)
魂の消滅は一般的な死とは違う。
普通の死は聖気が魂という器が壊れ、抜け落ちてしまうこと。だから扱えるかはどうであれ、全ての生きものは聖気を持っている。ま、こういう事だから【死の禁術】とか【生の秘術】とかがあるんだろうね。
でも、聖気を受け止めておく器である魂そのものが消えてしまえばそれっきり。生き返るなんてありえないし、聖気の量がありえないほど多い僕やルビアスでさえ死んでしまう。さらに、魂がなくなる分空きができるため、今回で言えば力なんかを代わりに、その空いたスペースに入れてしまえば傀儡にさえできてしまう。知っている人がどれだけいるかは分からないけど。
(アレン様。白蜘蛛、彼女のことも許してあげてくれませんか? 今聞いた話だと、彼女はアレン様を試していたようですよ。)
試す?
(わざとアレン様を怒らせるようにして、どれだけ感情を制御できるのか。また、単純に実力を知りたかった、と。)
……じゃあ、そんなことのためにあの人たちは殺されて?
思い浮かぶのは救えなかった2人のこと。名前も性格も知らないけれど、そんなことが理由なんて。
それにやっぱり、僕のせいなんじゃないか……!
(ああ、彼らは彼女が生き返らせる予定だったそうですよ? 死に方もまあ、グロデスクでしたが魂に大きな損傷はなかったので。)
え。
(太陽の申し子、すまなかったね。私も退屈してたし、ちょうどいいかと思ってね。ちなみにこの子だが、私の娘でね。精神体が私の中にあるのは本当だが、もしもの時のために保護してるのさ。)
「じゃ、じゃあ? 全部演技だったって……こと?」
(まあそうだね。私は感情を管理する柱。お前がどれぐらい自分を支配できるのか知る必要があったからね。)
「え、えーと? なんで?」
色々あって理解が追いつかない。
つまり? この【王種】は僕を試すために挑発し続けて、僕はまんまとそれに乗ってしまった……と?
でも、ほんとになんで……そのせいで死よりも恐ろしい目にあいかけたし……
(それは本当に悪かったと思ってるよ。予想外の事だったからねぇ。試したのはあれだ。これを渡すのに相応しいかどうかがを知りたかったのさ。最後はあれだったが、私がやりすぎたのもある。だから試験は合格だね。)
パーンクァフルが触手で何かを持ってきた。
箱? というか、この触手だと思っていたやつ、近くでよく見たら糸の束だ! す、すげえ……でもまあもう触手でいいよな。
触手から箱を受け取り、早速開けてみる。
中には赤色の、綺麗な楕円系の石が入っていた。
(紅玉ですか。)
ルビー?
(大変貴重な宝石です。それと、ルビーは古代語で『矜恃』を意味します。これは偶然ですがね。)
へぇー。
で、これはなんで貰えたんだ?
(紅玉には魔晶石よりも多くの魔力を溜めることが出来るのさ。それに加えて溜めている魔力は純度が高くなるし、持ってれば魔法制御も手助けしてくれる。上手く使うことだね。)
「……ありが……とう」
まさかこいつに感謝することになるとは……
嬉しいけど。
でもこれで、目的は達成出来たのか?
元々必要なかったっぽいけどな!
なんだか複雑だが、良かったぜ!!
すると、剣から緑の炎が消えて代わりに青紫色の炎が上がる。流れ込む力は先程の比じゃない、が何かを吸われるような感覚がある。
いや、気にするだけ無駄か。
表情は変わってないが、幼女がどこか訝しげに炎を見ている。
……今、解放してやるからな。
危険を察知したのか、幼女が先に飛び込んでくる。
今の俺には、彼女の動きがはっきりと認識できていた。
彼女が自分の間合いに入ったのを確認し、剣をより速い速度で薙ぎ払う。
彼女は驚いてはいないものの、自分の腕が地面に落ちている理由が分からず硬直している。
血は出ていない。切り口を焼いてある。
『闇よ、敵を捕らえよ』
闇の牢獄が彼女を囲む。
牢獄の中では強い引力が働き、何者も逃さない。
「しばらくそこで待っててくれ。すぐに終わらせるから」
彼女に一言だけ伝え、俺はパーンクァフルとルビアスの戦いに目を向ける。
ルビアスが広い洞窟内で空を飛び、ブレスを吐き、体当たりをしてパーンクァフルに攻撃を与えているがパーンクァフルはそれでも余裕そうだ。実際余裕なのだろう。
彼女は最初の位置からほぼ動くことなく、魔法と触手だけを駆使して相手している。
見ているのに気づいたのか、パーンクァフルとルビアスが俺を一瞥した。
(おや? そっちは終わったのかい。)
「ああ、あとはお前だけだ」
─アレン! 今すぐその魔法を止めて!!─
魔法?
この青紫色の炎か
いや、これはまだ必要だ
─いいから! それは私の魔力を使っていない!─
(んん? その炎は。)
「……無慈悲之刃」
パーンクァフルに向け空を斬り、鎌鼬を生み出してその後を追う。
切れないものにぶつかるまで、この鎌鼬は大きく速くなりながら進んでいく。
受け止めようとする触手ごと切断し、さらに加速していく。
(これはまずいね。遊びすぎた。)
パーンクァフルがようやく俺を正面に構えた。
まて、ルビアスは?
上に目をやると、ルビアスが糸で吊るされているのが見えた。
プツンッ
その瞬間、俺の中で何かが切れた音がした。
剣から流れ込む力がさらに倍増し、正体不明の何かが吸い取られる量もそれに比例して増加した。
許さない。許さない。許さない。許さない!
下段に剣を構え、駆ける速度も上げる。
ドクン
「!?」
突然、胸が苦しくなり足が無意識に止まってしまった。身体中が鉛のように重く感じ、その場に倒れ込む。指先すら動かせない。息をすることも難しく、徐々に意識が遠のいていく。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
吸おう吸おうと思っても思うようにいかない。
このままだとまずい。
なのに湧いてくるのは焦りではなく憎しみ……!
あいつを……俺は……!
(アレン様!)
視界が真っ暗になった俺に懐かしい声が聞こえた。
(今、助けます。申し訳ありません。)
途端、自分の中に、吸われていた何かが戻ってくるような感覚がした。心の中を埋めつくしていた憎しみもゆっくりと消えていく。
(もうすぐです。こんなことになっているとは。)
呼吸が安定し、体の重さもなくなってきた。
助かっ……た?
視界が開け、虹色の炎がゆらゆらと揺れて僕の体を包み込んでいるの分かった。熱くない。春の日差しのような、優しい温かさだ。
(アレン様、動けますか?)
「うん、ありがとうルイフ」
ルイフは僕の返事を聞いて肩を撫で下ろす。そして、パーンクァフルの方に向き直った。
(白蜘蛛、何をしているのですか。)
(虹炎鳥……遊びだよ、遊び。)
ルイフの威圧が増す。僕でさえ体が震えてきた。こんなルイフを僕は知らない。
(太陽の申し子と竜の存在の重要性は重々承知のはず、その命を危険に晒しておいて遊びですか?)
(……殺そうとは思ってなかった。)
(貴方はそうでも、アレン様達はそうではありません。分かりますか? 私の言いたいことが。)
(……うるさいね)
(今、なんと?)
(…………)
(言いたいことがあるなら言いなさい。)
(…………)
まるで親子喧嘩みたいだ。
僕はしたことないけどね。
─アレン。大丈夫?─
ああ
お陰様で
─どうなる事かと─
心配かけたな
糸から抜け出したルビアスが寄り添ってきた。
でも、さっきのは何だったんだ?
(あれは恐らく、その剣の裏の名を呼んだことで発動したのでしょう。)
裏の名前?
一通りパーンクァフルを説教し終わったルイフが振り返って言ってきた。
(一種の呪いみたいなものでしょうか。発動したのは、魂を生贄に持ち主に力を与える禁忌の術式ですね。さらに、この術式は抜け殻となった持ち主の体を呪いの力その物が支配してしまうというもの。魂の消滅は単なる死よりも残酷です。前にもお伝えしましたが、太陽の申し子であるアレン様が死ぬ可能性のひとつですね。)
魂の消滅は一般的な死とは違う。
普通の死は聖気が魂という器が壊れ、抜け落ちてしまうこと。だから扱えるかはどうであれ、全ての生きものは聖気を持っている。ま、こういう事だから【死の禁術】とか【生の秘術】とかがあるんだろうね。
でも、聖気を受け止めておく器である魂そのものが消えてしまえばそれっきり。生き返るなんてありえないし、聖気の量がありえないほど多い僕やルビアスでさえ死んでしまう。さらに、魂がなくなる分空きができるため、今回で言えば力なんかを代わりに、その空いたスペースに入れてしまえば傀儡にさえできてしまう。知っている人がどれだけいるかは分からないけど。
(アレン様。白蜘蛛、彼女のことも許してあげてくれませんか? 今聞いた話だと、彼女はアレン様を試していたようですよ。)
試す?
(わざとアレン様を怒らせるようにして、どれだけ感情を制御できるのか。また、単純に実力を知りたかった、と。)
……じゃあ、そんなことのためにあの人たちは殺されて?
思い浮かぶのは救えなかった2人のこと。名前も性格も知らないけれど、そんなことが理由なんて。
それにやっぱり、僕のせいなんじゃないか……!
(ああ、彼らは彼女が生き返らせる予定だったそうですよ? 死に方もまあ、グロデスクでしたが魂に大きな損傷はなかったので。)
え。
(太陽の申し子、すまなかったね。私も退屈してたし、ちょうどいいかと思ってね。ちなみにこの子だが、私の娘でね。精神体が私の中にあるのは本当だが、もしもの時のために保護してるのさ。)
「じゃ、じゃあ? 全部演技だったって……こと?」
(まあそうだね。私は感情を管理する柱。お前がどれぐらい自分を支配できるのか知る必要があったからね。)
「え、えーと? なんで?」
色々あって理解が追いつかない。
つまり? この【王種】は僕を試すために挑発し続けて、僕はまんまとそれに乗ってしまった……と?
でも、ほんとになんで……そのせいで死よりも恐ろしい目にあいかけたし……
(それは本当に悪かったと思ってるよ。予想外の事だったからねぇ。試したのはあれだ。これを渡すのに相応しいかどうかがを知りたかったのさ。最後はあれだったが、私がやりすぎたのもある。だから試験は合格だね。)
パーンクァフルが触手で何かを持ってきた。
箱? というか、この触手だと思っていたやつ、近くでよく見たら糸の束だ! す、すげえ……でもまあもう触手でいいよな。
触手から箱を受け取り、早速開けてみる。
中には赤色の、綺麗な楕円系の石が入っていた。
(紅玉ですか。)
ルビー?
(大変貴重な宝石です。それと、ルビーは古代語で『矜恃』を意味します。これは偶然ですがね。)
へぇー。
で、これはなんで貰えたんだ?
(紅玉には魔晶石よりも多くの魔力を溜めることが出来るのさ。それに加えて溜めている魔力は純度が高くなるし、持ってれば魔法制御も手助けしてくれる。上手く使うことだね。)
「……ありが……とう」
まさかこいつに感謝することになるとは……
嬉しいけど。
でもこれで、目的は達成出来たのか?
元々必要なかったっぽいけどな!
なんだか複雑だが、良かったぜ!!
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