太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

59,洞窟内探検④

「…………安心しろ……助けてやる」

 その言葉を聞いた時に僕は安堵し、へたり込んだ。
 同時に自分に嫌悪感を抱いた。
 ああ、僕だけが助かる。
 僕のせいで2人を死なせてしまったのに。
 それなのに自分が助けられることに安心した。
 僕は死なないんだ、と。
 酷い罪悪感に心が押しつぶされそうになる。
 いっそ、死んだ方が良かったのかもしれない。

 アレと戦っている彼を見る。マフラーを巻いている。暗がりで髪の色や細かいところは分からない。
 さっき魔法を使った人たちを見る。全員がローブを羽織っていて、完璧な連携でマフラーの彼をサポートしている。
 強い。
 特にマフラーの彼は一対一でもアレと戦えているようだった。彼がいなければローブの人達もさっきの2人みたいに……
 後ろから複数、他の気配が近づいてきている。
 彼らの仲間だろうか。
 その気配の持ち主たちは、戦いの様子を見て何やら会話している。聞こえてくるけれど、混乱していて内容が入ってこない。
 その中で1人、僕の横を通り過ぎてアレと戦っているマフラーの人に歩いていった。
 彼も強いのだろうか。
 彼はマフラーの人に何やら告げると、アレに向けて魔法を放った。炎の玉だが、熱量と大きさが桁違いだ。その明かりで、一瞬魔法を放った彼の顔が見えた。
 若い。僕なんかよりいくつか下だろう。
 そんな子が、アレに臆することも無く立ち向かっている。

 彼が戦ったのは一瞬だった。
 鞘から剣を抜き何かを叫ぶと、剣から緑色の炎がユラユラと立ち上がった。
 そう僕が認識した次に、アレは壁にぶつかって倒れていた。アレは生きている……けど何が起きたのかが見えなかった。
 そして、今度は彼がアレの額に剣を刺しこんでいた。アレが暴れ回る。
 その時、一本の脚が彼の体に迫っているのが見えた。
 危ない!
 思っただけで声は出ないし体も動かない。
 代わりに目を瞑っていた。
 暴れる音がする。

グチュ

 直後、嫌な音が聞こえた。
 ああ、またやってしまった……そう思った。
 薄目を開ける。すると

 アレの頭をなにかが踏み潰していた。
 なにか、見た目はドラゴンに似ている。
 龍を目にしたことは無いけれど、これは違うと分かる。なぜそう思ったのかはわからない。
 暗がりでも輝く美しい緑色の鱗を持ち、神聖な気配を放っている。恐くはない。恐がっても仕方がないと感じた。

 その龍に似たなにかは近くにいた子の顔を舐めた。
 さっきまで戦っていた彼だ。
 彼は舐められるのを嫌がり、今は逆に頭を撫でている。
 すると、僕に気づいたようで近づいてきた。

「……ごめんなさい」

 初めに言われた言葉。
 それは謝罪だった。
 何に対しての、誰に対しての言葉なのだろう。
 未だに混乱している僕には直ぐに分からなかった。

「間に合わなくて…………救えなくて……ごめんなさい」

 そこまで言われて気づいた。
 なんてことだ。
 僕は自分よりも若い子に助けられた挙句、頭を下げられたのだ。
 謝らなければいけないのは僕だ。
 そして感謝しなければいけない。
 のに、声が出ない。
 いや、声にしたくない。
 このまま僕は彼を責めてしまうかもしれないから。
 なぜ僕を助けたんだ、と。
 この2人を見殺しにした僕を……
 僕が判断を見誤ったせいで……

─人間─

 え?

─アレンが謝っているのに、なにか言ったらどうなの?─

 いや、でも

─今ここでお前を噛み殺してやってもいい。でもアレンにこれ以上、嫌な思いはさせないで─

 あ、あなたは?

─アレンの相棒グラディア

 グラディア……?
 目をあげると龍に似たなにかが僕を見下ろしてきていた。ああ、なるほど。じゃあこの子がアレン?

「……ごめん…………ありがとう」

 声が僕の心を落ち着かせたのか、どうにか口にすることが出来た。
 アレン君は浮かない表情をしている。
 僕は察した。
 彼が、彼こそが勇者に相応しいんじゃないのかと。

(お見事だね、太陽の申し子サージェビクシュ! この子が簡単にやられちまうとは。そうじゃないとね。)

 またあの声だ……!
 でも、憎しみよりも恐怖が勝つ。
 今度はこの子達を巻き込んでしまうのではないのか?
 アレン君は目を瞑っている。
 何をやっているんだ?

─────────────────────────

(お前がパーンクァフルか。)
(そうさ。いやあ、お前が来ると知って邪魔なのを排除したんだけどね。どうだい? お気に召したかね?)
(お前が……この人たちを?)
(ああ、怒りに任せて戦う姿は実に面白かったよ。)

 ルイフとしか【王種】と喋ったことなかったから知らなかった。【王種】というものが、いかに残忍な存在だということを。
 少なくとも、こいつとは仲良くなれる気がしない。

(うん? まだ怒っているのかい? やめなやめな、太陽の申し子たるお前がそんなんじゃダメだ。人間なんてちっぽけな存在に囚われてちゃ成長できない。)
(……そうか。)
(お前は災禍と戦わなくちゃならない。いちいちこんな奴らのために怒ってちゃキリがない。)
(お前を……許さない!)
(ぉん? なんだい? やるつもりなのかい? お前は【王種】というものも知らないみたいだね。いいさ、来な! 私はこの洞窟の最奥にいる。ま、簡単には来させないがね。アハハハハハハ!)

 不気味な笑い声を最後に、声は消えた。
 ああ、寝首を搔いて待っていろ。
 お前が【王種】であることを僕は認めない!

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