太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

50,コワイョ

「え、ここ?」
「…………」

 目の前にあるのは階段。地下?
 といっても数段しかないし、地上から扉が見えているから地下とは呼べないのかな。オシャレだけどね。
 ただ見た感じ、宿じゃないよね? 宿なの?
 イメージと違うんだけど。

「……スナックバーか」
「スナック? バー? なにそれ」

 スナックとは。軽食。
 バーとは。棒。
 軽食棒?

「……入るぞ」

 ルドルフが階段を降りて中へ入っていく。
 質問には答えてくれないのか。
 君が無視するんだったら僕もするぞ?
 いいのかい?
 なんて思いながら僕も続いて中へと向かう。

 カランカラン

 扉を開けると連動してか、音が鳴った。
 音のするほうを見ると……えーと、これは魔物の骨? 本物? 趣味悪!
 中は薄暗くよく見えないが、奥の方にタマ達の姿が見えた。誰かと話している。この宿?のオーナーさんかな。

「あらぁ? あなた達もこの子達のお仲間さんかしら?」

 タマ達と話していた人が僕達に気づいた。
 この子達ってのはきっとタマ達の事だろう。
 あ、馬とドラゴンは外で待機中。流石に入れないだろうと思って。背に乗ってた人はもう中へ運ばれたみたい。
 にしてもなんか違和感……口調は女の人なんだけど、声の低さがモロおっさn…あいや失礼か。

 目をやるとそこには、


─化け物がいた。


 ぎゃぁぁぁぁああああ!!!!
 声にもならぬ叫び声を上げて僕は外へ飛び出そうとする。が、腕を掴まれた!

「ちょ、ルドルフ! お前!」
「……なにしている」
「なにって、逃げ……うわぁぁぁ!」
「ふふふ、可愛いわね。食べちゃいたいわ」

 化け物が近づいてきた! 食われる!

「……お前はエステラ・サルパ……こんな所にいたんだな」
「あら、アタイのことを知ってるのねボウヤ。でも、今のアタイはエステラ・サルパじゃないわ! このスナックバーのマ・マ・よ♡」
「……………………」「ぎゃぁぁぁぁああああ」
「……お前はうるさい」
「だ、だ、だって!」

 どっからどう見てもこいつはダメなやつだろ!
 見た目ゴッツイ禿げたオッサンなのに厚化粧して……怖いよ! 誰か助けて!! てか顔ちけぇよ!!! そんで顔でけぇよ!!!!

「冗談、食べたりしないわよ。ボウヤが良い子でいれば、ね♡」
「ミ゜ッ」

 筋肉厚化粧中年男性のウインク攻撃!
 そこで僕の意識は途絶え…

「おい、いつまでやってんだ。アレンも少年もこっちに来い」
「……ああ」
「ママさんも、あんまり子どもをからかわないでもらいたい」
「あらあら、ごめんなさいね」

 なんでみんなはこんなに冷静にいられるのか。
 なんならルドルフとか、この人の元を知ってるってことなんじゃ? 普通もっと驚かない!? 逆に驚きすぎてる感じ? なら分かる。
 ルドルフにピッタリとくっついてタマ達の元へと歩く。もちろん早足で。

「それで、ママさん。泊めてもらえるのか?」
「ええ、勿論よ。冒険者カード、ギルドカードなにかしらあるんでしょ? それを見せてごらんなさい?」

 みんながスっとカードを見せる。
 僕は……メガアッタ! 僕も遅れてカードを見せる。

「いいわ、そこの奥にある階段を下って。10から30番までの部屋なら好きに使って構わないわよ」
「感謝する」

 大勢で来たけど大丈夫らしい。だいぶ広いんだなぁ。
 ゾロゾロとみんなで降りていく。

「話し合うのは10番の部屋でいいな。ここが1番広そうだし」
「おう」

 入ってびっくり、本当に広い。
 これなら龍も入れたんじゃ? あ、入口でつっかえるか。

─アレン─

 お、どうしたルビアス

─貴方の恐怖を感じとったから─

 あ……すまん
 安心しろ
 もう大丈夫だ

─そう、よかった。戻る─

 ああ

 戻る……戻る?
 言われてルビアスが真上まで来ていたことに気がついた。かなり高度があったから見られては無いと思うがけど……申し訳ないことをしたな。
 全員が部屋に入り、2人を寝かせ楽な姿勢をとる。ローブの7人だけは立ったまんまだね。寝ている男の人を庇う感じで。

─数十分後─

 「てことは、アンナが悪いんじゃ」
「「「「「「「いえ、我々もこんな大勢でしたし、警戒されても仕方ありません」」」」」」」
「 にしてもなあ」

 一通り話し合い、タマが出した結論だ。
 この7人からの話だと、どうやら宿を探しているアンナにここをオススメしようと話しかけたらしい。
 が、警戒されてレッツバトル!
 押され始めたアンナが大魔法発動!
 男倒れる!
 アンナが男にトドメを刺す瞬間に青年登場!
 アンナを止める!
 しかし返り討ちに!?
 青年が仕方なく相棒の龍に助けを求める!
 アンナ倒れる! とのこと。

 結論、アンナの勘違いによる失敗。
 まあ、確かにこんな男の集団が一人の女性に声かけるとなると、警戒しない方がおかしいか。

「念の為こいつら2人の話も聞かないといけないし、そろそろ起こすか」
「そうだな」

 タマが2人の顔に容赦なく水をぶっかけた。
 魔法? いや本物の水。
 驚いたことに、このギリュアリュには捻ると水が出るという水道という物があったのだ! しかも魔法じゃない!
 そして水をかけられた2人はびしょびしょだ。当たり前か。

「ん、ここ、は?」「ゴホッゴホッ……俺はいったい」

 へいへいアンナさん?
 あんた、とんでもないことをやらかしましたね。
 ま、僕もなんですが。ルドルフいなかったらやばかったかも。
 さっきの街の人達の反応が目に浮かぶ。

「起きたばっかで悪いが、なんで争ってたか教えてくれるか? ここはスナックバーの地下の部屋だが」
「スナックバー……さっちゃんの? なんで」
「「「「「「「我々が案内しましたジクシオ様」」」」」」」

 ジクシオって言うんだこの人。
 朱色の髪に薄い赤紫の瞳。ガタイもまあまあいいし……なんだろうこの既視感は。
 あ、この青年と似てるのか! 髪型も似てるし! 
 顔つきも…あー、顔つきは似てないのか。

「えっとタマさんとアレン……とあなたは?」
「…………」
「アンナ、そんなことよりだな」

─数十分後─

「じゃ、じゃあ私。勘違いして……!?」
「いやまあそうだが、仕方ないさ。怖がらせてしまったのはこっちだ」

 理解した途端耳まで一気に赤くなるアンナ。そしてアンナを慰めるジクシオさん。
 知らない人がみたらどう映るんだろう。

「でも結果としては無事だったけど、貴方に怪我をさせてしまったわ。本当にごめんなさい!」
「いいっていいって」

 ジクシオさんの懐の深さ。こんな人が女の人を襲うわけがない! ないよな!?

「ともかく、これでこの件は解決でいいか?」
「ああ、俺は大丈夫だ。過程はどうあれ無事にここを紹介できたみたいだしな」
「オレもだ」
「……私も…はあ、情けない」

 というわけで無事に今回のことは収まった。
 宿も見つかったしね! アレコワイケド!

「…………では次は俺の要件だ」

 ついでルドルフが話し出す。

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