４８，注目

　試験会場をでて元いたところへ戻ると他の冒険者たちからの視線が凄かった。
　疎みとか妬みとかみたいなネチネチした視線と、驚愕とか恐怖とかの怯えた視線、尊敬とか敵視とかの熱意のあるような視線。
　心当たりないんですが……

「ああ、それはな、これだ」

　と言ってタマが指さしたそれは、

「え？　ここってさっきのところ？」
「そうだ」

　幻影かなにかだろうか？
　映し出されていたのは僕が今昇格試験を受けた試験会場。
　なるほど、分かったかも。

「さっきの試験は全員が見れるようになってたんだ」
「な……んで」
「なんでってそりゃあ、面白いからだな。ちなみに許可は俺が出した！」
「勝手なことを！」
「まあまあいいじゃねえか。これでさっきみたいに舐められることもないぞ？」

　言われてみると、さっきの男達も視線を合わせようとはしない。というかビクついてる。

「ルドルフって奴との会話も流してたしな。S＋級ってのは効果覿面だな」
「じゃあ狙って……」
「いや、あいつが勝手に動いた」

　わざとルドルフを向かわせたのかと思ったけど違ってたみたいだ。
　そうだったら感謝しようと思ったけど、あいや、恩恵は得られたわけだしあとでちゃんとお礼を……でも怖いからなー。

「よし、もうここに用はないんだし外出るぞ」
「あ、うん」

　外に出るその時まで周りからの視線が痛かった……いいものもあるけどね。

「さて、じゃあアンナを探すか」
「そうだね」

　とはいっても僕じゃなくてタマがやるからそんなに時間はかからない。
　その間少しだけど、街の中をよく観察してみる。
　現在地は、ギリュアリュという巨大な都市国家からするとまだ門に近い端の方だが、それでもだいぶ歩いた方だろう。因みに馬には乗っていない。どうもタマが言うには、街中で馬に乗っていいのは許可を受けた騎士だけらしい。もちろん、冒険者も例外じゃないから乗馬している人はギリュアリュに入ってからはまだ見ていない。馬を持っている人はそれなりには見るんだけどね。
　吸血鬼ヴァンパイアのルドルフがいたからわかるとは思うけど、今はもう日が沈んで暗くなっている。けど周りを通り過ぎていく人達はこの時間帯でもだいぶ多い。ガスティグ村では見なかった光景だ。
　というか、夜なのに明るい。これが都会というものか。
　街の景観はなんというか、石造りが多いね。あ、でも木造っぽいのもある。他には……あれは、骨？
　一体誰が住んでいるのか気になるな。などと考えているとタマがアンナを見つけたらしい。この人だかりの中から1人を見つけ出すって……流石、やっぱはやいな。
　でもなにやら顔色が悪い。というか呆れているというか。

「どうしたの？」
「……見つけたんだが、何してんだあいつは」
「？？？」

　ドゴーーーーーンッ!!!

　突然、大気を震わす巨大な音とともに目も眩むような閃光が迸った。

「だいぶ近くに落ちたね」
「ああ……」

　懐かしいな。村にいた時もよく雷が落ちた。
　山火事になりかけたこともあったな。
　慣れているからか僕とタマはたいして驚きはなかったが周りの人達は腰を抜かしている。いや、タマも驚いているというか……さっきからどうした？

「か、雷！？」
「おいおい、せっかく寝てたのによぉ」
「ママァァァ！怖いよぉぉぉぉぉ！！」

　いくつかの家が点灯してきた。
　今のでわざわざ火をおこしたのか？　なんか勿体ない、というか贅沢だな。
　それとも魔法……まあ今はいいか。

「で、タマ。アンナのとこには行かないの？」
「……行こう。というか早く行ってやらないとまずいかもな」
「？？？」

　猫よ、説明をしてくれ。
　あ、タマが飛んだ！
　嘘です。跳んで屋根伝いに走っていく。
　え？　家の人？　そりゃあもうカンカンですよ。
　と言いたいが、なにせ音も振動もないのだ。
　猫だからか魔法だからか知らないが、凄い。
　じゃない、追いかけないと！

「ちょ、タマ！　待てって！」

　普通に路地を人を避けて走っていく。
　屋根伝い？　無理！
　でもこの人だかりは邪魔だ。あと少しでタマを見失う。仕方ない、飛ぼう。

　そ～らをじゆうに♪　と～びたいな♪

　はい、

「強風動エアドライブ！」

　何故かミスったらこの世界そのものが消滅するような危機感を感じたが、今は気にしないでおこう。気にしたら恐らく負けだ。
　風圧で数人吹き飛ばしてしまった。急いでその数人に聖術をかけ、空を飛んでタマを追いかける。
　他の魔法にすれば良かったかなぁ。

「おい！　あの坊主空飛んでるぞ！」
「うそ、どうやって？　まさか重力を操作？　でもそんなこと不可能なはずだし……まさか飛べるまで風力を魔法で！？」
「んなわけないだろ！　そんなことしたら一瞬で体の中の魔力マターがからになっちまう！　伝説の精霊族ならまだしもよ」
「あれ、怪我したと思ったんだけどな。なんだか体が温かい」
「いてて……？　あれ、痛く、ない？」
「あの子！　聖術まで使ってたわ！　もしかして学院の子じゃない！？」
「しかし制服は来ていなかったし、さっき見てたが冒険者ギルから出てきてたぞ？」
「何者なんだ」

「…………まじかよ」

　なんか下にイケメン吸血鬼も見えた。マフラー巻いてるのは牙を見せないようにかな。まあいいか。
　いやダメか！　注目浴びてるわ！
　なんで！？　空飛ぶのってそんなおかしい！？
　いや、おかしいんだろうなぁ。
　まあ確かにこれも自分の魔力使ってないしね。
　ひとまずタマの方へ。後のことは……まあおいおい考えよう！　てか今考えたくはない！
　……記憶を消す魔法ってあったっけ？
　なんて危ないことを思いついた時にようやく追いついた。

「タマ！　説明ぐらいはしろよ！　おかげでめっちゃ注目されたわ！」
「……まあいいんじゃないか？　冒険者の間では明日にはもう噂になってるだろうし」
「最初と言ってたこと違くない？」
「いやあ、毎回あんなのと絡んでじゃ精神がすり減るからな」
「にしたってだよ」
「そんなに長居するつもりもないし、なんとかなるだろ」
「そういうもんかねぇ」
「お、いたぞ」

　タマが飛び降りる。
　僕も魔法を徐々に弱めてゆっくりと地面に立つ。

　目の前にはアンナを担いだ男とその仲間と思えるのが7人。そして龍が一体とその背にも男が1人くたばっている。
　どういう状況か分からないが、多分一大事だ。