太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

47.冒険者ギルド職員の実力

「……ルドルフ・クレーパーだ」
「えと、アレンです。よろしくお願いします」


 そう言ってルドルフの手をとる。
 彼の視線は僕を舐めまわすように観察する。まるで一種の肉食獣に狙われた獣の気分だ。


「……敬語はいい。俺たちみたいな輩に謙ってると舐められるぞ」
「あら、ルドルフ様がこんな長文を!」
「…………」


 どうやら彼は無口キャラらしい。
 まるで不動だった受付の人が驚いている。
 よっぽど喋らないんだなぁ。
 でも多分優しい……のかな?


「忠告ありがとう」
「……ああ」
「それで、ルドルフ様。早く戻ってください」
「…………」


 動く気は無いとその目が物語っていた。
 いや、なんで動かないのさ。


「……俺はこいつをA+ランクまであげるよう推薦する」
「また勝手なことを!」
「…………お前もわかってるんだろ?」


 受付の人が黙る。
 なにがよ。いや、推薦してくれるのは嬉しいけど、君初対面でしょ。と言えたらどれだけいいか。
 僕も黙っている。


「まあ、彼がそこらのC級やB級とは隔絶しているということは」
「……だからお前が試験監督をしている……そうだな?」


 この人本当に無口キャラ???
 意外とさっきみたいな長文?連発してるぞ。
 そこについて疑問の表情を浮かべていたのだが、彼には別の意に捉えたらしく。


「……こいつはララと言ってな……S級以上の昇格試験の監督を務めている……他のやつじゃ何かあった時に取り押さえるなんて出来ないからな……まあ実力者だ」
「ルドルフ様にそう言ってもらえるとは、ありがとうございます」
「え、でも?」


 でもこのララさんの種族って……人族だよな?
 見た目は完全に人族、というかほかの種族の特徴が見当たらない。ちなみに彼とか彼女とかで呼んでないのはどっちともとれる容姿をしているからだ。髪色は黒、光によっては焦げ茶に見えなくもないけど。服装は職員の制服かな。
 てかルドルフめっちゃ喋るな。。。


「私は人族と小人族のハーフなんですよ。父親が小人族、母親が人族」


 なるほど。
 でも、小人族はそんなに力の強い種族じゃない。
 なんなら人族よりも弱いぐらいだ。とはいえ彼らは至る地域に繁栄しているけどね。
 で、その強くもない二種族の混血であるララさんは実力者だという。


「小人族の特徴ご存知ですか? 小さいのもそうですが、もうひとつあってですね」
「あっ、超直感能力!」
「ええ。アレン様は博識ですね」


 小人族の特徴、というかここまで繁栄できた理由の一つがこの超直感能力と言われている。
 どんなものかは、名前通り直感に優れた能力だね。10割10分当たると言われていて、彼らに未来を占ってもらう人たちもいるらしい。
 これは本じゃなくて、ドロフィンさんから聞いた事だから現在のことだと思う。


「……こいつは超直感だけを小人族から引き継いだ」
「じゃあ身体能力は?」
「……人族だが……それだけでかなり違うからな」


 確かに。相手がどこをどう攻撃するか分かるだけでも違う。なんなら視覚すら必要としないわけだ。言うなれば、第六感か。
 いや、でもこのララさんは実際の戦闘能力も凄いはずだ。間違いない。


「私の勘がアレン様が強いと言っています。ですがやはり人間性を見てからじゃないと」
「……とはいえ、お前の勘だと問題ないんだろ?」
「まあ」


 このルドルフって人の考えがわからない。
 僕は得するけど、この人にメリットってあるのか?
 なにかの罠かもしれない。


「……実力も確かめるついでにこいつと闘わせろ」
「それが目的ですか」


 それが目的か! 本性を表したな! 戦闘狂!
 嫌だなー。それに、実力はもうわかってるって話しじゃん?
 なのに怖くて口に出せない!


「駄目です。もしアレン様が怪我した時どうするおつもりですか?」
「…………」
「はあ、そんなに闘いたいのなら、私が相手になりますよ」
「「え?」」


 ララさんの細目がカット開き、同時に人のものとは思えないほどの威圧を感じる。
 ナニコノヒト……


「……いや…………やめ……ておく……お前とやり合うには……まだはやい」
「そうですか。それではお引き取り下さい」


 ララさんが微笑むと、ふっ、先刻まで出ていたオーラが嘘みたいに消える。
 ヤバイヨコノヒト!
 S+級のルドルフが怖気付いちゃったよ!?
 何が「見えないですよね」だよ!
 お前の方がよっぽどだわ!
 ルドルフが見るからに落ち込んでいる。
 なんか可哀想に思えてきたな。


「……邪魔したな」
「いや別に。僕もやってみたい気はしたからさ」


 少し元気を出させるために言った言葉なのだが、それだけでルドルフとララさんの目の色が変わる。
 あ、しまっ……


「あら、そういうことでしたら。合意の上ですので地下にある魔法闘技場をお使いください。ランクに影響はありませんが」
「……行くか」
「行きませn……行きましょう!」


 睨まれた~!
 やっぱこいつこえー!!
 助けてタマ~! てかタマは!?


「悪いが青年。俺達の仲間が宿で待ってるんだ。また今度でいいか?」
「!?」
「タマ!」


 いつの間に居たのか、タマが助けに来てくれた。
 こいつ本当に頼りになる。ただもう少し早くがよかったかな?
 ルドルフが僕とタマに交互に目をやる。


「……そうか、そういうことならまた」
「ごめんな! じゃあな」


 またな、なんてのは言わない。
 また会ってたまるか!
 失礼? 知らない!


─────────────────────────


 あの男……タマ、だったか?
 俺が気づかないとは。


「…………」
「さっきの方が気になりますか? 実は私も」
「……ああ」
「名前はタマ、ランクはD級、登録したのはだいぶ昔でそれほど活動はしていませんね。個人情報なんで本当は口外するのはダメなんですけど」


 そういうララは全く悪びれた様子ではない。


 こんな大人しそうなやつが俺よりも強いとは世の中驚くことばかりだ。
 そしてタマ、あれはどう考えてもララ以上の実力がある。D級? とんでもないな。恐らくDから割引なんかが追加されるから、一応上げといたようなものだろう。そういうやつは別に少なくない。最も、実力も見合っているが。
 アレンとかいう子どもも俺と同等以上の力があるはずだ。目が合った時に感じたあの違和感、いや恐怖のようなものは一体……まるであいつの中にもうひとつの魂があるような……そんな感じだ。


 その後も観察していたが結局何も掴めず、実際に闘って本性を暴くつもりでいたが、それもララに止められた。


「彼らは敵に回さない方がいいですよ? ま、私の勘ですけどね」
「…………」


 俺はララの言葉に妙な説得感を抱きながらも静かに頷いた。

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