太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

38,急展開!(後半)

「アンナ、やっぱ下がってろ」
「うぅ……」


 出番取られたもんな、分かる。辛いよな。


「今度はお前か。別に一人ずつやる必要は無いのだぞ?」
「優しいこと言ってくれるね。でも俺はそんな優しくはないからな?」


 いつの間にか、タマが槍を持っていた。
 無駄な装飾がひとつもない、シンプルな槍だ。
 ただ、そこらのものとは違う異質ななにかを感じる。


「さあ、いいぞ。かかってきな」


 先程のアンナの時と同じように一斉に向かってくる。
 タマはその一つ一つの攻撃を受け流すでもなく、軽やかな足取りで危なげなく回避していく。まるで次の一手が分かっているかのように。
 そして、相手の一連の動きが終わったその瞬間に攻撃に転じ、一撃で終わらせていく。
 しかも、殺さずに。
 見事としかいいようのない完成された動き。
 数分の内に、周りを囲んでいた数十人もの兵が次々と倒れていく。


 あの村人達が弱いんじゃない。多分だけどあの人数だと僕は厳しいんじゃないかな? もちろん魔法が使えないことを前提でね?
 タマは相手の死角に入り込むのが上手すぎる。
 きっと、相手側は何をされたのか分かっていない。
 ま、あの化け物村長と比べるとね!


「くっ! 何をしている! そいつを早く仕留めろ! 龍のいない龍契者とは言っても一対一では厳しいのだ!」


 村長さん?が苦渋の顔をしている。
 んー、実際、龍契者となりたての太陽の申し子だとどっちが強いのかな?


─もちろんあなた─


 あ、ルビアス
 壊せるか?


─龍は竜の力を持っているけど、それこそ上位龍じゃなければ足元にも及ばない。つまり─


 なるほどな
 その知識がどこから来たのか知らないが、ひとまずやってくれ


─いいの?─


 どうしてそんなこときくんだ?


─だってどっちみちもう終わるでしょ?─


 まあ、そうだな


─じゃあわざわざ目立つ必要は無い?─


 たしかに
 じゃあなんかあったときに頼むな


─アレン報告遅いし危険を察知したらすぐに─




「さてさて、もうあんただけだぜ?」


 心配するまでもなくもう終わりか。
 タマが槍の切っ先を村長に向ける。


「不甲斐ない、な。だが、私をそいつらと同じように見ると痛い目を見るぞ」


 その言葉が終わった途端、村長さん?の体が光出した。
 こう、ボワーっと。
 ピカーじゃないぞ! ボワーっとだ!


「なるほどなるほど。大聖女を祀ってんだもんな、  聖気オリジンソウルが使えても不思議じゃないか」


 あ、これ聖気なのか。
 回復…では無いよな。


「よしアレンくん。ここでもお勉強だ。聖気の効果や、使い方は知ってるか?」
「え? ああ、聖気は魂の根源の力であって浄化や回復効果が主な使い方なんでしょ?」
「半分正解だな。たしかにそれが単純で簡単なんだが」


 ま、実際に見た方がわかりやすいなと呟くとタマは片手を正面に構えた。


「聖気というのは魂の力。つまり生命力のこと。これを俺レベルまでに鍛え上げると……」
「はぁぁあ!」


 バタッ


「こうなる」
「は?」


 突然村長さん?が倒れた……
 いや、意味がわかりません。


「あくまで極めたやつが行える技だ。一般には【死の禁術】とか言われてるな。要するにあれだ、相手の生命力を奪ったってことだ」


 サラーっと言ってるけど、殺したの?
 実にあっけなく、恐ろしいな。


「ああ、まだ殺してはないぞ。ギリギリで止めておいた。だが、このままだともって数時間が限界だな」


 直ぐに殺さないってのがさらに恐い。


「いやいや、たしかに僕らを殺そうとしたけどさ。何も問題なかったんだし生かしてあげても……」
「甘いわね。そうやってると思わぬところから裏切られるわよ。あの女の信者は至る所にいるから」


 アンナがまるで自分で経験したかのように語る。


「生かしたいか、そうだな。お前自身の力でやってみろ。俺は何もしない」
「え」
「やり方はさっきの逆だ。奪うのができるなら与えることも出来るだろ? だが、与えすぎてもいけない。そいつに見合った量にしないとな。じゃなきゃ器が壊れる」
「そんな、無茶な」
「だったらやらなくてもいい。説明をもらうためだけに殺してないだけだからな」
「……」
「とりあえず先にこっち終わらせるからな」


 タマが、僕が返事をしないのを悟り行動に移る。


「さっきの感情どうのこうののやつ、あれを少し応用するだけで相手の記憶を読み解くことが出来るんだ。精神を鍛えてる奴や聖気をそれなりに使える奴には少し、抵抗されるんだがな」


 話しながら村長さん?の額に手を置く。
 彼の顔色がみるみる悪くなっていく。
 そして、タマはものの数秒で手を離した。


「なるほどね、階級か」


 タマが一人納得したように頷いている。


「こっちは終わった。あとはお前次第だ」
「……わかった」


 いや、分かっていない。
 やり方なんかよりもここで助けることが正解なのかどうか。


─そんな小難しいこと貴方が考える必要は無い─


 だけど、僕は太陽の申し子なんだし


─ふん。貴方を悩ませる厄介事は全て私が喰らい尽くしてやる。だから心配することなんてない。助けたいと思ったのなら助けるべき─


 そう、か
 そうだな
 自分がどうしたいかが大事だもんな


─失敗も恐れなくていい。私がなんとかしてあげるから─


 やっぱお前は頼れる相棒だな


「よし!」


 聖気を操るのは簡単じゃない。
 でも、 相棒ルビアスがいるのなら……

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