太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

31,旅の目的

「ちなみにだけど、僕にもなにかあったりとかは?」
「む?!」


 む!?


「ソウイエバワシ、コノアトヨウジガアルンジャッター。お先に失礼するぞ。まぁアレン、頑張るのじゃよ」
「……うん」


 ものすごい速度で去っていった。
 ……きっとその用事とやらがよっぽど大事なんだろうさ。


「ねぇ村長。いや、お義父さん?」
「ビクッ! ……お、そうだな」
「だよね! そうこなくっちゃ!」
「ま、まぁそれは用意が大変だからな。またいつか、いつかちゃんと渡すから!」
「ふぅーん。いつか、ねぇ」
「いや本当に! ちゃんと送るから! だから今は待てって!」
「……はぁ。いいよ無理しなくて。本当は用意なんてしてないんでしょ? 分かってるから」
「……すまん」
「いや、謝らなくてもいいよ。勝手に期待してたのこっちだし」


 そう。確かに寂しい気がしない訳では無いけど、ここまで育ててくれた事にも感謝してるんだし。
 本当は僕の方からなにかプレゼントしてあげたいんだけどな。


「じゃ、今度こそ行くよ」
「……おう。気をつけるんだぞ! 嫌になったらいつでも帰ってこい! それと、一番大事なのは自分の命だ。相手のことを考え過ぎて死ぬようなことはやめろよ?」
「はは、まぁなんとかするさ」
「アレーン、本当に行っちゃうのー?」


 スーが目をうるうるさせてきた。
 よせ! そんな顔をするな! 僕の決意が!


「ごめんなスー。ちゃんと戻ってくるから」
「……約束だよー?」
「あぁ」


 グッと堪えて返答する。
 あとは、リアか。


「リア」
「早く行きなさい。決心が緩むわよ」
「ええ、もっとなんか……」
「うるさいのがいなくなって清々するわ」


 おぉん。辛辣ですね。
 幼なじみ3人組としてもっと感動的なあれを期待してたんだけど。
 さっきから期待し過ぎか。
 これ以上、なにかを期待して裏切られると流石に心臓に悪い。というより、もう既にヤバいけど。


「……まぁ、そっちで会うかもしれないから。その時はよろしく」
「ん? それはリアも外に出るってことか?」
「……さあね」
「そっか。じゃあ、また会おうな!」
「えぇ」


 リアが小さく返事した。
 よし、では行こう!
 さぁ待っていろ! 災禍達!
 ……いや、やっぱり待つな。というか来るな。




─────────────────────────




「行っちゃったねー」
「……」
「リ、リア?」


 スーが声をかけてくれているけれど、私の耳には届いていない。
 本当に、ばかだわ。アレンも、私も。
 あー、さっきまで堪えてたのにもう限界ね。
 まぶたの裏が熱い。
 頬に冷たいものが流れるのがわかった。
 止まらない。止められない。


「うぅ…ぐ……ヒック……ヒック……」
「リア?……そっか」


 スーが肩に腕を回してくれた。
 温かい。


「思いっきし泣いてもいいんだよ? 誰も笑わないから、自分の感情に逆らっちゃだめ」


 ふふ、こういう時のスーって別人よね。


「うぅ……あり…ヒック…がと……」


 それから私は思いっきり泣いた。
 涙も声も、もうこれ以上出ないってぐらいまで。


─────────────────────────


 みんなの姿が見えなくなるまで歩いた所にルイフ達が待っていた。


「お待たせ」


 ルビアスの体を撫でる。


「もういいのか?」
「うん。なんか少し釈然としないけどね」
「???」


 タマが首を捻ってみせる。
 ……心は、読まれてないな。
 こっちの面もだいぶ良くなってきた。
 多分もうほとんどが僕の心の中を覗くことは出来ないと思う。
 こったからは見てやるけどな!


「大丈夫か?」
「うん」
「そうか」


(それでは、アレン様にルビアス様。お気をつけて。)


 あれ? ルイフは来ないのかな。


(私には王種としての役目がありますので。)


 やっぱりルイフからは隠せれないなー。
 これが王種か!


「……因みに、王種の役割ってのは?」


(いくつかありますけど、虹炎鳥としての仕事は『魂の管理』ですね。)


 魂の管理……あぁ、長老が言ってたか、


「大変そうだな」


(それはもう。)


 ルイフが笑う。
 笑ってるんだよな? やっぱり表情分かんね。


(あぁ、まだ旅の目的を話していませんでしたね。)


 ん? そう言えば、そうか?


(アレン様にはこの世界を見てきてもらいます。見聞を広げてもらうために。)


 ほうほう。


(ですが、世界をただ回るだけではただの観光と変わりないです。)


 え……?


「観光じゃないのか?!」


 僕の言葉を聞いて、まるでルイフはやれやれと言うように首を振る。
 なんだよー。


(まぁいいでしょう。それで、アレン様方には全王種と会ってきて欲しいのです。)


 全…王…種……
 12柱全部……?


(その通りです。)


「マジデ?」


(えぇ。逆に言えばただそれだけです。他にどうしろとは言いません。)


 ん? そう言われてみると楽なことなのかな。
 いや待て騙されるな!
 王種と会うこと自体が普通は難しいんだ!
 それに危険だし……


(否定はしません。)


 そこはして欲しかったなー。
 そいや、前に金虎にはあったんだけど、それはカウントされるのかな。


(はい? 今なんて?)


 いえ! なんでもないです!
 調子のってすみません!


(いや、怒っているのではなくてですね。今、金虎と言う単語が?)


 え? あぁ、うん。
 あのいざこざがあった時の前かな。


(彼が……そうですか。)


 おっ? それで?
 免除かい!?


(それとこれとは別ですね。頑張ってください。)


 なんてやつだ……!


(それと、今のアレン様の実力だと、吸血鬼族以上の相手には敗北が予想されます。王種が相手だとすると、本当に死ぬかもしれません。)


「……待て、なんか聞いてた話と違くないか?」


 確か以前、ルイフは太陽の申し子は不老不死である。って言ってたはずだ。


(間違っていませんよ。竜を倒すことが出来る者は限られています。今なら、王種はルビアス様を倒すことは可能です。したがって、アレン様は死ぬ可能性があります。)


 なんだって……


(だからこそ修行したのですが。)


 でもいまさっきルイフが、吸血鬼族以上の相手には負けるって……


(あぁ、それこそ杞憂ですよ。人相手にルビアス様が負ける要素など、ほんのひと握りしかありません。それこそ、破壊の権化ディストぐらいですかね。)


 じゃあ、大丈夫なのかな。
 そのひと握りをもっと詳しく知りたいけど。


(ふむ、それもそうですか。では伝えておきましょう。)


 おっ! 助かる!


(では……

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