太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

30,旅立ちの時

 
 僕は今、猛烈に緊張している。
 なんて言ったって今日が、待ちに待った旅立ちの日なのだから!
 ほら、こんなにも多くの子が見送ってくれている。こんなにも多くの……って。


「なんでお前らだけなんだよォォォお!!!」
「む?」
「ん?」
「あら?」
「えー?」


 来ているのはあれだ。
 いつものメンバー、というかこれドロフィンさん見送ってたのと同じじゃ…?
 うぅ、違うもん!
 ぼくもっといっぱい友達いるもん!
 こんなんじゃないもん!


「はぁ、うるさいわね」
「全く、私も同意見だわ」


 おいそこの女子二人! アンナは歳あれだけど。
 なに意気投合してんだ! しかも僕に対する愚痴で。
 アンナは、本当はタマとルイフと一緒に後で合流するはずだったんだけど、多分長老と村長に挨拶したかったんだろうね。
 だから二人は初対面のはずなんだけど……
 仲良くなるの早すぎないか?
 そんなもん? 僕がともだちつくるのが苦手なだけ?
 うぅ、違うもん!
 ぼくは沢山友達をつくるよりも数少ない友達を大切に作る派だもん!
 いや、沢山友達いるもん!


 ゴホン


「うし、じゃあそろそろ行こうかな」
「うむ、そうか。気をつけるのじゃぞ?」
「大丈夫だろ。なんていったって俺の息子で尚且つ弟子なんだぜ? そうそう死ぬこたねーよ」
「そうかのう」
「もちろん! そんな簡単に死ぬわけないじゃん。また生きて帰って……」
「待ってアレン。それ以上はいけない」
「え?」


 アンナに遮られた。
 なんだ? 危険予知か?


「それにしても、私もお世話になったわね」
「ほう? お礼は言えるようになったか」
「……やっぱりなんでもないわ。アレン行きましょ」
「えぇ! ちょっと! もう少し話をさせてくれ!」
「おい爺、意地悪言ってやるなよ」
「ふん。いつまで経っても生意気な小娘に何を言おうが勝手じゃろう」
「……いつまでもって、数ヶ月じゃない! あー、ほんともういいわ。無詠唱とか教えてくれたことには感謝してるけどもう会うことは無いわ。じゃあね」


 なんだこの師弟は!
 ツンデレ同士かコノヤロウ!
 因みにツンデレって言うのは…え? 興味、無い?
 あ、そうですか……


「ほら待て。お主に渡しておこうと思っていたものがあるんじゃ」


 長老が懐から何か取り出した。
 ん? なんだそれ。石?
 石にしては透き通ってるし、水晶にしては光沢があるな。


「ほれ」
「……これは」


 アンナは分かったのか。
 僕には何かわかりません! なんですかそれ。


「純度99%の超高純度魔晶石じゃ」
「やっぱり!」


 おおー!
 きっと凄いんだろうさ。99%だぜ?
 すごくないわけが無い!
 アンナもこんなに驚いているんだし。
 いや、そこまで驚いてない? なんか あーまたか、もう慣れた慣れた。みたいな顔してる。


「こんなもの、一体どこで……」
「それなにに使うのー?」


 ナイスだスー! ちょうど僕も聞きたかった!


「え? 知らないの? えっとね、魔晶石ってのは魔原石を加工したもので、錬金術とか極大魔法を発動する時に核として使われてるの。純度が高ければ高いほど魔力循環が良くて、より早く、より強力なものになるのよ。でも、普通は70%が限界って……」
「そうじゃ。魔晶石、別名 虹炎石とも言う」


 ん? 虹炎石?


「長老、その名前って」
「流石アレン。お前が考えている通り、王種である虹炎鳥から取られておるぞ」
「……なんで?」
「理由はな、この石が魂の棺桶の働きを持つと言われておるからじゃ。虹炎鳥は『魂を管理』する【王種】。それ故に虹炎石と呼ばれておる」


 魂の棺桶か……興味深いな。


「ちょっと覗いてみても?」
「もちろん良いぞ。ただ、間違ってでもそこにある魔力に命令をしちゃならんぞ! 希薄で分かりづらいじゃろうが、その中には儂が長年かけて溜めてきた魔力がある。命令してもし、少しでも制御が出来なくなれば……ただの爆発では済まんのは分かっただろう? よいな? 決して命令するでないぞ?」
「……ええ」


 なんて危ねぇもんを隠し持ってやがったんだこの爺さんめ!
 ていうか、なんて危ねぇもんを渡してきてんだこんちくしょう。
 お? アンナが真剣な顔になって魔晶石を見てる。
 ……アンナの額から汗がどんどん溢れ出てくる。


「アンナ……? どうした?」
「……ちょっと黙ってて。慎重にいかないと暴発する」
「は? ……あぁ、うん。了解」


 そんなに危険なのか。
 というよりも制御が難しいのか?
 一体どんだけ長いこと溜めてきたんだか。


「よし、大丈夫」
「終わったか?」
「ええ」
「それで? どんな感じなんだ?」
「そうね。……よく、分からなかったわ」
「ん?」
「分からない。私じゃ全部把握出来ない」
「ほっほっほ、当然じゃ。儂の人生の半分以上をかけているのじゃぞ? 毎日毎日自分の出せる限りの魔力を注ぎ込んで。まぁお陰様で儂の魔力量も循環速度も嘘みたいに早くなったがの」


 毎日って……何してんだこの人。


「えっと、これを私に渡したのはなんで?」
「ふむ、確かに今のお前さんにはこの巨大な魔力は扱えきれんじゃろう。じゃが使えなくても、使わなければならない時がいつかくる。儂はそう思っておる。もとより、儂は老い先短い半分死人のようなもの。そんな儂が持っておるよりお主に渡しておいたほうが何かと役に立つじゃろ」
「でも……」
「いいんじゃ。しかし、借りを作るのが嫌だと思うのなら、そこにおるアレンを助けてやってくれ」
「え?」


 ん? 僕?


「こやつは力も持っておるし正義感もある。じゃがのう……いろいろと抜けとるんじゃ」
「あぁ、それはなんとなく分かる気がする」
「おい!」
「そうじゃろ? 力も知識もあるが、それを利用されるかもしれんし。もっと大事なとこと言えば、常識がない」
「ねぇ、言いすぎ……」


 長老が自前の長い顎髭を撫でる。


「別にお前を馬鹿にしておるわけじゃない。この村の者はハーカバよりも向こうに行ったことがないのじゃ。つまり外界の者が当たり前に知っとることも知る術がない。いや、あることにはあるかもしれんがの……」
「なるほどね。私は子守役ってわけ」
「うむ、まあそういうことじゃな。どうじゃ?」
「分かったわ」
「契約成立じゃな」


 なんか話まとまっちゃってるけど、君たちさっきまで険悪なムードだったのでは?
 二人ともいい歳してやっぱりツンデレかよ!
 違うか。

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