太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

28,vsスー&マスコル

「なあ、ちょっと待ってくれ」
「なんでー?」


 目の前に対峙してようやく気づいたことがある。
 え? マスコルの攻撃喰らったら、僕は死ぬんじゃないか?
 だってリアと違って剣じゃないからコーティングとか出来ないし。
 普通に打撃とかやばくね!?
 それに加えて蟲人インセクターのスー君でしょ?
 あれ? なんで僕はこんな危ないことをやっているんだ?


「もーいいー?」
「待て」
「えー」


 どうする?
 魔物相手に手加減なんてしたことないぞ?
 間違って殺っちゃうのも怖い。
 むー。
 もしもが怖いけど、待たせてたらより怖いことになりそうだ。
 ん? まてよ?
 僕って不死じゃね?
 そうだわ不死だわ。
 何をこんなに焦ってるんだか。


「よし、いいぞ」
「おっけー」
「それじゃあいくわ。よーい……」


「始め!」


 いきなりマスコルが突進してきた。
 鈍い……
 難なく躱す。
 あれ? スーは?


「おりゃー!」
「あっぶっっっ!」


 僕の気をマスコルに引かせて真横から殴りかかってきた。
 はい。死角でした。
 まぁ避けれちゃうんだけどねー。
 理由は簡単。ほら、前ルイフに魔力の波を常時感知できるようにしろとか何とか言われてたことがあったっしょ?
 あれね、出来るようになるまで時間がかかったんだけど、それでもやった甲斐があったね。
 だってあれ、自分のが完璧に分かるようになると、ほんとに少しだけど、他の生き物のも感知できるようになっちゃうんだよ。
 だからね? 後ろから攻撃を狙われようが、それが生き物なら分かってしまうわけだよ。魔法だったら余計に。
 だから避けれちゃったぜ。
 ちょっと危なかったけど。
 ……ちょっと。
 これも鍛えればもっと分かるようになるんだろうなー。
 旅の合間に練習するか?


「むむー」


 一方、スーは気に食わなかった様子。
 まぁな、常人は避けれないからな。
 っと、またマスコルが突っ込んできた。
 今回は先程とは違い、速い。
 でも、リア程じゃないかな。
 これまた躱す。
 スーは……突っ立っている。
 マスコルが片腕を振りかぶり、そのまま薙ぎ払う。
 これは避けれないな。
 仕方ない、受け流せ……ない!?
 体が吹き飛ばされる。
 しっかり踏ん張っていたのにこれだ。
 空中で身をねじって上手く着地する。
 ふむ、総合的なものではリアが上だけど、単純な力では魔物であるマスコルの方が強いようだな。
 つまり、その技術的な部分で相手をしないといけないのだけれど。


「せいやっ!」


 ドゴンッという鈍い音と共に砂埃が舞う。


「はぁ!」
「っと」


「てや!」
「ほっ」


「この!」
「よっ」


 その砂埃に紛れてスーが連続で攻撃を仕掛けてくる。
 そうだな。マスコルの足りない技術的なところはスーが補っているのか。
 いくら魔力から気配を察知したって、普段目に頼っている僕にこれはきつい。
 だから吹き飛ばしちゃえ。


「え? ……あれ?」


 強風が吹いたことで砂は飛ばされ、周りが丸見えになる。


「いやぁ、いい風が吹いてくれたなぁ? ラッキー」


 はい。ラッキーではなくて魔法です。
 風を起こして飛ばしました。
 くくく、だがこれで僕がやったとはスーにはバレまい!
 つまり姑息な手を使ったと思われずに勝てる!
 別に魔法が姑息な手だとは言われないと思うけど、素手相手にだとねー。
 いや、武器は持ってるけど?
 それはそれ、これはこれ。
 とりあえずこれで視界は確保できた。
 あとは攻めるだけ。
 ずーっと守りっぱなしだと埒が明かないし、つまらない。


 でもなー。スキがないんだよなー。
 正確にはあるんだけど、片方がそこをカバーしてくる。
 完璧なコンビネーションだね。
 目くらましを使って隙を作ろうが恐らく攻撃してくる。
 さっきだって砂で見えにくいはずなのに、ものすごく精密に狙えてたし。
 なんか手がないかなー。
 あ。
 マスコルに向かって駆ける。


「あーっ!」


 スーが後ろを追いかける。
 ふっ、だが僕の狙いはマスコルであってマスコルではないのだよ。
 マスコルに剣を振るう。と見せかけてスーの方へ向きを変える。


「あ、ちょっ」


 鈍い金属音が響く。
 その音と同時にスーが吹き飛び……はしなかった。
 こいつ! 踏ん張ってやがる!
 やっぱり蟲人インセクターはおかしいよ。
 こちとら補助魔法使ってるんだっつーの!


 僕とスーが同じ状態で固まっているところを、後ろからマスコルが突進してくる。
 ヤバい。直撃する。
 体当たりを直にくらい、僕の体は宙に投げ出される。
 ところどころ痛いけど体勢を立て直さないと。


 既に地面が迫ってきている。間に合わないか。
 あー、これは痛そう。


「!?」


 刹那に視界に黒い物体が流れ込んできた。
 いや、これは……


「はぁぁぁぁぁぁ!」


 スーが、ただ落下するだけの僕を狙って拳を振り上げる。
 その瞬間、僕の意識は一瞬手放された。。




 そして、気づいた時には周りが歓声に満ち溢れていた。
 それを悟るのにそこまで時間はかからなかった。


 負けた。
 くぅー!! ま・け・た!!!
 意地張って姑息な手を使わないとかやらなければ良かった!
 余裕ぶっこいて負けるとか……ダサい。


 1人そう落ち込んでるとスーにリアが駆け寄ってきた。


「ふふー、どー? 強くなったでしょー!」
「アレンってほんと頑固よね」


 むっ、リアは気づいてくれたか!
 まぁあんだけ魔法使ったしな。


「そーだなー。マスコルとの連携が嘘みたいに良くなってた。これも教わったのか?」
「そーだよー。最初はねんわ?とかいうやつを教えてもらってー。それで声を出さずに連携を取れるよーになって、その後に立ち回りを教えてもらったー!」
「いやぁ、それだけでこんなに変わるんだな。まいったよ」


 選ばれる前も勝てるとは思わなかったけど。
 しかしなんだ。魔法が使えないだけで、こんなに違うもんなんだな。
 やっぱり魔法って便利!と、もっと魔法以外でも動けるようにしないとな。


 ルビアス


─ええ、もちろん見てた。でも、私たちには時間がある。ゆっくり頑張っていけばいい─


 そう……だな。
 いつくるか分からない災禍に抗える力を早くつけたかったんだけど。


─そんなに急いでも無意味。今はまだ、王種とかその下の龍達にも敵いそうにないんだもの─


 そうなのか?
 魔力の質とか、諸々含めてか?


─そう。ルイフの話を聞く限り吸血鬼ヴァンパイア族やエルフ族にも勝てないかも─


 まじかー。
 じゃあやっぱり、もっと早く強くならないとな。
 負けることはなくても勝つことも無い、か。
 まだ無敵には程遠いな。


─とりあえず、今はお疲れ様─


 サンキュー。

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