太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

27, vsリア

 広場の中心へ移動する。
 目の前にはリアが、2本の木でできた稽古用の剣を構えている。
 ……なるほど。やっぱり双剣か。
 手数は多くなるし、相手の攻撃を躱すことが出来るリアにはぴったりだな。
 ただ、儀式の時は一振りしか配布されなかったからそれだけでやっていたけど。
 つまり、これが本来のリアの武装。
 前回は圧倒的な手数におされて手も足も出なかった。
 今回は、どうだ?
 そして開始の合図が……
 っとその前に。


「リア、その稽古用じゃなくて、普通に愛用の剣って持ってきてるか?」
「え? あるけど……なんで?」
「いいから、ちょっと貸してみな」
「??? 分かった」


 リアから剣を受け取る。
 そして自分の『カミューナ』も取り出す。


 これを、こうして、こう、と。
 刃付近にコーティングを施す。
 村長との模擬戦の際に、誤っても相手を殺さないようにとやっていたことだ。
 まぁ実際、実戦で使う剣でやった方が練習になるしね。
 だからわざわざこんなことをしてたんだけど。
 それをしっかりと覚えてた僕って偉い!


「よし、刃の部分を覆っておいたからこれで切っても切り傷にはならない」
「あ、ありがとう?」


 でも、リアは少し驚いているようだった。
 うん、僕も初めはビックリしたから分かるぞ。
 まず何をしているのか分からなかったけど。
 リアに剣を返して、改めて。


「じゃあスー、合図お願いね」
「え、あ、うん」


「じゃあいくよー。よーい……」




「はじめ!」


 合図と同時にリアが地面を蹴って距離を一瞬で縮める。


 速い。


 でも、見失うほどでもない。


 そのまま突きを狙ってくる。
 ……これは遅い。
 それを受け流し、手首を狙う。


 が、流石は超人。
 狙いに気づいたか距離をとる。
 うむ、だが距離を取ったところでだ。
 無詠唱で魔法を発動。
 地面を泥に変えるあの魔法。
 そう、長老がやってきたあの卑劣な魔法だ。


 リアは泥濘に足をとらわれて動きが鈍くなる。


 ちゃんと自制して制御しましたとも。
 じゃなきゃリアは今頃地面深く潜って行っております。


 だが、それもつかの間。
 ものの数秒でそこから抜け出される。


 補助魔法か。
 恐らくこれも教わっていたんだと思う。
 前までリアは魔法なんて使ってなかった。
 正確には使えなかった、かな?
 僕にはタマがいたけどリアにはそんな存在いなかったろうし。
 あ、でも少し教えたっけ。


「はぁぁぁあ!」
「ちょ、やば、」


 考えてる余裕すら無くなってきた。
 補助魔法を自らにかけたリアは先程よりも果敢に攻めてきた。


 やばい。
 手数が半端なくて捌ききれてない!


 その証拠に僕の体には少しずつ痣が出来てきた。


 回復していいっすか?
 いいよね!


 光魔法の延長線である回復魔法。
 そんなものは使わない。
 なんて言ったって僕にはルビアスから流れる聖気があるからね!
 それを使って体の少しの傷を癒す。
 淡い光が傷を覆う。
 魔法なんかよりもっと簡単で早い。


「え、反則……」


 リアがなんか呟いているけどそんなことは知らない。
 けど、このまま防戦一方だと勝機が見いだせない。


 なにか、なにかいい案が……


 いい案も何も、同じことすればよくね?
 それで解決じゃね?


「ふ、リアよ。君だけが使えるわけじゃないのだよ」
「……」


 無視された。
 こいつー!
 いいし、手加減とかもうしないし。
 うん、手加減してたんだよ? ちゃんと。
 だってこう見えてリアも立派な女の子なんだし。
 ……立派な、、うん。
 これ以上は失礼だな。やめよう。


 補助魔法発動。


 途端に形勢が逆転する。
 さっきまで劣勢だった僕だが、今は逆に押し返し、リアが防戦一方になった。


「くっ」


 えー、今回使用したのは最後の修行でも使った『攻撃力付加エンチャント・パワー』に『速度付加エンチャント・スピード』の2種。
 長老が使ってた方のは、流石に無詠唱ではキツそうだからこっち。
 でも、これだけで覆るのはリアがまだ魔法が未熟であることと、僕が魔力の質を上げたからだ。
 だって放出系の魔法じゃないからねー。バレないバレない。


 徐々に徐々にリアが反応できなくなってきた。
 このまま押し切ればこちらの勝ち。
 リアに何かしらまだ奥の手があれば、まだ分からない。
 けど僕の勝ち確ではあるよねー。
 だって僕にはまだまだ余裕があるし。
 でもリアにはそんなわけない。
 今もどうしようか考えているはずだ。
 模擬戦だってのに凄いね。


「……私がこの補助魔法だけ、を教わったと思ってる?」
「ん?」


 リアがそんなこと聞いてきた。
 でもそれってつまり、


「おおっ!?」


 不意に、リアの剣術が変わった。
 今までは、ただただ攻めるだけを意識した動きだったのが、今度は守りを重視した動きになってやがる。


 なんでそんなことが分かるかって?
 その瞬間から僕の攻撃が全て見切られているからだよ!


 躱され、受け流され、攻撃を狙う前に撃ち落とされ。
 こっちだって当たることはないけど、リアに当たることも無い。


 もう一段階質を上げるか?
 いや、そんなことして勝ったところでルビアスに頼りきった勝利でしかない。
 太陽の申し子サージェビクシュとしてはそれが正しいのだろうけど、それは僕が許せない。
 できる限り自分の力でやりたい。
 それで負けるようならそれはそれ。
 大事な時には流石にルビアスにも頼るけど。


 ─いつでも頼ってくれていい。私はあなたの太陽なのだから─


 ああ
 だけど今回は、まかせてくれよな


 ─私はあなたを見守っている─


 ありがとう


 さて、じゃあどうするかな。
 攻撃を当てられず、逆に当たることも無い。
 ただそれだけ。
 それならあとは我慢勝負だな。
 どちらが先に力尽きるか、体力的にも精神的にも。
 そして、その決着はもうつきかけている。
 だって、嫌でもこっちは身体能力は上がってるわ、聖気は使えるわ、精神も鍛えてるわで負ける要素がないもん。
 うん、盛大にかっこいいこと言ったけど、やっぱり僕はルビアスに頼っているんだな。
 まぁこればっかりは仕方ないよね……?


 その予想通り、リアは息が荒くなり、剣を持つその腕が上がらなくなってきた。


 この勝負、もらった。


 リアが気を抜いた瞬間に懐に潜り込み足を払う。


「しまっ」


 すぐに立ち上がろうとするリアの喉元にカミューナの切っ先を突きつけ、


「そこまでー!」


 スーの声がかかる。


「勝者ー、アレーン!」


 鞘に輝を戻し、リアに手を差し伸べる。


「あーあ、まさか負けるなんてね」


 僕の手を取りながらそんなことをリアが呟いた。
 そうだな、以前までなら確実に負けていた。


「いや、リアも随分と強かったよ」
「ふふ、ありがとう」


 負けそうだった。なんてお世辞は言わない。
 絶対に勘づかれるだろうし、そんなことをリアは望まないだろう。
 だからただ強かった。それだけ言えばいい。
 実際、成長率は他の子と比べて桁違いだとは思うし。
 だってまだまだだとはいえ、この太陽の申し子サージェビクシュである僕とほとんど対等に戦えていたのだから。
 しかも体力で勝つとかいう地味な勝利になったし。


「アレンにリア! 凄かったぞ!」
「いい勝負だった」
「今度俺ともやってくれ!」
「私は教わりたいな」
「いいなそれ! 全員で教えてもらおうぜ!?」


 最初から見ていたみんなが口々に感想を述べてくれた。
 みんなに教えるか、楽しそうだな。


「そうだな。なにか機会があれば」
「ええ、私も」


 リアはそれに賛成のようだ。
 でも僕はもう出ていくし、その機会があるのかは分からないけど。


「さてアレン、2試合目ね」
「ん? ……あ」


 不意に言われてなんのことか分からなかった。
 そうだ。まだあった。


「よーし。やるぞー!」
「はあ……明日じゃだめ、か?」
「だめー! さっきの見ててうずうずしてきたんだもん。なー、マスコルー」
「あーはいはい。じゃあ少し待ってな。疲れた」
「3分間だけまっt……」
「よしやろうか!」
「急にどうしたのー」
「いや、なんか世界が滅びそうな気がして」
「へんなのー」

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