太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

7,名付け

 よぉーし、今日の見回りも終わり!
 帰って魔法のお勉強だ!


 スーとマスコルが修行を始めて4日が経った。


 リアはあの後報告に行って、なにかしらの賞をもらってた。
 凄いね!
 そのあとはずっとスー達のお守りについている。
 で、そのスー達は今日もガロゲロを狩っている。
 もう慣れたもので、最初に比べ、明らかにレベルが上がってる。


 あれならリアとも殺りあえそうだな!
 ……逆にあれと殺りあえるリアってなんだ?


 ともかく、他の子達も特にこれといったことも無く、合格者も増えてきている。
 そして見回りに入る子も数人増えてきたから、特にやることは無い。
 だから、今はタマに魔法を教えて貰っている。


 なのに使えない!
 言葉は合っているはずなんだけど、何故か発動しない。
 悲しくて泣きたくなったぐらいだ。
 でも、諦めるつもりはない。
 今は使えなくても、いつかは使えると思うから。
 それがどういう形であれ。


 !!!?


 ほとんど下り終えたところで、誰かの叫び声が聞こえた。
 いや、この声はまさか!


 急いで声が聞こえた方に向かって走る。


 そこには一体の神々しい獣と、ブランドンとジョンがいた。


 あの獣は……


「アレン、何があった!」
「どうしたのじゃ?!」


 村長と長老が叫び声を聞き付けて駆けつけてきた。


「あ、あれは……カーバン…クル?!」


 長老の声が震えている。が、無理もない。
 カーバンクルと思わしき獣を中心に、半径10m内の木々がミシミシと音を立てている。
 それは恐らくカーバンクルの放つ威圧によるものだろう。
 僕は力が入らなくなり、立っていることもままならない。
 逆に、この場で発言できた長老をすごいと思う。


 カーバンクルは危険度7の獣。
 魔物ではなく、一種の神のようなものとして崇められている。
 実際、僕もカーバンクルは森や山の番人や守護神と聞かされていた。
 その姿は、額に緑色の宝石のついたリスという事だが……


 兎のような長い耳。
 鹿のような端正な顔。
 狐のような鋭利な牙。
 狼のような大きな体。
 額には炎のような真っ赤な宝石。


 ……カーバンクル?
 長老が言うからそうなんだろうけど。


 カーバンクルの紅い瞳がこちらをチラリと見た。


 その瞬間、意志とは関係なく体がガクガク震え始める。
 そして感じた、金虎を見た時のような……あの絶望的なまでの恐怖を。


 長老も同じように震えている。
 まだ立っているのがすごい。
 カーバンクルは興味を失くしたかのように、再び2人へと視線を戻す。
 2人は気を失いかけているようで、意識が朦朧としているのが分かった。
 あのプレッシャーを浴びてまだ耐えてるのか、あの2人も尊敬に値する。


(人間よ。今ならまだ許してやる。さぁ、はやく我らの宝を返せ!!!)


 !
 っ頭が……!
 なんだ……これ……?!
 心……じゃない!
 頭の中に……言葉が……!!
 それに……なんだ?
 返せって……あの2人に……言っているのか……?
 カーバンクル……が?
 宝って……一体……?


 2人は返事を返さない。
 いや、怯えて答えられないのか……?


(返さぬか。ならば力づくで奪い返すまで!)


 カーバンクルが2人に飛びかかる。


「っさせん!」


 それを長老が魔法で光の盾を張り、防ぐ。


「ぐ……!」


 パリンッ


 盾が砕ける。
 が、その反動でカーバンクルも後方へ飛ばされる。


(人間! 貴様も邪魔するか!)


 音もなく着地するとまた思念を飛ばしてきた。


 あれ? 頭の痛みが無い?
 動くことは……
 やっぱできない……
 クソ!


「くぐ……! 偉大なる山の守り神カーバンクルよ! 怒りを鎮めたまえ!」


 頭を抑え、痛みを我慢し長老が大声で叫んだ。


 だが、


(怒りを鎮ろだと? 貴様ら人間は我らが宝を奪った挙句、我に指図するか。良かろう、貴様から葬ってくれる!)


 火に油を注いだだけだったようだ。
 次は長老へと飛びかかる。
 しかも先程よりもなお速い。


「ふんっ……ぬ!」


 長老は光の盾で防ぐが……今度はなんとか凌ぐ。
 よく見ると盾の枚数が増えている。1枚では持たないと判断したのだろう。


氷槍アイススピア!」


 盾で防ぎ、そのままカウンターを狙う。
 氷の槍が複数本宙に現れ、カーバンクルへ向かっていく。
 だが、カーバンクルは後ろに跳んでそれらを全弾躱す。




 両者互いにに譲らないこと数分。


 まずい、長老にだいぶ疲労が溜まってきている……
 このままだと。


 カーバンクルが、今度は連続で、打撃を仕掛けてくる。
 長老は後退しつつも盾を張り続け、それを耐える。
 もう、防戦一方だ。


「……せよ。迅速剣・冥!」


 その時、カーバンクルの一瞬の隙をついて村長が飛び出し、横腹を斬りつけた。
 長老だけで戦っていたのは、集中力を高めるためだったらしい。


(クッ!? 毒……か。)


 カーバンクルから血が吹き出す。
 しかし、倒れることは無く、そのまま2人を睨み続けている。
 目は充血し、口から血が流れ出てくる。


 なんでこんな……?
 カーバンクルは何を……?


(して……我を殺すか……)


 再び思念が伝わってきた。
 だけど、先ほどよりも弱い。
 威圧が一瞬、さらに大きくなり、数本の木々が倒れた。


 血が止まらない。
 このままではカーバンクルは死んでしまう。
 長老達は何もしない。
 助けたところで再び襲ってくることを恐れているのだろう。


 でも何故かその時、助けたい。そう思った。








 ……だけど、僕にできることなんてない。
 助けてやりたい……!とは思う。
 なのに、動くことさえできない……
 それに動けたところで、なんもしてやれない……








 僕は無力だ。


 リアやスーに力で負けたのは仕方ない。
 でも、今目の前で一生を終えようとしているひとつの命を助けることさえできない。
 ただ……
 ただ見ているだけしか出来ない。








 力が欲しい。
 誰にも負けない、みんなを救える力が……


 ないものねだりだってのは分かっている。
 だとしても、力が欲しいという願いを否定することはできない。


 ごめんよ……カーバンクル。
 何故君があの2人を襲っていたのか、何を返して欲しいのか、聞くことが出来ない。
 傷を治し、助けてやることが出来ない。
 僕にはどうすることも出来ないんだ。
 ごめんよ……


 ─力が欲しい……?─


 !!!!!!!!!!!?
 この声は……
 いや、そんなことより、今……なんて?


 ─力が欲しいか……?弱き者よ─


 ……あぁ。力が欲しい。
 大きな災禍?
 そんなの関係ない。
 自分のことなんて二の次だ。
 ただ、みんなを助けられればそれでいい。


 ─そう。では、私に名を付けてくれ─


 名前……か……
 お前の名前は……


 その時、ふと頭の中にひとつの言葉が浮かんだ。
 その言葉の意味は分からない。


 でも、それがこの声の主の名前なのだと、直感で悟る。
 だから僕は、その名を口にする。
















 ……ルビアス。

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