太陽の申し子〜竜に選ばれた少年の旅物語〜

日孁

4,儀式③

 2人を村長達にあずけ、僕とスーとマスコルの2人と1頭は、スーの家に向かっていた。


 理由は一つ!
 タフゴープナを調理してもらうため!
 はい、嘘です。
 別に調理してもらうのは本当だけど、メインの理由じゃないってことな! 料理のメインディッシュではあるがな! グへへへへ。


 で、本命の理由はマスコルだ。
 突然魔物が村にいたら驚くしな。
 マスコルの存在を知ってもらわないといけない。
 そんなわけで、スーの家に向かいながら村の人達に周知してもらっているのだが……
 何故だろう。みんな一瞬驚くだけですぐに納得したように去っていく。


 あれ? 予想してたのと違うぞ?
 いや、ぎゃーすか騒がれるよりかはマシだけどさ。


 そんなことを考えていたらスーの家に到着した。
 いやぁ、いつ見てもおっきな家だなぁ。僕の家の何倍だろう。
 それもそのはず。
 なんてったってスーは、蟲人族の長の実の息子なのだから。


 僕の両親はどんな人なんだろうなー。
 貴族だったりするのかな?
 夢が膨らむぜ!


 でも、そんな顔も知らない誰かより、育ててくれた優しい村のみんなの方が好きだけどね。
 恥ずかしいから言えないけど……


 それで、今は門の前に立って中から迎えられるのを待っています。
 こういうのはめんどいかも……
 贅沢言うなってか?
 心の中ぐらいいいじゃんよ!


 おお自動で開いた。
 スゲーな、どうなってんだこりゃ。
 これも魔法なのか?
 いいね。魔法って便利だ。
 ほんとなんで僕が使えなかったのか……不思議だ。
 タマの話だと誰だって使えるってことだったのに。


 スーにドアを開けてもらい中に入る。


「ただいまー」
「お邪魔します」
「おかえりなさいスピリア。あらぁ、アレン君いらっしゃい」


 いらっしゃいました!
 マスコルも鳴き声で返事をする。


「あら? スピリアこの子は?」
「こいつはーヤマコスタルのーマスコルー! 今日従魔になったんだー」
「えぇ!? それは大変! お父さんを呼びましょ。あぁ、立っているのもなんだし、先に座って待っててくれる?」


 おばさんが2階へおじさんを呼びに行った。
 お言葉に甘えて座らせてもらう。
 いい椅子だな。


 それよりも!
 そうそう。これが普通だよ。
 普通魔物がいたら驚くって。
 ……いやでも、おばさんも最初は気にしてなかったよな。
 一体、急になぜ……?


「やぁアレン君、いらっしゃい。」
「お邪魔してます。」


 考えてたらおばさんがおじさんを連れて降りてきた。
 いやぁ、スーの両親はいつ見ても美男美女だなぁ。
 だいぶ歳あるだろうに、それを覆すほどの美しいお姿!
 蟲人だからツノとか触覚とか羽とかはあるけど。


「それでスピリア。詳しく教えてくれるか?」
「うん。実はー……」


─20分後─


「そうか。それは……」


 それは、なんだろ?
 あっ、それよりも早く食べたいです。
 図々しくて言えないのですが。
 早く、食べたいです。肉……


「スピリア、お前本当に世界一の魔物使いを目指すんだな?」


 あれ? 世界一だったっけ?
 まぁいいか。


「うん!」
「だったら途中で挫折するんじゃないぞ! やると言ったんなら最後までやるんだ!」
「当たり前だよ!」
「よぉし! それなら今日はお祝いだ! ちょうどお前達が獲ってきた肉もある! さぁ! 宴だァ!」


 え? 今からですか?
 食べるだけでいいんですけど……
 はい、すみません。


─2時間後─




 ふぅ、食った食った。
 タフゴープナは本に書いてあった通りとてつもなく美味だった。今度また捕まえに行くか。今度はリアも連れて。


 にしてもだいぶ遅くなっちゃったなー。
 一応明日もある……って。あぁ!!!
 長老にマスコルのポイントの件と今日の約束のこと言うの忘れてた!
 まぁ明日でいっか。
 今はとりあえず、はやく寝たい。
 散々動き回って疲れた。


 おや? なにか家の前にいるな。
 猫? ……猫。 あぁタマか。


「あぁ、じゃない。心配してたんだぞ。」


 また心を読みやがって……
 はぁ、疲れて怒る気力もないやぁ。


「遅かったな。だいぶ疲れだろ」
「うん。だから寝かせてくれ」
「そうか、ゆっくり休めよ」
「……珍しく優しいね。ありがとう」
「珍しくは余計だな」


 タマの珍しいお気遣いに感謝して、早めに寝床に着いた。


 長い1日だった。




 ー翌日ー


 窓から暖かい日差しが降り注ぎ、鳥達のさえずりが聴こえてくる。
 鳥……鳥……肉!


 この匂いは肉の匂い!


 匂いに釣られて食卓の方へ行く。
 そこにはタマがいた。


「よっ! アレン。起きたか」
「あれ? 肉は? まさか貴様!」
「気づいたか? そうだ。幻覚魔法で再現した昨日のタフゴープナの匂いだ!」
「なんてことを……! そんなことをして許されると思っているのか!!!」
「どんな手を使ってでもお前を起こす。それが俺の使命だ!」
「くっ……!」


 くそう、またやられた。前にもあったのに!


「それで、昨日何があった? 疲れて昨日はすぐ寝ちまっただろ?」
「あぁ、えっとね。……かくかくしかじか……」
「ほう。まぁた面白いことになったな」
「面白いって、大変だったんだぞ」
「まぁいいじゃねぇか。その2人のおかげで儀式は合格になるんだろ? まぁでも、長老の爺に俺の事がバレそうになっt……」
「あ、そうだった! 急げ!」
「おい待てよ。朝食は食ってけ。用意してやるから」
「え? ほんと? じゃあ、お願いします」


 ─5分後─


 なにやら台所の方で不穏な音が聞こえる……
 タマちゃーん?
 何してるのかなー?


 ─30分後─


「お待ちどうさま!」


 待ちました!


 タマが頭の上に乗せて運んできた。
 そういえば、どうやって作ってるんだ?
 やっぱ魔法なのかな?
 今度教えてもらおう。


 さてさて、お料理はと。


 パカッ


 おぉーー!
 蓋を開けた途端にこおばしい、いい香りが……
 中にあったのは、パンに魚のフライ?を挟んだ、サンドウィッチ。
 サンドウィッチってこんなに匂いするんだな。初めて知った。
 中に挟んであるこの魚は……
 あ、昨日のコサコ達だ。
 たくさん釣ったからねー。
 当分は魚料理になるのかな?


 さてさて、お味の方は?


 モグモグ……ゴックン


 んーーー!!!?
 口に入れた瞬間、パンのこおばしい香りが口いっぱいに広がって、噛み締める度にコサコの肉汁がたっぷりと広がる!!
 しかも、魚だから牛とかよりもサッパリしていてお腹にも優しい!
 外はふわふわ中はカリサクのサンドウィッチ!
 あの不穏な音とかどうでも良くなるくらい……
 こんな美味しいのは昨日ぶりだな。
 つまり、タフゴープナの肉と同程度ってことだ。
 いやぁ、タフゴープナで作った肉料理並に美味しい料理を、まさか調理の難しいと言われるコサコで作るなんて……魔法猫すげぇ!


「どうだ? お気に召したか?」
「タマ……僕は君のことを過小評価していたらしい。こんな美味しいものを作れるなんて、今まで1度も作ってくれなかったじゃないか! ……これからは、よろしく頼むよ」
「はは、そんな美味しいかったか? それはよかった。そうだなぁ、材料を用意してこれば作ってやるよ」
「マジで!? 任せとけ!」


 よぉし、今日も一日がんばるぞ!
 もう1回タフゴープナ出ないかな? 
 出てくれれば、今度はタマにお願いするんだが……


「アレン、もうそろそろ行った方がいいんじゃないか?」
「え? あっ、ほんとだね。ご馳走様! いってきます!」
「おーう。いってらっしゃーい」


 スーが玄関の前にもう来ていた。あぁ、勿論マスコルも一緒に。


「遅いよー。アレーン」
「悪いな、タマに……」
「ん? タマー? なにそれー」
「ン? ナンデモナイゾ?」
「そーう? まぁいいやー」


 あっぶねー。
 言うとこだった。
 あっ、でもタマ昨日長老にバレそうなったって言った時も特に反応しなかったな。
 ならいいのかな?
 いや、もしもが怖いからやめよう。
 もしも言っちゃダメでタマに嫌われたら、もう二度と朝ごはんを作ってもらえないかもしれない。それは避けなければ!


「そんなことよりー。長老達のとこに行かないとー」
「そうだな」


────────────────────


 長老達は昨日と同じく、広場にいた。


「おーい村長ー! 長老ー! 来たぞー!」
「アレンにスーにマスコル。待っておったぞ」
「それで、昨日の話は……」
「おうおう、分かっておるよ。」
「ということは……?」
「うむ、お主らは成人の儀式、無事合格じゃな」
「うおっしゃぁぁぁぁああああ!!!!!!」
「やったァ!」


 こんなことで合格になるとは思わなかったけど……
 ものすごく嬉しい……!
 感慨深いなぁ……


「夜のハーカバで人を迎えに行けるなんて出来たらまぁ合格だわな。他の大人にもそう出来んしな」
「アレンの今までの積み重ねのおかげじゃのう」


 そうだよね。
 これも今までがあったからだよね。
 これまでの努力が無駄になったわけじゃない。
 努力のおかげで初日で合格が貰えたんだ……!


「今までに初日で合格したものなんてそういない。経過がどうであれ、凄いぞアレン! よく頑張った!」
「村長……いや、お義父さん……」


 あれ? なんだろう視界がぼやけて……
 あれ? 涙……?


「はは、そんな嬉しかったか! 可愛いなぁお前は」


 お義父さんが頭を撫でてくれた。
 温かい……


「じゃがの、アレンにスー。まだ他のものは儀式が終わってはおらん。それ故、まだ大人としては扱えん。もう少し待ってもらえんかの?」
「いいよー。今までも待ってたんだし、少しぐらい待てるよー」
「うむ、感謝する」


 涙をふいて村長と長老の方を見る。


 ふぅ、落ち着いた。
 スーもいるんだし、あんまり泣いちゃダメだな。単純に恥ずかしい。
 それで、なんだっけ?
 あぁ、本当に大人として扱うのはみんなと一緒にってことだね。
 あとどれだけ待つか分からないけど、スーの言う通り今まで待ってたんだから待てるでしょ。
 とりあえずその間は何しようかな。


「それでじゃが、その間お主たちには儀式の監督に入ってもらいたい。なぁに、ただ見回って、危険なようなら助けに入るか、助けを呼びに来るかするだけじゃ」


 お、やることくれた。
 うん、仕事くれると有難いね。


「あとスー、お前は魔物使いになったんだ。これからはそいつと意思疎通が出来るように修行だ」


 修行かー。
 修行って言われるとやっぱドロフィンさんを思い出すな。
 今ごろどこにいるんだろ?
 てか魔物使いの修行って何やるんだ?
 剣とかみたいに型とかあるのかな。
 いや、今意思疎通とか言ったし、なんかすごいことでもやるのかな?


「魔物使いの修行は厳しいぞ? スー、へばるなよ」
「はい!」


 おー、やる気に満ち溢れておらっしゃる。
 それで肝心の修行とやらはなんだろな。


「厳しいとは言っても、簡単なことだ。魔物を討伐したり、普段の生活を長く一緒に暮らすとかな」


 あらまぁ。
 ものすごーく簡単ですねぇ。
 てかなんで村長そんなことをしってるんだ。


「魔物討伐に至っては協力・・して倒すことが必要になる。どちらか一方だけじゃ意味が無い。まぁ、要するに連携して倒せってことだ」


 連携してか。
 危険度4のマスコルに、あのやばい動きをしたスーが連携する……?
 想像してはいけないな。


 でも、こいつらが連携するとなると、危険度4でも弱いような?
 となると危険度5……
 んー、いややっぱまだ危険度5はダメだな。
 弱くても危険度4にした方がいいだろ。
 危険度っていってもピンキリだし、実際マスコルに町を潰せるほどの力があるのかな?
 ん、ていうか僕は弱いとか言える立場じゃねーだろ!
 昨日のあれは運が良かっただけだ。というかスーが頑張ってくれてただけで……あんまり慢心するのは良くない。


「よし、じゃあもう行っていいぞ。頑張れよ」
「うーむ。気をつけるんじゃよ」
「はーい!」
「そんじゃ」


 村長達と別れて、今日も再びハーカバを登っいく。


 危険度4だからだいぶ上に行かなきゃいけない。
 そして、他の子達の様子を確認していかなきゃならないから余計に時間がかかる。
 おっ、誰かやってんなー。


 あれは……ウルフルか?


 ウルフルは、名前からも想像がつくだろうが、狼型の魔物だ。
 危険度は2だが、それは一頭の時の話。というか危険度2でも村をいくつか潰すことは出来て……
 ウルフルは群で行動する魔物の1つであり、一頭殺すならば仲間のウルフル達が一斉に襲いかかってくる。しかもその数は、少なくとも約200頭。危険度2が200頭……
 そして連携も上手いことから、もっと強くなると推定する。
 危険度が若干低いからと言って甘く見てはいけない魔物の代表的な例だな。ま、弱いといっても一頭でそこらの村は潰れるけど。


 あと、もう1つ驚いたことがある。


 あんなの相手に一体誰が戦っているのだろうと思ってよく見ていると、見知った顔だったのに気づいたからだ。


 あの数を相手に1人でよくやってるよな……
 やっぱ喧嘩売れねーわ。
 売る必要は無いけど……


 そこで戦っていたのはリアだった。

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