契約少女の復讐譚
第10話
今は真夜中。
最近ではこの町でも人通りが増えたけど、流石にこの時間にはほとんど人はいない。真っ黒な外套を羽織り、私は完璧に闇に紛れていた。
「様になってるじゃないか、ネル」
ただ今私は隠蔽スキルフル稼働中。多分一般人にはわからないはず。
一方ゼインは全く隠れてる感じがしない。いつもと変わらない姿。
…一応聞くけど大丈夫?
「別にどうもない」
そう言って突然姿を消す。本当にコイツにできないことなんてあるの?
て言うかそれも魔法?
「そうだ、お前もやろうと思えばいつかできるだろう」
そうなんだ…もっとしっかり魔法勉強しよっと。
「身につくのに何年かかるかは知らんがな」
だと思いました……
「そろそろ行くぞ」
その声が聞こえた瞬間ゼインの気配が消える。ちょっと私にも見えてないんだから!勝手に消えないでよ。
『気配を追ってこい』
テレパシーで声を飛ばしてくる。
なんとなくわかる気配を辿り、やっとのことでゼインについていく。
隠蔽スキルで足音、気配を消している。現在のレベルだと、一般人は意識して見続けない限り見えないそうだ。
警備の人は数人すれ違ったが、全く気づいた風ではない。隣で大あくびかく人までいたし。
ちゃんと私強くなってる。
確かにそう実感する。
廊下を歩くと、ほかの扉よりも大きな扉が現れる。当主の書斎か寝室か。
ゆっくり音を立てないように扉を開ける。
覗くと中には本棚が並び、中央には執務机がある。多分書斎だ。
もしかしたら何か情報があるかも。
私は執務机に近寄る。執務机は重厚感のある紫檀でてきており、いくつもある引き出しには美麗な細工が施されている。
机上の書類が積み重なってる。
あの夜のことについて何かあるのかも…!
その時突然ガチャリと扉が開く。
嘘!誰か来た!
慌てて執務机の下に潜り込む。
「そこにいるのはわかっているよお嬢さん?出てきなさい」
バレてる?!
ここは隠れててもダメみたい…
ゆっくりと机から出て立ち上がる。
そして声の主と対峙する。声からある程度は予想できる。
「………」
「もしかして私に見られたらまずかったかな?」
ベン・ウォール。ウォール家現当主。夜のはずなのにビシッとスーツを着こなしている。聖人と名高いだけあり、浮かべる笑みは優しい。しかし片眼鏡の奥の瞳には警戒の色が見える。
長い沈黙の後、ベン・ウォールの方が口を開く。
「ふふ、貴方の様な美しい方が会いに来られるとは光栄ですね。取り敢えずお茶を注ぎましょう」
ベン・ウォールは「そちらへ」と執務机の前のソファーへ促す。
ここはしたがっておくのが最善ね。
そういえばゼインはどこに行ったの?
すっごいピンチなんだけど?
しかし表情には出さず静かにソファーに腰掛ける。
少し待つとベン・ウォールはティーポットと2つの空のカップを持ってくる。
青い鳥をあしらったティーカップにお茶を注ぐ。するとジャスミンの香りが部屋を満たす。
寒さに弱いジャスミンは南で取れる高級茶葉。そんなものを、身元のわからない人間に出すとは……
もしや毒、睡眠薬とかが中に
「何も入れておりませんよ」
そう言ってベン・ウォールは自分のお茶を一口飲む。そしてじっとこちらを見る。私が飲むまで話はしないと言うこと?
大丈夫そうだし一口。
ティーカップの銀の持ち手を摘み、口に含む。温度も火傷しない程度に暖かい。鼻からジャスミンの香りが抜ける。すごくおいしい。
「お顔を拝見しても?」
勿論首を横に振る。
顔が知られてないとはいえ人相書きなんか出されても困るし。
でも喋れないのは面倒。なので…
私は魔法で紙を作る。魔道書でソルから物が作れるって話から応用したんだよね。ソルから紙に変換って万能すぎ。
それを見たベン・ウォールは驚きの表情を浮かべる。
「何と!!それほどの魔法の使い手だったとは…いやはや…」
あー…数日前に始めたばっかの初心者なんですが。うん、これはこちらを油断させるためのお世辞に違いない。そんなもんに騙されません。
それじゃあ早速…
はっ!ペンがない!!!
盲点だった…。ペンがなきゃ書けないじゃない!
キョロキョロと辺りを見渡すもそれらしい物は見当たらない。多分執務机の引き出しの中とかにはありそうだけど、いきなり立ってあさりに行くのも怪しまれるし…
あ、そうだ。
指先に火を灯し、火を小さく細く弱くしていく。極小の火を灯した指を紙に押し当て、文字を書く。焦げた後がちゃんと文字になってる。
『名前は言えません。聞きたいことがあり来ました』
ベン・ウォールは突然不思議な方法で文字を書き始めた私に驚いていたが、すぐに真剣な面持ちに戻る。
「聞きたいこと、ですか。答えられるかは分かりませんが聞くだけ聞きましょう」
いよいよだ。あの日の真相がわかるかもしれない。小さく深呼吸をして、紙に文字を書いていく。
『数週間前の夜、なぜグラウス家が襲われたのか教えてください』
フードの奥からベン・ウォールを見る。表情に変化は見られない。ただ紙をじっと見つめている。
「貴方はなぜその事を知りたいのですか?」
『これから私がどうしていくか決めるため』
「はは、なんとも大雑把だ。きっと貴方はあの日と何か関わっているのでしょうな」
だがそこでベン・ウォールの表情が変わる。
「しかし、身元のしれない方に簡単には教えられません。貴方は何者ですか?」
最近ではこの町でも人通りが増えたけど、流石にこの時間にはほとんど人はいない。真っ黒な外套を羽織り、私は完璧に闇に紛れていた。
「様になってるじゃないか、ネル」
ただ今私は隠蔽スキルフル稼働中。多分一般人にはわからないはず。
一方ゼインは全く隠れてる感じがしない。いつもと変わらない姿。
…一応聞くけど大丈夫?
「別にどうもない」
そう言って突然姿を消す。本当にコイツにできないことなんてあるの?
て言うかそれも魔法?
「そうだ、お前もやろうと思えばいつかできるだろう」
そうなんだ…もっとしっかり魔法勉強しよっと。
「身につくのに何年かかるかは知らんがな」
だと思いました……
「そろそろ行くぞ」
その声が聞こえた瞬間ゼインの気配が消える。ちょっと私にも見えてないんだから!勝手に消えないでよ。
『気配を追ってこい』
テレパシーで声を飛ばしてくる。
なんとなくわかる気配を辿り、やっとのことでゼインについていく。
隠蔽スキルで足音、気配を消している。現在のレベルだと、一般人は意識して見続けない限り見えないそうだ。
警備の人は数人すれ違ったが、全く気づいた風ではない。隣で大あくびかく人までいたし。
ちゃんと私強くなってる。
確かにそう実感する。
廊下を歩くと、ほかの扉よりも大きな扉が現れる。当主の書斎か寝室か。
ゆっくり音を立てないように扉を開ける。
覗くと中には本棚が並び、中央には執務机がある。多分書斎だ。
もしかしたら何か情報があるかも。
私は執務机に近寄る。執務机は重厚感のある紫檀でてきており、いくつもある引き出しには美麗な細工が施されている。
机上の書類が積み重なってる。
あの夜のことについて何かあるのかも…!
その時突然ガチャリと扉が開く。
嘘!誰か来た!
慌てて執務机の下に潜り込む。
「そこにいるのはわかっているよお嬢さん?出てきなさい」
バレてる?!
ここは隠れててもダメみたい…
ゆっくりと机から出て立ち上がる。
そして声の主と対峙する。声からある程度は予想できる。
「………」
「もしかして私に見られたらまずかったかな?」
ベン・ウォール。ウォール家現当主。夜のはずなのにビシッとスーツを着こなしている。聖人と名高いだけあり、浮かべる笑みは優しい。しかし片眼鏡の奥の瞳には警戒の色が見える。
長い沈黙の後、ベン・ウォールの方が口を開く。
「ふふ、貴方の様な美しい方が会いに来られるとは光栄ですね。取り敢えずお茶を注ぎましょう」
ベン・ウォールは「そちらへ」と執務机の前のソファーへ促す。
ここはしたがっておくのが最善ね。
そういえばゼインはどこに行ったの?
すっごいピンチなんだけど?
しかし表情には出さず静かにソファーに腰掛ける。
少し待つとベン・ウォールはティーポットと2つの空のカップを持ってくる。
青い鳥をあしらったティーカップにお茶を注ぐ。するとジャスミンの香りが部屋を満たす。
寒さに弱いジャスミンは南で取れる高級茶葉。そんなものを、身元のわからない人間に出すとは……
もしや毒、睡眠薬とかが中に
「何も入れておりませんよ」
そう言ってベン・ウォールは自分のお茶を一口飲む。そしてじっとこちらを見る。私が飲むまで話はしないと言うこと?
大丈夫そうだし一口。
ティーカップの銀の持ち手を摘み、口に含む。温度も火傷しない程度に暖かい。鼻からジャスミンの香りが抜ける。すごくおいしい。
「お顔を拝見しても?」
勿論首を横に振る。
顔が知られてないとはいえ人相書きなんか出されても困るし。
でも喋れないのは面倒。なので…
私は魔法で紙を作る。魔道書でソルから物が作れるって話から応用したんだよね。ソルから紙に変換って万能すぎ。
それを見たベン・ウォールは驚きの表情を浮かべる。
「何と!!それほどの魔法の使い手だったとは…いやはや…」
あー…数日前に始めたばっかの初心者なんですが。うん、これはこちらを油断させるためのお世辞に違いない。そんなもんに騙されません。
それじゃあ早速…
はっ!ペンがない!!!
盲点だった…。ペンがなきゃ書けないじゃない!
キョロキョロと辺りを見渡すもそれらしい物は見当たらない。多分執務机の引き出しの中とかにはありそうだけど、いきなり立ってあさりに行くのも怪しまれるし…
あ、そうだ。
指先に火を灯し、火を小さく細く弱くしていく。極小の火を灯した指を紙に押し当て、文字を書く。焦げた後がちゃんと文字になってる。
『名前は言えません。聞きたいことがあり来ました』
ベン・ウォールは突然不思議な方法で文字を書き始めた私に驚いていたが、すぐに真剣な面持ちに戻る。
「聞きたいこと、ですか。答えられるかは分かりませんが聞くだけ聞きましょう」
いよいよだ。あの日の真相がわかるかもしれない。小さく深呼吸をして、紙に文字を書いていく。
『数週間前の夜、なぜグラウス家が襲われたのか教えてください』
フードの奥からベン・ウォールを見る。表情に変化は見られない。ただ紙をじっと見つめている。
「貴方はなぜその事を知りたいのですか?」
『これから私がどうしていくか決めるため』
「はは、なんとも大雑把だ。きっと貴方はあの日と何か関わっているのでしょうな」
だがそこでベン・ウォールの表情が変わる。
「しかし、身元のしれない方に簡単には教えられません。貴方は何者ですか?」
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