契約少女の復讐譚

ミチヒロ

第6話


突然腕を掴まれ路地裏に引きずり込まれる。


アッシュさんに壁に向かい合うようにして、押さえつけられる。腕も掴まれ身動きができない。

「邪魔な彼もいないし。2人っきりでお話しようか」

なななっ!?

フードを持ち上げられ顔を相手に見られる。

「ふーん。見せたくないって言ったから、大きな傷でもあるか、醜いかと思ってたけど全然。むしろ上物だ」 

顎を掴まれ顔を持ち上げられる。
痛い。

「今日はもう諦めようと思ったけど、こんな可愛い子に会えるなんて。泣き喚く姿も可愛いだろうな…」

コイツ変態だ…。

ていうかコイツが殺人鬼だったってわけね。

「なんで君そんなに無反応なの?声が出ないと言っても泣いたりはできるんだろう?」

そういえばあの夜から私の表情筋死んでるからな…。涙も全然出てこない。

「もっと酷いことすればいいかも…」

そういうと私の外套に手をかける。

流石にこれはやばい…

一か八かこれで!



グサっ


「うっ……」

アッシュは顔を歪め私から離れる。
アッシュのお腹には剣のつかが生えている。

私が隠し持っていた短剣で刺したのだ。

外套にの中に一緒に入っていた短剣。多分ゼインだろう。

「……無表情で人を…刺すなんて…とんだ女の子だ」

見た目は多分無表情だろうけど、頭の中は大混乱だ。だって初めて人を刺したんだから。

身を翻し逃げようとするが腕を掴まれる

「行かせるか。正体を知られたからには……」

「何してるのお兄さん?」

見るとそこにはゼインが立っていた。可愛らしく小首を傾げ、手には小さな紙袋を持っていた。

「なんだガキか…。それなら…」

「何をしているのか聞いている!」

突然の大声にアッシュは一瞬怯む。その隙に手をほどきゼインの元に駆け寄る。

「あ…」

「良い機会だ。ネル、お前に魔法を教えてやろう」

魔法を…。限られた人しか使えないはずじゃ…

「皆使えるさ。ただその威力はそのいつの才能次第。手を構えそこに集中しろ。矢が手から放たれるのを想像しろ」

目を閉じ、手に意識を集める。

矢、矢、矢

父様がよく弓矢を使ってるとこ見せてくれたっけ…

あんな風に素早く、風のように。



「よし、放て」


その合図とともに突然激しく風が吹く。と同時に男の呻き声が聞こえた。

ゆっくりと目を開けると、体の真ん中に大穴を開けた男が血を流し死んでいた。 

「初めてにしては上出来じゃないか」

「…………」

「どうした?」

「彼は……死んだの?」 

「だろうな。あんな大きな風穴開けられて生きていられる人間はおらん」

「そんな……」

「……お前はどんな理由であれ人を殺すことは許されないと思うか?」

「…………」

「そんなものは平和な場所で暮らす、愚か者達の意見にすぎん。さっきのだって殺さなければお前も、そうでなければ、他の女が死んでいただろう」

……そうなのかもしれない。きっと多くの人がこの人に殺され、悲しい思いをしていた。誰かがこの悲しみの連鎖を止めなければならなかった。それが偶然私だったのだ。

けれど彼を殺したのは紛れもない事実。決して忘れてはならない。

「なぜお前が泣く?」

あれ私泣いてる…。

あの夜以来涙なんて枯れてしまったと思っていたのに。



こんなこと考えたこともなかった。
本当に私は何にも知らずに生きてきたんだ。

命の重みも、正義も。


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