代打・ピッチャー、俺 (少年編)

雨城アル

11投目・左利き女子、入団

青空に雲一つない晴天、緑を身に纏う草木を照らす太陽が、頂点まで上る頃の休日。しかし、グラウンドには一つの白い雲が立ちこめていた。

「え、女子?」

「こいつ野球できるのか?」


不安を露わにする団員をなだめ、監督は新メンバーの紹介を始めた。

「こちらが今日からチームメイトになる谷内だ」

「谷内早苗です、よろしくお願いします」

「お前たちが怠けているままであるならば、彼女を試合に出していくこともあることを覚えておけ」


監督は強い念押しで、チームに練習を励むように仕向けた。

「俺たちが女子に負けるわけないじゃん……」

「ちょっと冗談キツいぜ……」


団員が余裕になっているところに、監督は一言放った。

「戦力になるぐらいまで鍛えるつもりだ」

「か、監督……それはちょっと期待しすぎです……!」

「そんなことはない、お前だって努力すれば十分強くなれるはずだ!」


谷内を勇気づけて、紹介は終わった。
そして監督は、口調を穏やかにして谷内の指導へ入った。


「さて、谷内はやってみたいポジションとかはあるのかい?」

「そうですね……左利きだと守備では不利って宇形くんから聞いたのですが」

「あーそれは内野手の場合かな、でも内野手でも左利きが有利になるところがあるんだよ」

「そうなんですか!?やってみたいです!」

「ファーストっていうところなんだけど一応外野手もやってみようか」


練習中の真中と宇形は、守備位置を決めている谷内を眺めていた。

「ん、谷内さんファーストやるっぽいね!」

「左利きは守備難しいしな、キャッチボールも終わったし俺ピッチング行ってくるわ」



「ノックはやったことあるかい?」

「一度だけあります……でもボールを捕るのが苦手みたいで……」

「そうかぁ、じゃあ今から軽い打球に慣れる練習をやろうか」


守備位置についた谷内は、自身の頬を二度叩き、深呼吸をして気合いを入れた。

「いくよー」

「カンッ」


「パシッ」

「(あれ?私ちゃんと捕球できてる)」


その後は、3回に一度ずつのペースでグローブからボールをこぼしながらも練習に励んだ。

「最後にちょっと強めのいくよー!」

「カンッ」


「はわわわゎ」



打球は真中の足元まで転がってきた。

「なんだ谷内か、しっかり捕れよー」

「真中……!君ピッチャーだったのか!頑張れよー!」


谷内は、グローブの手で真中の肩を叩いて応援した。


「……ッ!!」

「どうしたの……?」

「い、いや何でもないよ早く行ってきな」



真中の肩には暗雲が立ち込めていた。

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