代打・ピッチャー、俺 (少年編)

雨城アル

10投目・谷内と野球

「野球のどこがダメなの?」


真中が問いかけてみると、谷内は俯いて眉をひそめながら語り出した。

「私のパパ昔野球やってて私達子供にもやらせてみたかったらしいの、でもノックっていうのをやったときにいきなり強い勢いで打ってきて……」


二人は黙って聞き、谷内はしかめっ面になりながらも続けた。

「こんなの捕れないよっていったんだけど、そんなのも捕れないのか!って言われたのがムカついちゃったんだよね…でもお兄ちゃんは出来ちゃったから私は馬鹿にされたの」


涙が浮き出てきそうな顔を上げてこう言った。


「バカなのはあいつらだよね……!」



真中たちは納得しながら、谷内に優しく手を差し伸べた。

「野球、もう一回やってみない?俺たちがゆっくり教えてあげるからさ」

「本当にゆっくりなら……い、一回だけだからね!」


談笑しながら練習場所へ向かう三人。
宇形は用意していた野球用具を取り出した。

「最初から硬球は危ないからリュックに入ってた古い軟式のボールでやろっか!」

「う、うん!」

「谷内さん利き手はどっち?」

「左利きだよ?」

「げっ、左とか俺のグローブしかないじゃん」

「それくらい貸してやれよ真中~」

「しょうがないなぁ」


谷内は真中からグローブをもらい、不器用に手を入れた。

「真中の手ちょっとおっきいな……」

「やりづらいなら別に……」

「いや、これでいい!!」

「じゃあまずは捕球練習からやろっか!」

「ほきゅう……?」

「ボールをキャッチすることだよ」

「へぇー」


打球から始めるのは難しいと思い、軽く投げてとってもらうことにした。だが……

「ひゃー!」

「あちゃー」

「はわわわゎ……」

「痛っ!」


かなり軽く投げたつもりの宇形も、ビックリするほどの運動音痴だった。

「これは……長くなるね」

「もう野球なんてムリィイーー!!」

「いや諦めるな、キャッチするときに右手が前に出すぎてる、あとよくボールをみて」


その後も真中のアプローチで、軽いゴロとフライならなんとか捕れるようになった。

「うぅ……まだまだこんなものじゃ……」

「続きはまた今度、今日は休みな」

「よく頑張ったよーお疲れ様!」


まだまだやる気のある谷内を無視して、日は暮れていった。

「ねぇ!私もクラブチームに入れてよ!」

「え?」

「散々野球をバカにしてたけど二人のおかげでこんなにも面白いんだなってわかった……だからもっとやってみたい!」

「お父さんの許可とってこいよー」

「そしたらまた一緒にやろうね!」

「うん!頑張って聞いてみる!」


こうして、谷内の野球への苦手意識が緩和していった。
その後、谷内家では……

「パパ、私ゆっくりやるなら野球やってみたい!だからクラブチームに入ってもいい?」

「勝手にしろ……」

「あ、ありがとうパパ!」

「奥の棚に昔お前が使ったグローブあるからそれを持って行け、あとケガだけは気をつけろよ……」

「うん!」



谷内の野球人生が始まった。

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