代打・ピッチャー、俺 (少年編)

雨城アル

8投目・意地っ張りな転入生

「スースー……スースー……」


「ドタドタドタドタ」


「直紀もう50分よ!!いい加減起きなさい!」


どうやらあの後は眠りについてしまったようだ。真中は勢いよく飛び起き、効率的に準備を済ませて学校へ繰り出した。

その道中の信号に、見覚えのない女の子が青になるのを待っていた。大きくあくびをつき、こちらに気がついたのか警戒をするような態勢で睨み付けてきた。


「何か用?」

「いや、まさかこんな時間に人がいると思わなくてね」

「そう……」


しかし、待てども待てども信号は青にならず、沈黙に耐えられなかった真中は、思い切って言ってみることにした。

「ねぇ」

「はい?」

「ここ、押しボタン信号だよ」

「ッーーーー……!!」


彼女はわかりやすく顔を赤らめながらも、少し手を震わせながらボタンを押し込み、こう言い放った。

「い、いやそんなことわかってたわよ……!!通りでなんか青にならないなと思ったわけね……」


最後の一言は、微かに聞こえるような声量で独り言を呟いていた。そして真中は、彼女が押しボタン式と知らなかったことについて疑問に思い、単刀直入に聞いてみることにする。

「ここの信号使うの初めてだったの?」

「え、そそそんなわけないじゃん何回も使ってるし!」


彼女は頑なに意地を張っているように見えた。
その後、通り道の公園にある時計に指を差して、焦りの顔色を浮かべながら再び走り出した。


学校に到着したところで、女の子は「職員室に用がある」と言い、真中は一人で昇降口を通過して教室へ駆け込んだ。

「真中今日は遅かったね……ギリギリじゃん」


斜め後ろから心配そうに見つめてくる宇形。


「ちょっと色々あってね……」


曖昧な受け答えで話を流し、ホッと一息ついて席に座り込んだ。そして、先生はドアを開けたままにして教室に入り、朝のホームルームを始めた。

「皆静かにして聞いてほしい、このクラスに新しい友達が増えることになった」


と、いきなりの転入生を迎え入れることになった生徒たち。
「失礼します」と丁寧にお辞儀をして教室に入る女子生徒に、真中は目を丸くした。
その女子生徒はなんと、今朝の信号で出会った女の子だったのである。


「はい、これで名前を書いて自己紹介してね」

白いチョークを優しく渡す担任。



御古根みこね市から来ました、谷内 早苗やち さなえです」


「席はそうだな…真中の前が空いてるからそこに座りなさい」


先生は、谷内にこちらの一歩手前を指差して移動を促した。その時目が合ったのか、頬を赤らめてそっぽを向いたような気がした。

嫌々席についた谷内を見て、ホームルームを終える先生。1限目まで時間があったので谷内に話しかけようとしたが、逆に向こうから距離を保ちながらも近くまで押しかけてきた。



「今朝の信号のこと、教えてくれてありがと……」

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