代打・ピッチャー、俺 (少年編)

雨城アル

3投目・弱点

それから何度か打ち込んだが、いい当たりは出なかった。


「引っ張り打ちは苦手なの?」

「みたいだね…なんだかいつもよりボールが速く見えるんだ」

「変わってるねぇ、皆流し打ちはできないのに真中は逆だもんなぁ」

「まあ、そこはひとそれぞれだ。短い時間だったけど体験してみてどうだったかい?」

「楽しかったです、家に帰って親と相談します」

「そうか、良かったら入団してくれよ」



後日、話し合いの結果入団を決意し、手続きを済ませてもらった真中だった。
バッティングの楽しさが忘れられなかった真中は、バットを一本購入してもらい、これでもかというぐらい振り続けた。


「お、真中じゃん!今日もがんばってるみたいで良かったよ」


そこに、偶然横を通りかかった宇形と遭遇する。


「あれ、真中ってピッチャーじゃなかったっけ?」

「そうだけど、バッティングが楽しくってさ…素振りが癖になってたみたい」

「そうなの?あ、そういえば日曜日に練習試合があるらしいよ!一緒に練習やる?」

「いいね、やろっか!でもグローブまだ買ってなかったや…」

「グローブはなくても投げるだけならできるから大丈夫!」



二人は、日が暮れるまで夢中になっていた。アドバイスをしたり、時にはふざけあったりと大いに楽しんでいた。
絆を深め合い、お互いの事を少しだけ知り合っている仲へと変化する。

「そういや宇形ってなんで俺のこと名字呼びなんだ?俺もだけど…」

「え?真中って名前じゃないの?」

「へ?真中は名字だよ、下の名前は直紀だからね」

「そうなんだ!でも呼びやすいから真中でいいよね!」

「まあ…いいけど」


たわいもない話をしながら、二人三脚のように同じ歩幅で家へ帰った。
いつも見ている録画した試合を見ながら、とある選手に憧れの目で見ていた。

角野すみの選手と加賀見かがみ選手すごいなぁ」


キャッチャーの角野、ピッチャーの加賀見は球界屈指のバッテリーとして人気があった。
角野は勝負強い打撃、加賀見は速いストレートに、落差の大きいシンカーを投げるエースで名を轟かせている。


「もしもこの二人をあわせたらどれぐらい強くなっちゃうんだろう…」


非現実的な妄想に夢を抱いて、イメージトレーニングをしながら、練習試合を楽しみに待つことにした。

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