代打・ピッチャー、俺 (少年編)

雨城アル

2投目・才能

「スパーン!!」

宇形は少し目を見開いてグローブに収まったボールを見つめた。


「おおー!真中ってピッチング初めてなのに、捕球した手がちょっと痛かったよ!次からはキャッチャーミット使わないとね」

「真中くん、野球経験はあるのかい?」

「いえ、親とキャッチボールしたぐらいです」

「本当かい!?キャッチボールだけでここまでのモノを持っているとは…」


監督は、道端でダイヤモンドの原石を見つけたような気分だった。まだまだ粗削りな真中だが、自分の新たな才能に自信を持ち始めた。

「一応バッティングの方もやってみようか、宇形、軽く投げてくれ」

「いいかい?バットをしっかり引いて、水平に振るように心がけるんだぞ」

不器用にバットを握り締め、監督の言う通りにして力一杯バットを振った。

スカッ


「あれ?」

「ありゃりゃ、空振っちゃったね…大丈夫だよ次は当たるはずさ!」

「真中くんちょっと握りを見せてくれるかな?」


右利きを見て育った真中は、右手と左手の位置が逆になっていた。通常、右利きは左手が下右手が上の方が、打ちやすいとされている。
真中は、少し頬を赤らめながら再度意気込んだ。

「いくよー?それっ」

「ガツンッ」

バットには当たったものの、根元の方で捉えてしまい、詰まったような当たりになってしまった。


「真中くん、もう少しボールをよく見て打ってごらん?」

少し不安げに頷き、言われるがまま実践へ移した。


「よく見る…よく見る…」

ボールが、体の横に来るようなところまで引きつけて、少し遅れたように振り抜いた。
しかし、彼にとってはそれが一番リラックスして、瞬間的に打ち抜ける方法だったようだ。


「ここだ!」

カーンッ

打球は、三塁側に運ばれていった。


「ほう、なかなかいい打撃だな」

「真中~次は一塁側に打ってみてよー!そっちの方が気持ちいいよー!」

「え、うんわかった」


宇形が投げたボールを、なすがままに打ち込んだ。

カンっ

「あれま…」


どうやら真中は、体に近いコースを打つのが苦手なようだった。

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