俺と私とあたしの恋愛三角模様

きりんのつばさ

放課後の掃除

「へいへい篠原君や」

「ん、どうした山吹」

俺が教室で帰る準備をしているとクラスメイトの山吹が話しかけてきた。なお楓は今日は用があるらしくチャイムが鳴るなり荷物をまとめて帰った。

「暇だよね?」

「何を言っているんだ、俺は帰ると言う大事な用事があるーー」

鞄を持とうとした矢先に鞄を予想以上に強い力で抑えられた。

「よし、暇なんだねありがとう!!」

「……何も答えてねぇ。で、何をやればいいんだ?」

俺の答えが予想外だったらしく、目を丸くする楓。

「おっ、やってくれるんだ……意外だね」

「……人の返事を聞かずに話を進めた奴が今更何を言うんだよ。で、何をすればいいんだ?」

「掃除を手伝って欲しいんだよね……」

「なんだそれぐらいか。どこのだ?」

「教室なんだけど……」

「教室? なら簡単だろ。というか他の班員はどうした?」

「あのですね……その……皆さん
ーー帰りました」

と申し訳なさそうに呟く山吹。その表情で何となくだが全てを察した。

「……そういう事か」

山吹は周りの空気や人の気持ちを察するのが上手い、だがその分空気を読みすぎてこうなることが前から結構ある。

「ごめんね……みんな何か用事があるみたいだったからさ」

「だからと言っても山吹も用事がーー」

「--友達がいなさそうな篠原君しか頼めなくて……うぅ……」

「さて帰るか」

同情の余地なしだと思い、俺は荷物を持って教室のドアに向かおうとした。が……

「ごめん!! ごめんてっばぁ~!!」

と何故か俺の足にしがみつく山吹。

「離せ、すまなかったなぁ友達が少なくてな。というか何故足にしがみつく!?
鞄か腕とかあるよな!?」

何故よりのよって足なのだろうか、というかいつの間に倒れていたんだ?

「そんなの鞄を掴もうとしたら空振って」

「あぁ」

「そうしたらさそのまま転んでさ」

「あぁ」

「そうしたら丁度目の前に篠原君の足があってさ、思わず掴んだ。理解出来た?」

「あぁ
ーー全く分からん。というか離れろ」

「くっ、ダメか……でも手伝うって言うまで離れない!!」

「絶対こういう場で言う発言じゃないよな!?」

「友達がいない篠原君が良いって言うまで離れない~!!」

「本当に俺に頼む気ある!?」

なんていう不毛なくだりはしばらく続くのであった。
なお俺にも友達ぐらいはいるということは弁明させていただきたい。
……別に見栄を張ってない。



「--ったく5分無駄にした……」

俺は教室の床を箒で掃きながらわざと山吹に聞こえるように言った。

「はっはっは~どうだいたまにはこういう絡みは?」

「早く帰りたい」

「“そして帰って楓に慰めてもらおう”なんて畜生リア充め爆発しろ!!」

「言ってねぇ!? というか楓はただの幼馴染だ」

「えぇ~本当かなぁ? 2人の雰囲気見てたらそうとは思えないなぁ」

「なんなら山吹の方こそ俺よりもリア充だろ」

こいつはいつもクラスの中心にいて、男女構わず友達がいる。
……俺よりも明らかにリア充だと思う。

「そう見えるかい? まぁ私なりに気を使って立ち回っているからね」

「それでも俺よりも友達いるだろ」

「あたしからしてみれば篠原君の方が羨ましいよ。
ーーだって掃除当番誰も手伝ってくれないからね~
でも篠原君が掃除を1人やることになったら楓ちゃんや友達は手伝ってくれるでしょ」

どうやら人気者にも俺が知らない苦労があるのだろうと思うと、少しは同情したくもなる。

「……なんか大変だなお前も」

「ハハ、まぁね。まっ、仕方ないからね~
ーーって暗い話はこれぐらいにしてさっさと終わらせよう!!」

「じゃあさっさと机運んで帰るか」

と掃き掃除がひと段落したので机を元の位置に戻すことにした。本来なら吹き掃除もした方がいいのだろけど別に誰も見てないから今日ぐらいサボっても何も言われないだろう。

「おうきた!! 任せたまえ!!」

山吹はそう言うと一番前にあった教壇に手をかけた。

「お、おい山吹それはまずいだろ……」

「ふぬーー!! こ、これぐらいアタシにま、任せな……あっ」

と教壇を持ち上げた途端、勢いをつけすぎたのか山吹ごと後ろに倒れてきた。

「山吹!!」

俺は後ろに倒れそうな山吹を後ろから支えた。

「ふぅ……危ねぇ……」

「……」

「おい、山吹大丈夫か?」

「お、おう……大丈夫だよ?」

「ったく気をつけろよ……これぐらい俺に任せろっての」

「ご、ごめん……気を付けますね……
ーーで、そしてですね篠原君や」

「なんだ?」

「支えてくれるのは助かるんですけどね……この状況ねとても恥ずかしいのね」

「あっ」

あの時は山吹が怪我しないように必死だったが今よく見てみると俺が山吹を後ろから抱きしめるような構図になっている。この状況を他人が見たら……

「夏樹、忘れ物しちゃーー」

「「あっ」」

「あら」

なんでこういう時に限って人が、しかもよりによって楓が来ちゃうかなぁ……。
そして俺らの様子を見て何故か笑顔になる楓。
……付き合いの長い俺は分かる、あの笑顔は怒る寸前のシグナルだ。

「か、楓……? 帰ったじゃないのか?」

「帰ったんだけど忘れ物に気が付いて教室に戻ったねぇ……」

「か、楓ちゃん……こ、これには深い理由があってね……」

「ごめんなさいね。2人がイチャイチャしているのを邪魔しちゃって。
ーー夏樹、帰ったら私の部屋に来なさい、分かった?」

「は、はい……」

「そして山吹さん」

「な、なんでしょうか楓さん」

「覚えておきなさい。
ーーフフッ」

「怖い!! 何もされてないけどそれが余計に怖いよ!!」

……このあと俺は何故か楓に部屋で2時間程度説教された。

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