フィロソフィア

藤冨 幹臣

第十話

AクラスのバカどもとBクラスのバカどもがバカをし、反省文を原稿用紙三百枚書かされているらしい。
紅戸豆助が。

我が幼馴染ながら、本当にバカな男だと思う。
ひいひいと呻きながら高速で筆を進ませる紅戸豆助に少し感心しながら草薙誠と言葉を交わす。

「今度は何をやらかしたのですか。あのバカは」
「由良にメイド服をせがみ、クラスの連中から追いかけ回され、自習中だった、俺のクラス―――Bクラスに協力要請」
「性悪集団Bクラスが要請を受けたのですか」
「合コンを組むらしい」
「……あの男、我々以外に友いましたか?」

後先考えず動くあのバカに溜め息をつかずにはいられなくなる。

「明良、手助けする気は?」
「ありません」
「由良とあのバカは付き合っているが」
「ッ、ありません!」

あのバカは私ではなく、由良優祐をとったらしい。

―――あはは。酷いなあ、こんすけとこんたは友達だよ?
―――所詮動物です。
―――そうかもしれないけど……あれだ、僕と君が友達なのと同じことだ!
―――……私のからだのことをいっているのですか
―――ほぇ? 違うけど……。

両性具有という特殊な身体を持った私を、認め、『友』と呼んでくれたバカだ。

「泣いてんのか?」
「涙腺の制御が苦手なんだ、私は! 笑うのか!?」
「笑わねえよ。笑う意味がない」

草薙誠は、私の頭に手をぽんと置いた。

「変わるとこは変わっちまったけど、あいつがバカなのと同じで、俺とお前が幼馴染だということには何の変わらないからな。悩みがあったら少し考えてからできる分だけ共有しろ!」

この男は、性格がよいのか。

『よっしゃあ!! 終わったぁあああああああっ!!』
『二百枚追加できそうだなぁ?』
『あ、当たり前だよなあ……タスケテ…タスケテ……』

あの男はせいぜい幸せに死ねば良い。
廊下においてある椅子に座り、本を読む由良優祐に声を掛ける。

「おい、由良優祐」
「…? なんだい」

眼鏡の奥の瞳は、温もりに包まれていた。
たしかに、あのバカが好きそうなやつだ。

「幸せすぎて死ぬくらいに幸せにして殺せ」
「う、うん?」

混乱する由良優祐。

「ちなみにあいつの好物はいなりだ」
「知ってる…が…」
「嫌いなものはファーストフードだ」
「あ、知らなかった。ありがとう」
「好きな作家はフィリップ・K・ディック」
「ああ」
「嫌いな作家はワキルイ(創作です。居たら申し訳ありません)」
「ああ」
「誕生日は七月五日」
「ああ」
「好きな言葉は『自他共栄』」
「ああ」
「嫌いな言葉は『責任転嫁』」
「ああ」

人の目を見て、ちゃんと聞く。こういうところが似てるし、こういうところが好きになったのかもしれない。

『おわったあぁああああああ『二十枚追加』あああああああああああああ!?』
『当たり前だよなあ?』
『くそう、僕をかえらせ―――俺を帰らせるんだ!! これ以上は本物の体罰ではないのか!? 可愛い生徒にこんなことして良いのかッ』
『勘違いするな。普通、可愛い生徒は授業中に『メイド服を見たい』と言い残し、去らない。普通、可愛い生徒は廊下を疾駆しない』
『それは、俺のおかれた状況が小岩井牛乳並みのあれでして…!!』
『それにおまえは、不細工だ!!』
『酷いよ! こうなりゃ卒業式、あんたを伝説の木の下、釘バット片手に待つからな!』
『釘バットごときで私を打倒できると思っているのか?』
『くっ…確かに…以外と筋肉あるぞ、この人…!!』

よくよく考えれば、なんであいつだけ書かされているんだろう。能力が変な風に発動したのか?

『てぃやぁああああっ!! 食らえ、豆助キック!!』
『何かしたか?』
『恐い! ひとしおに恐い! ひとしおお化け!! これならどうだ! 弁当の…なんか肉じゃがやらひじきやら混ざった……汁!!』
『クリーニング代出せるのか?』
『はん、やめさせていただきます! こうなったら…黒板に円周率を覚えている限り書いてやるッ!!』

どこまでかけるんだったか。

『凄いな。現在判明しているところまで覚えているのかどれどれ』

それもう能力で良いんじゃないか?

『全部当たってるな』
『じゃあこれで帰らせてください!』
『帰って良いのか?』
『ほぇ?』
『素になったな……いま帰ったら…母親に殺されないか?』
『…………あ』
『いや、帰って良いんだぞ』
『…』

負けるなよ、負けるなよ紅戸豆助。

『ま、帰ってもらうんだがな』
『そんな無慈悲なッ』
『パワハラで訴えられるんだ。帰れ。部活勢も帰宅時間だ』
『そんなぁ!!』
『ほら、出てけ、バカ!!』
「それこそ、パワハラだぁ!!」

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