フィロソフィア

藤冨 幹臣

第二話

由良は私と同学年、同じ部活動のいわゆる腐れ縁に該当する男である。悩飛学園二年生で、いつもムッツリしていることから『笑えば美少女、普段は土佐犬』と呼ばれている。
一年生を終えた時点で、由良は男だというのにクラスのマドンナ的立ち位置に居た。しかし本人はどこふく風、取り巻くクラスメイトを置き去りにおおよそ六畳間ほどの部室にて一人静かに読書をするのだった。

一年生時、他クラスだった私はそんな由良を『クール』だと思っていた。ただ『気色が悪いから』、『一人の方が楽だから』という理由で一人読書しているという謎な理由を知らず『肯定的な理由』だとばかり思っていた。

私は手のほどこしようの無い〝阿呆〟であった。
はぁ…嘆かわしい。

そして、二年生に上がり私は由良と同じクラスになった。
当時少し舞い上がった。『あの由良 優祐と同じクラスだぜ』みたいな感じで。

そして、一ヶ月程、同じクラスで歩んでいた頃。
私はふと、怒り心頭した。

なぜ私がここまで、努力して愛想笑い振り撒いて、なおクラスに馴染めずにいるというのにムッソリーニもかくやムッツリとしている由良優祐はクラスに完全に馴染んでいるのだ。

そこから私はだんだんと由良が嫌いになっていった。
前に一度だけ素で学園生活に挑んでみたところ授業中不意に『羊として100年生きるくらいなら、ライオンとして1日だけ生きる方が良い』と言ってしまい教師に「お前はベニート・ムッソリーニか」とつっこまれ、クラスの陽キャに「お前名字、紅戸(べにと)だし、ムッツリしてっから」「ムッツリーニな!」と言われ、拒否する間もなくムッツリーニという徒名が定着してしまった。おかしいではないか。

誰が欲しがるこんな徒名。蔑称ではないか!

          〇

そして今日である。
ガラガラと六畳間部室の扉を横にスライドさせると、そこにはパイプ椅子に座り、本を黙読する由良が居た。

私は立ち去ろうと、扉を閉めた。

(はぁ。今日は帰ろう)

そんな事を考えながら部室棟から出ると他部活、他クラスの野郎が二人、私を見て舌打ちをした。

(なんだ?)

『あいつだろ? ムッツリーニって』
『え? あいつ? うわ…マジでムッツリしてんじゃん…』
『あの顔絶対何人か人殺してるよな』

殺してないわ。惚け茄子。
なぜ私がムッツリしていると人殺しの評価を受け、由良優祐がムッツリしていると、マドンナになるのだ。
なんなんだ、この差は。いったい私に何が足りないというんだ。

最近学園長すら私をムッツリーニと呼び違うのだぞ。あのババァもう歳だぞ。長生きしろよ。

「ぉん? ムッツリーニじゃねえか」

この男は…由良祐介との熱愛疑惑が出ている私の幼馴染、草薙ではないか。

「どうした。いつになくムッツリして」
「…」

私は無視することに決めた。

「おい、どうしたんだよ。ムッツリーニ」
「…」

バカにはバカが付くものだが、こいつは特筆すべきバカだ。つまり、由良優祐もバカということになる。
私はバカが大嫌いである。このバカは道端に落ちているエロ本を拾う男だ。
つまり、由良優祐も道端に落ちているエロ本を拾うということになる。

「あッ!! 巨乳で評判の陸奥先生のパンチラだぁ!!」
「俺にも見せやがれッ!! ―――騙したなぁ!?」
「男は陸奥先生のパンツに興味津々だよな!! な!! はっはっは!!」
「…俺に何の用だよ」
「いや、用はねえよ? なんかいつになくムッツリしてっからさ。なんかあった?」
「遇ったとしても、貴君には関係の無いことだ。阿呆め。泥を喰ってろ」
「ははは、辛辣ぅ~」
「去れ。俺は忙しい」
「部活は?」
「今日は休ませてもらう。由良優祐は居たぞ」
「そうなん?」

………………。
…………。
……。

「去れよ!?」
「ははは、それは酷くね?」

由良優祐が待っているぞ。
もしかしてこいつは、馬鹿と阿呆のハーフか?

「うぅむ。由良が待ってるのってお前だと思うんだけどなあ…」
「ほざけ。有り得んだろう。そのようなこと」
「お前もしかして人からの好意に気付かない系の阿呆?」

好意ってなんだよ。その物言いだと、まるで由良優祐が私に好意を抱いているようだぞ。有り得んだろ、八百万の神、森羅万象に誓ってありえん。

スッ……とスマートフォンの画面を見せてくる。

『由良:幼馴染に問う。紅戸豆助の好物はなんだ?』
『いなり寿司と緑茶』
『由良:紅戸豆助はおきつねさまか何かか。』
『俺がはじめてムッツリーニに会ったの神社だからその可能性は高い』

あそこは私の遊び場だ。白い狐が二匹居るのだぞ。

『由良:幼馴染に問う。紅戸豆助の特技はなんだ?』
『もの作りと喧嘩』

生まれつきの才能だ。

『由良:喧嘩』
『大丈夫大丈夫。あいつ基本的には怒らないから。ああでも、一回キレたなあいつwww』
『由良:その一回とは』
『中学生の頃、イタリアから引っ越してきた帰国女子が日本語わからなくて馬鹿にされてたんよ。したらあいつ
『Sei stupido! ? È inevitabile che tu non capisca il giapponese! ! D'altra parte, sto lavorando duramente in una scuola giapponese sconosciuta. ! Non capisco il significato! !』
 みたいな事言ってなwww』
『由良:どういう意味なのだ』
『お前らは馬鹿か、こいつは立派だぁ的な言。俺も何回か辞書で調べてはじめてわかった』
『由良:あの成績低空飛行の紅戸豆助が、イタリア語を?』

ぬぉぉ……。

「俺の黒歴史を勝手に人に喋るなよ!!」
「喋ってない。メッセージ」
「同じ事だッ」

誰かのために怒るってなんか、恥ずかしいよね。

というか、基本的には起こらないって……今現在進行形でお主が想フおのこに嫌悪懐き怒ってるんだけど?

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