極振り夫婦のVRMMO生活

峯 こうめい

極振り夫婦のダンジョン攻略

 俺と莉乃は今日もSword Magic  Onlineにログインしていた。

「裕樹君!」

「ど、どうしたんだ?そんなに目を輝かせて」

「私、スキルが欲しい!」

「唐突だな。でも、確かに……。スキルがあった方が確実に強くなれるしな……」
 
「じゃあ早速、この近くにあるっていうダンジョンにレッツゴー!」
 莉乃が張り切って俺の前を歩き出すが、すぐに追い抜いてしまう。すると、少し頰を膨らませた莉乃がこっちを不満そうに見ている。
 ……やっぱり、可愛い!反則的だ!



 十分ほど歩くと、不気味でジメジメした森に入る。心なしか、足が重い気がする。

「おかしいなぁ……ここら辺にあるはずなんだけど……ちゃんとネットの掲示板で見たんだけどなぁ……」
 二人でキョロキョロしていると、ブゥンという不快な重低音が耳の奥まで響いた。
 なんだ?虫の羽音か?
 そう思いながらダンジョンの入り口を探していると、あり得ないほどデカイ木にあり得ないほどデカイ蜂の巣がぶら下がっているのを見つけた。
 は?なんだあれ?頭おかしいのか?あれ、確かに蜂の巣だよなあ。うん。蜂の巣だ。は、蜂の巣!?あんなデカイのが!?いやいやいやいや、流石にあんなデカイ蜂の巣なんて無いだろ……。
 すると中から、王冠をかぶった馬鹿デカイ蜜蜂が二匹出てきた。さらに、普通のスズメバチの三倍ほどある蜜蜂も大量に出てくる。
 もう、勘弁してくれよ……。あんなデカくて大量の蜂に集中砲火されたら、一瞬で蜂の巣だぞ!蜂だけに!
 俺がそんなくだらないことを心の中でキメ顔で言っていると、莉乃の方に大量の蜂が向かっていく。莉乃は気付いていない。
 まずい!莉乃が!
「莉乃!後ろ!」
 俺の声に反応して、莉乃は振り向いた。すると、一瞬で顔が真っ青になる。

「きゃあああ!虫ぃぃぃぃ!」
 そう叫びながら、莉乃は大剣の側面で大量の蜜蜂を一瞬で叩き落とした。そして、残ったのは二匹のボスらしき蜜蜂だけになった。
 な、何てパワーだ……。俺もATKに極振りすればよかったかな…………。

「ふぅ……。あんな大量の蜂に囲まれたら、泡吹いて死んでたよー。危ない危ない」
 莉乃は、普通の顔色に戻っていた。

《レベルが上がりました》
《スキル、毒殺のプロを獲得しました》

「やった!レベル五からレベル七に上がった!しかも、欲しかった、スキルまで!しかもしかも名前が強そう!」
 莉乃はハイテンションでそう言いながら、スキルの説明を見ている。
 よし、あの二匹のボス蜜蜂は俺が倒してやるぜ。昨日のアイアンゴーレムの時も全く役に立っていないからな……。
  ……ってか、俺から仕掛けなくてもめっちゃ二匹ともホバリングして俺に狙い定めてるんだが……。

「来るなら来いよ!デカイの!」
 俺が二刀の短刀をぶつけ合ってカチンカチンと鳴らしながら叫ぶ!それと同時に、俺の頭に針を突き刺そうと、一直線に飛んでくる。しかも二匹同時に。だが、自慢のスピードで躱す。が、すぐにまた飛んできた。そしてまた躱す。数分の間、それを繰り返した。AGIが0の莉乃は、割って入ることはできないだろう。
 よし、俺がやるしかない!だが、

「くそ!速すぎる!」
 その時、あまり大きくない脳ミソをフル活用して一つの作戦を思いついた。

「よし!来い!」
 そして、両手を横に広げどっしりと構える。頭に向かって二匹が飛んできた。
 今だ!
 俺は二匹の針が右腕に刺さるように、横に体を動かした。そして見事、右腕に二匹の針が刺さる。
 計画通り、と某サスペンス漫画の主人公の顔真似をする。だがすぐに毒による激痛が走り、顔真似などしている場合ではなくなった。
 すると、二匹のボス蜜蜂は消えた。

《レベルが上がりました》

「裕樹君!?大丈夫!?てか、わざと刺されたよね!?」

「ああ、でもレベルが上がって体力が全回復したから、多分、毒は耐えられるだろ」

「あ!もしかして……裕樹君って……」

「え、Mなの……?」
 思わず吹き出してしまった。何かが分かったみたいに、あ!っていうから何かと思ったら、俺がMって……。

「何でそうなるんだよ!?」

「いや……だって、わざと刺されてたし……もしかしたらMなのかなーって……」

「蜜蜂はな、一度針を刺すと抜けなくなるんだよ。だけど、蜜蜂は無理矢理抜こうとするから体が千切れて死んでしまうんだ。だから、こっちの世界の蜜蜂も現実の蜜蜂と体の構造が同じなことに賭けて、わざと刺されたんだよ……」

「だから、俺はMなんかじゃない」
 すると、毒の痛みがなくなっていく。どうやらDEF0でも、体力MAXの状態ならまだ耐えられるみたいだ。

《スキル、毒耐性中を獲得しました》

《名前    ユウキ》
《Lv  7》

《HP  3/170》
《MP  85/85》

《新獲得スキル説明:毒耐性中》
 中ボス級モンスターの毒攻撃をわざと受け、耐える。毒のダメージを五十パーセントカットする。

 俺はステータスポイントをAGIに全て振った。これによって、俺のAGIは165になった。

「莉乃、お前さっきスキルゲットしてたよな。どんなのだったんだ?」

「ああ、毒殺のプロって言って、確実に相手を毒状態にできるっていうやつ!毒を持つモンスター百体以上を一撃で、魔法を使わず倒したからゲットできたみたい!」

「エグいスキルゲットしたな……。てか、普通にステータスポイント振ってる人だったら確実にゲットできないだろ……。その条件じゃあ」

「確かに!……ってことは、このスキル持ってるの私だけかな?だったらめっちゃカッコイイ!」
 子供みたいに喜んではしゃいでいる………。やっぱ可愛い!見てるだけで体力全回復しそうだ。

「本当にしたらいいんだけどな……」

「ん?何か言った?」

「いや、何でもないよ!一回、街に戻って回復薬買おうぜ。この体力じゃあ、ダンジョンなんて攻略できないし」

「了解!じゃあ、街に戻るぞー!」
 そう言って、莉乃は俺の前を歩き出すが、AGI165の俺は一瞬で追い抜いてしまった。すると、少し頰を膨らませた莉乃が不満そうな顔でこちらを見ている。
 …………可愛い!やっぱり反則的だよ!お前!



 一度街に戻り、回復薬を買った俺たちはまたさっきの森に来ていた。

「あ!見て見て!裕樹君!蜂の巣があった木の根元に穴があるよ!」
 その木の根元には確かに穴があった。これがおそらく、莉乃がネットで調べたダンジョンの入り口だろう。

「本当だな……。よし、じゃあ行くか!」

「うん!頑張ろうね!」

 洞窟の中はかなり嫌な空気が漂っている。ジメジメに近い、常に嫌悪感がまとわりついてくるようなそんな空気だ。
 そして、なんといっても長い!長すぎる!いつまで続くんだ?この洞窟は……。もう三十分くらい歩きっぱなしだぞ!

「あ!見て!あれ、ボス部屋の扉!」
 莉乃が指をさした先には、確かに扉があった。俺たちは、扉の目の前まで走った。

 扉は黒を基調にしており、所々に金の装飾が施されている。
 莉乃と目を合わせ、頷く。そして、二人で思い切り扉を押し開ける。
 キィキィと、油が切れた嫌な音が洞窟内に響き渡る。
 中に入ると、目の前で全身が真っ黒のドラゴンが眠っていた。

「こいつがこのダンジョンのボスか」

「そうみたいだね。なんだか凄い強そう……」
 莉乃はそう言いながら、ドラゴンに近付く。そして、

「ドラゴンさーん!起きてー!」
 莉乃は大声で叫んだ。

「え!?寝てる間に倒すんじゃないのか!?なんで起こしたんだ!?」

「あ、そっか。わざわざ起こさないで、寝てる間に倒しちゃえばよかったのか!いやー、ごめん」
 
「お前らか……我の眠りを妨げる奴は。いいだろう。少し遊んでやる」

「我は闇竜、ダークドラゴン!」

 いや、もっとカッコイイ名前かと思ったらめっちゃ普通の名前ー。ダークドラゴンってそのままじゃねぇか……。

「おい、そこの男。今、何のひねりもなくてダサくて小学生がつけそうな名前してんな。つまんねぇの、と心の中で言いおったな。許さん!許さんぞ!」
 
 いやいやいやいやいや、そんなに言ってないだろ!ってか、心めっちゃ読んでくるやん!そんなんできひんやん普通!言っといてや、できるんやったら!
 ……おっと、ふざけている場合ではない。どうやら怒らせてしまったようだ。

「大丈夫!裕樹君!あんなに怒ってるけど、私たちならきっと勝てるよ!」

「そうだな!行くぞ!」



 戦闘開始から十分ほどたった。俺は今、物凄くピンチだ。莉乃が麻痺毒にやられ、動けなくなってしまった。俺は攻撃力が低すぎて一しかダメージが入らない。そしてダークドラゴンのHPは1000で、莉乃の攻撃を一度も当てられていないため、せいぜい減らせていても980といったところだ。

「うぉぉぉぉぉぉ!」
 叫びながら、ダークドラゴンを短刀で切り付ける。

「効かぬわ!お主、我の名前を貶した割に弱過ぎるのではないか?つまらな過ぎて欠伸が出るぞ」

 くそ、完全になめられてるな……。こうなったら、賭けだ。

「つまらな過ぎるのはお前の名前だろ!ダークドラゴン?小学生が名前付けてくれたのか?だったら納得だな!捻りがなくて、ダサい、最悪の名前だ!」

「………………ほう?どうやら苦しんで死にたいようだな。いいだろう、望み通りじわじわと時間をかけて殺してやるぞ!」
 ダークドラゴンはそう言い、毒を口から吐き出した。

「甘い!」
 余裕で躱すが、すぐに次の毒が飛んでくる。それをまた躱す。

 それを繰り返すこと四十分ほどがたった。

「はぁはぁ、いつまで逃げ回っているつもりだ。我はまだまだ疲れてなどいないぞ」

 口ではそう言っているものの、疲弊しているのは確かだった。明らかに動きが鈍くなっているからだ。

「よし、今だ!」
 俺は、全速力でダークドラゴンの周りを走りながら、二刀の短刀の刃をダークドラゴンの胴体に突き立てた。ガリガリという音を立てながら、鱗を削っていく。ダークドラゴンはかなり疲弊しているため、俺の動きについていけずキョロキョロと自分の足元を見ることしかできないでいる。

 その内、ダークドラゴンのHPバーが二十パーセントをきった。俺は更に力を入れて刃を突き立てる。

 そして五分ほどたち、ダークドラゴンのHPバーが空になった。

「ば、馬鹿な!我がこんな奴に負けるなど、あり得ない!」
 最後にそう言うと、ダークドラゴンは消滅した。

《レベルが上がりました》
《スキル、回避達人を獲得しました》
《スペシャルスキル、忍を獲得しました》

 やっと、やっと終わったと、心の中で言い、ため息を吐く。
 このゲームは、相手に攻撃を躱されると疲労感がたまるとネットで見たのだ。だが、あくまで自分たちが相手に躱された場合のことであって、モンスターも同様に疲労感がたまるのかは、分からなかった。だから、賭けに出たのだ。

「裕樹君!凄いよ!カッコよかったよ!」
 ダークドラゴンを倒しからだろうか、それとも時間経過だろうか、どちらかは分からないが麻痺毒の効果が切れたらしい。莉乃が俺に抱きつく。

「はは、ありがとう。でも、完全に賭けだったんだ。ダメだな、賭けばっかで戦ってたらその内やられる」

「ほら、そんな暗い顔しないの!勝ったんだから!やられても、現実で死ぬわけじゃないんだし、そんな重く考えなくても大丈夫だよ!」

「うん、そうだよな!もう、考えるのはヤメだ!」
 そんなことを話していると、莉乃と俺の目の前に宝箱が現れた。縦横高さ、それぞれ二メートルはある。
 ダンジョン攻略の報酬か……。俺の頑張りと釣り合うと良いが……。

「極振り夫婦のVRMMO生活」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く