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女神様(比喩)と出会って、人生変わりました

血迷ったトモ

第16話 可哀想な子のようです

「では、今日は、どういったご用件でしょうか?」

 コーヒーを飲んで、一息ついた悠也から、そんな質問がとぶ。
 いきなり、そんなに親交も無い間柄の男の家を、いきなり朝から訪ねてきたのだから、当然の質問である。
 千穂はその質問に対して、何故か緊張した面持ちで、ゆっくりとした口調で答える。

「えっとですね、今日は、少しお出掛けをしようかと思いまして、悠也さんも一緒に行きませんかと誘いに来た次第です。」

「はぁ…。」

 やけに畏まった言い方で、訪問の理由を述べられて、イマイチ理解が追いついていない悠也は、気の抜けた声を出す。

「…。」

 そんな悠也の返事を、大人しく待つ千穂。

「…はぁ!?いやいや!な、何故俺なんでしょうか?女の子の友達とかいらっしゃらないんですか?」

 数秒後、漸く千穂の言葉を理解した悠也が、素っ頓狂な声を上げ、驚いてしまう。

ーいやいやいや!なんでやねん!?お出掛けによく知らん男を誘うって、天戸さんはどんだけ世間知らずなんだ!?オジサン、君の将来が心配だよ!ー

 誰から目線なのかは分からないが、半ば本気で、千穂に身の安全について、じっくりと語って聞かせようかと思い始めた悠也の耳が、非常に暗い声音の言葉を拾う。

「だって私、お出掛けをするようなお友達が、居ないんです…。せっかく一緒にゲームが出来るような仲の方が、初めて出来たので、できれば一緒にお出掛けしたいと思ったんです…。」

「…何かすみません。私で良ければ、謹んでお誘いをお受けさせていただきます。」

 思わず言葉を失ってしまうほど悲しい理由でのお誘いで、悠也は顔を引き攣らせながら、了承してしまう。
 何でこんな美少女に、お出掛けするような仲の友達が居ないのか、不思議でしょうがないが、ここで新たな傷口を開いても仕方が無いので、ぐっと堪える。

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

 椅子から立ち上がり、机の上に置かれていた悠也の手をギュッと握りながら、満面の笑みでお礼を言う千穂。

「い、いえ。そ、それでどこに行きたいんですか?」

 柔らかい手の感触と、そこから感じる体温、そして間近で見る千穂の笑顔で、心拍数が上がるのを感じながら、誤魔化すように、行き先を聞く悠也。

「えっと、街中でお買い物をしたり、緑豊かな公園でお散歩をしたり、とかですかね。」

「…。」

ー…なんか、定番のデートコースっぽいのは気のせいかな?待て待て!勘違いしたらあかんで!そう、天戸さんはただ相手が居ない可哀想な子なんだ!本当に本人に他意は無いんだ!よし、何か返答しないと!ー

 心の中で、それはもう、とんでもなく失礼な事を考えた悠也は、めいっぱい優しい笑顔を浮かべながら、これまた優しい声音で了承する。

「なるほど。分かりました。今日1日、お付き合いさせていただきます。」

「…何か、酷い事を考えていませんか?」

 少女とはいえ、立派な女性だ。物の見事に心の内を読まれてしまい、不服そうな表情で、抗議の視線を向けてくる千穂。

「いえ!そんな事はありませんよ?あ、車を出しますか?」

「…いえ、大丈夫です。徒歩でも大丈夫ですか?」

 少しの間、膨れっ面だったが、直ぐに気を取り直して、笑顔で言う千穂。

「はい、大丈夫です。…ところで、その。」

 穏やかな表情で頷いた悠也は、そのままの表情で、言いづらそうに何かを口ごもる。

「はい?何でしょうか?」

「そろそろ手を離してもらえると…。」

 悠也は握られたままの手を、視線の高さまで上げながら言う。穏やかな表情をしたままだが、その頬は少し赤くなっている。

「あ!すみません!」

 悠也の言葉で、漸く手を握りっぱなしだった事に気付いた千穂は、顔を真っ赤に染めながら、慌てて手を離して謝る。

「いや、大丈夫です。」

「すみません…。」

 何とも気まずい雰囲気になる。千穂は少し俯いてしまったため、悠也からは表情が確認出来ないが、その顔は未だに羞恥に赤く染まっている事だろう。

「さ、さて、着替えてくるので、少し待ってて頂けますか?あ、テレビつけときますね。それと、飲み物とかも自由に、冷蔵庫から取って飲んで下さい。コップも自由に使って下さい。」

「は、はい、ありがとうございます。」

 居た堪れなくなった悠也は、口実を作り、リビングを後にする。
 そして部屋に戻った悠也は、大きくため息をつく。

「はぁ〜、緊張した。ここ最近は、ホントに、一体どうなってんだろう?」

 バイト中に、美少女にいきなり名前を聞かれたかと思ったら、強盗に巻き込まれ、解決して、寝て起きたらその子の家、そして警察署で事情聴取したかと思いきや、自宅にゲーム機とテレビが設置済み。
 挙句の果てには、その美少女が自宅にやって来て、朝ご飯まで作ってくれるという、今まででは想像すらしなかった体験を一気にしている。

「さて、ボーッとしてても仕方ないし、さっさと着替えるか…。」

 ここ数日を思い返して、少々遠い目をしながら、悠也はクローゼットを開ける。そんな彼の目に最初に飛び込んできたのは、紙袋に突っ込んだままにしてあった、千穂から貰った服だった。

「持ってる中で、一番良いのはこれかな?」

 ファッショにこれっぽっちも興味の無い悠也は、いつも適当に安い服を、吟味もせずに買っているため、まともな物が無いのだ。

ーこういう事になるんだったら、もう少し服に気を使うべきだったか…。ま、予想だにしない展開だから、悔やんでもしょうがないか。ー

 アイドルやモデルが裸足で逃げ出すような美少女と、2人きりで何処かに出掛けるなど、想像出来るはずも無く、悠也は諦めて、紙袋を手に取るのだった。

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