女神様(比喩)と出会って、人生変わりました

血迷ったトモ

第4話 嬉しいけど…

「よ、漸く終わったか…。」

 倒れている強盗を見て、安堵が広がってゆき、泣き出す人や、お互いに喜び合う家族がいる中、ため息をつく悠也。

「『終わったか…』じゃねぇよ!どんだけ無茶苦茶すれば気が済むんだ!」

 安堵して気が抜けた悠也に、圭吾が怒鳴りながら文句をつける。

「あ〜、ごめん。助かった。お前が居なきゃ、ヤバかったよ。最初の目配せが、鉄パイプの用意、2回目の目配せと2本の指が、鉄パイプを2本ともくれっていう意味だって、よく読み取ってくれたな。」

「ま、まぁ友達だからな。じゃなくて!」

「え、友達じゃないのか?」

「友達だけども!お前、ワザとアイツを激昴させたろ!?まったく、危ない橋を渡りやがって!」

 「その事か。まぁ確かに危ない橋だったけど、あれ以外に全員が無事に、傷つかずに助かる方法が考えつかなかった。すまん!」

 申し訳なさそうに、悠也は謝る。あの時、悠也は正直いっぱいいっぱいで、まともな考えが浮かばなかったのだ。

「つかお前!撃たれたよな!!怪我はしてないのか!?」

「…いや、どうも、鉄パイプで弾けたみたいだぞ?ほれ、あそこ。」

「え?」

 悠也が指を指した床には、銃弾がめり込んでおり、その位置は強盗が倒れている場所よりも後ろのため、弾き返しでもしない限り、めり込まない場所なのだ。

「お、お待たせしました!…え?」
 
 ちょうどそこに、金庫から金を取り出して来た榎本が、現れる。

「あ、榎本さん。強盗なら、そこに転がってますよ。」

 倒れ伏す強盗を見て、榎本は目をまん丸にして、言葉を失う。

「榎本さん。強盗を倒す時に、思いっきり顎を鉄パイプで殴ったので、一応救急車と警察を呼んでください。従業員とお客様には怪我はありませんので、安心してください。」

「わ、分かった!今すぐ警察と救急車を呼ぶ!」

 悠也の言葉に、榎本はせかせかと電話に向かう。その様子を見送りながら悠也は、すぅっと息を大きく吸い込む。

「悠也?あ〜、なるほど。」

 その様子を不思議に思った、圭吾だが、直ぐに何かを察し、大人しくその時を待つ。
 すると、ストンと床に座り込むと、急に悠也は大声を出す。

「うわ〜!超怖かった〜!あんな危ない橋、二度と渡りたくねぇ〜!」

「ほんとそうだな。」

 悠也の叫びに、腕を組み、目を瞑りながら、相槌を打つ圭吾。

「だって銃弾って、速度がマッハ1とか出るんだろ?撃たれたあとじゃ、絶対に視認できないよな?しかも、叩ける場所が1センチも無い上に、勘でタイミングを合わせる必要があって、少しでもズレたら死んでたよな?」

「そうだな。間違いなく死んでたな。」

 強盗の銃口は、ほぼ間違いなく悠也の頭を狙っており、完璧に弾けておらず、少し軌道が逸れただけだったなら、頭にモロ鉛玉をくらって、即死していただろう。

「まったく!居ない歴=年齢で死んでたまるかってんだぁ!?」

「悠也?」

 妙な叫び声を出した悠也に、圭吾が目を向けると、千穂に抱き着かれたまま固まる姿があった。

「な、な、な、何を、してるんだ?」

 顔を赤くしながら、悠也は尋ねる。すると、千穂からか細い声が返ってくる。

「あ、ありがとう…。私を、命をかけて守ってくれた。貴方のおかげで、私は、私は…。」

「べ、別に君のためじゃない。自己満足の為にやっただけだから、そんなに気にしないでくれると嬉しい。」

 泣きながらギュッと抱き締めてくる千穂に、ツンデレみたいな事を言う悠也。

「おーおー。羨ましいな、悠也。そんな美少女に抱き着かれるだなんて…あ、すみません。」

 悠也から、怒りの視線が刺さり、慌てて口を閉じる圭吾。
 囃し立てるのは構わないが、時と場合を選べ、という事だろう。

「分かれば良い。…ところでその、あんまり長くくっつかれると、少し恥ずかしいんですが…。」

 ピッタリとくっつかれている悠也は、千穂の身体の感触や、ほのかに香るいい匂いにより、先程までとは別の意味で緊張してしまい、精神が持ちそうになかった。
 だが千穂は、悠也の言葉に首を横に振り、全然離れてくれない。

「おい、悠也。流石にそれは可哀想だろ?満足するまでそのままで居させてやれよ。」

「いや、しかし「しかし?」…はい、了解しました。」

 圭吾から強めの口調で遮られ、今度は悠也が口を閉じる番だった。

ーくそ〜!嬉しいには嬉しいが、今は疲労が半端ないからやめて欲しいのに!今は早く家に帰って寝たいんだ!なんなら、この抱擁は、後日の報酬として、取っておいて欲しいくらいだ!事件解決の最大の功労者に対して、この仕打ちはあんまりだよ…。ー

 ガックリと頭を垂れながら、悠也は大人しく、女神とも見紛うような、美しい少女からの抱擁を、受け入れるのだった。

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