感情を覚えた令嬢

パンデミック

憎しみと全て

会場から逃げ出した。走って、走った。ここから逃げ出すように、全てを考えないように。



あるのはドレスと宝石だけ。それ以外無かった。



もう生きていたく無かった、消えたかった。こんな現実を信じたくなくて、帰る場所なんて無かった。



学園を抜け出す、走る、走る。もう二度と帰らなくても良いくらい遠くへ。



学園の裏にある崖から見る夜景を思い出した、もう少し手を伸ばせば月に手が届きそうで、見上げた空から星が降ってきている様だった。



ただ憎かった。



彼に恋してから色々な感情を少しずつ思い出してきた。無くなっていたはずの感情が、無くしたはずの感情が。



だけど今はただ憎い、彼と別れて思い出すのは増悪、殺意。




何も考えたくない。



1人で崖に足をかけ真っ暗な空を見上げる、まばらに散った星が輝いている。 



飛ぶ。



下は川、死ぬとしても2分の1の確率だろう。



月に手を伸ばす、あと少しで届くと思った。だけど結局あの月には手が届かないまま、落ちた。深く、真っ暗な底へ。




水しぶきがドレスを暗く染める。空色だったドレスは水を吸って夜空の色になった。



重くなったドレスが沈む、ドレスから取れてバラバラになった宝石が月の光に反射して輝く。まるで星みたいで、


綺麗だった。



汚い感情も、何もかもが洗い流されるような美しさだった。



もう、死んでもいい。 




川に沈む。目を開けると私と一緒に沈んできた宝石が輝いている。




天国のようだった。




ゆっくり目を閉じで流れに身を任せる。




今日はゆっくり眠れそうだった。



光が私を優しく包む、少しだけ眠ろう、後で起きれば良い。
 


願うならずっと眠ったままでいたい。


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