ダウンフォールライフ

エスカトロジー

-胎動-

「‥‥高校生?ボス、さすがに僕も子供は殺せませんよ」
書類を手に取りながらトキシックは笑い混じりに言う。
「いや、暗殺じゃなくて誘拐だ。昨日都内の病院に運ばれたんだが、そこから連れ出してきて欲しいんだが」
「誘拐ねぇ‥‥」
トキシックは書類に貼られた写真をもう一度見る。第一印象は「目つきが悪い賢そうな男子高校生」だった。何らかの情報を持っている‥‥もしくは取引材料?そんなことを考えていると、ボスが話を始めた。
「十数年まで、この国は超心理学研究に注力していた。超心理学、PSI‥‥いわゆる超能力を軍事的に利用する為に。護報活動、暗殺を目的に、子供から老人まで、国内から素質のある人間を集めていた。不思議な力を持っているだの、霊感があるだの、そういった噂を聞きつけては半ば強引に研究へ連れ出していた。このプロジェクトは想像以上の成果を挙げた。しかし、彼らは自由を奪われた。軍にとってあくまでも道具。特異な能力を持つ危険な存在だけに。牙を剥くようなことがあってはならない。それをマインドコントローラーによって支配したんだ。さらに能力を高めるために過度な精神鍛練、脳への電磁波。様々な非人道的な実験が行われた」
 ボスは短くなった煙草を灰皿の上で潰すと、すぐに次の煙草に火を付け、話を続ける。
「ある日のことだった。研究施設からの通信が途絶え、すぐに調査部員が向かった。そこには研究部員と、警備兵の死体だけが残されていた。死因はすべて心臓麻痺。そして十数人はいたという被験者。――超能力者達が全員いなくなっていた。被験者に関する研究内容、個人情報を記した書類はすべて焼却され、データベースも全て削除されていた。最高機密のプロジェクトであったが故、機密保存の為にデータは研究施設内にしか無く、関係者は残っていない。被験者達の顔も名前も出身地を知る手段はなく、探索は行われなかった。あるいは被験者達の報復を恐れたのか‥‥。ともかくこの研究自体も冷戦が造った負の遺産として闇へと葬られた」
「‥‥なるほど、この高校生は‥‥」
今の話を聞いてトキシックは察する。
「そうだ。事件後に行方不明になった被験者の一人だ」

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