勝手口の先には夢が詰まっている。

幸夜曇

勝手口の先には夢が詰まっている。

伊吹いぶきおっそい!!遅刻するぞ!?」
「ごめんごめん……!!」

あれから故郷に戻ってきて、地元の高校にも再び通い始め、週2でバイトも始めた。
勿論、がくと同じ高校だ。

彼曰く、ゲーセンに行った時にあいつら……暴力を振るっていた同高の連中に金を要求され、その時は逃げたのだが、翌日の放課後から振るわれ始めたそうだ。
退学になったあいつらは4ヶ月前から不良になったようで、僕が上京する前はただのラグビー部の補欠だったそう。短期間で変わるもんだな。

あの夜、彼のお母さんに左頬を手当てしてもらって実家に帰った僕。半年以上連絡をとらなかった両親は少し怒っていたが、自分をまた家に入れてくれた。

実家の勝手口から外に出てみても、そこには見慣れた景色。容姿も変わらず、玄関から外に出た時と全く同じだった。
『勝手口 異世界』等のワードで調べてみたりもした。が、同じ体験をした人はいなさそうだった。

冬休みには、東京に行ってみようかなと思っている。一人はちょっと怖いから、好きなバンドの東京公演のチケット当たったと言っていたがく達と一緒に。
醜く見えていた時はあまり出たくなかったけれど、やっぱり東京観光したいのだ。

そんな事を思っている間に駅に到着。樂と学校方面行きの電車に乗る。
クラスメイトには、1年の時も同クラだった奴もいる。全員が出戻りみたいな僕に優しく接してくれてとても嬉しい。

僕は、今日も夢が詰まっている世界で生きている。


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「ふぅ~、やっと戻ってこれた~様子伺ってたら危うく消されそうになったし~」
「23日くらいかかったよね。ギリギリ……」

織原錦おりはらにしきの彼女をやりながら、尾形伊吹おがたいぶきに真実を気付かせる。地域の守り神で人柱の私達は滅多に他の県に行かない、というか今回が初めてだ。

都道府県ごとに2人いる、地域の守り神。私達は如何なる時でも、自分の担当場所を離れる時は25日以内に帰って来ないと逃げたと見なされ、無の空間に飛ばされるらしい。
5億年ボタンみたいな空間で10億年でも100億年でも、土地の全てが水没とかしない限り過ごす事になるとかなんとか。

「……ハセ。まだ織原くんのしゃべり方になってる」
「うん。あいつ癖強すぎてなかなか抜けなさそうなんだよね」

そして、守り神を30年間やって天国に行ったり、無の空間に飛ばされたら、また新しい守り神に選ばれた人が病死してここにやってくるらしいのだ。
テレビもゲームもないし、ただただ眠る事もなく街を見守り、犯罪や事故が起こりそうならさりげなく防止するこの仕事。夜などはけっこう暇なので、他の人にはあまりやらせたくない。

しかも、3歳で人柱になった森川樂もりかわがくの姉・森川由良ゆらがいるように、幼い子供、時には赤ちゃんが選ばれる事も少なくないそう。まだ幼稚園にも行っていないような短い人生だけ体験しないで、義務教育を受け、大人になって様々な経験を積んでほしい。そう思うのだ。
あ、私? 私は5年前にハタチで死んだよ?

「あ、ねぇ馳!! ○☆市の工事現場から歩道に鉄筋落ちてきそうなんだけど!!」
「ごめん一人で頑張って!!△□市で5人くらいが万引きしようとしてるから!!」

……まぁ、こんな感じで忙しい時もあるけれど。

「ふう、疲れたぁ……。お、伊吹くん幸せそうだね。樂と笑ってる」
「うん、良かった~」
「……ねぇ、あの日の夜、なんで勝手口から出ないようにしたの?」
「え? ただの気分」
「なにそれぇー」

笑う由良を見て、樂くんの顔が思い浮かぶ。

「森川姉弟、似てるよね」
「両親とかに何回か言われた。
自分に似てる弟が、その友達が幸せになれて良かったよ」

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