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記憶を踏みつけて愛に近づく

幸夜曇

ほぼ初対面の君と僕

8月23日、金曜日。僕はウキウキしながら総合病院へと向かった。
別に、診察や待ち時間が好きな訳ではない。確かに待ち時間の時に本の世界に溶け込む行為はとても楽しいが、それは病院以外でもできる事だ。

とにかく、そんな普通の患者がやるようなのではなく、僕のテンションが上がりまくっている原因は先月の診察後にある。

『何言ってんの、友達でしょ!!』

友達……。

「ふふふっ」

無意識に笑みがこぼれた。
側弯そくわん症に気付いてコルセットを着けるようになってからは、自分とは縁の無い言葉となっていた。けれど、その時期は7月に終了したのだ。

「聞いてますかー? ……嬉しい事でもあったんですか?」
「え? あ、すみません、聞いてませんでした……」

気持ちが顔に出てたのか、担当医さんが笑みを浮かべながら聞いてきた。だが、つい診察中という事を忘れていた僕に話しかけたその顔は、微笑みより苦笑いという表現が似合っている。

病院のパソコンには僕の背骨のレントゲンが映し出されていた。さっき撮った感じのもの、コルセットを着ける前の頃、その中間の3枚。どうやら曲がり具合とこの先身長が伸びるかについて話していたようだ、彼女は片手に分度器を持っている。

「今度はちゃんと聞いてくださいよ。……単刀直入に言うと、もうすぐ骨の成長が止まりそうです」

「マジですか?」
「残念ながらマジなんです」

てっきり、これから成長期とでも言われるのではないかと期待していた。確かに最近微増だけれど、急に何センチも伸びた事はなかったので、きっとこれから15センチくらい高くなるだろと思っていたのだ。

男として、156くらいで止まると知った時はショックを受ける、僕もその一人だ。けれど、それはやっとコルセット生活を終われるという快報でもある。いやでも160行きたかったなぁ、とはやっぱり思ってしまうけれども。

「まぁ、今まで通り1ヶ月に一回診察するのは変わりません。成長が止まったようなら、少しずつ着けない時間を増やしましょう」

「分かりました」と答え、来月の診察日を決め、僕は診察室を後にした。
まだあの言葉の余韻が残ってはいるが、脳は別の事を考え始める。____果たして、いかにも整形の患者で、いかにもさっき診察してもらいました感がある奴が「お見舞いに来た」と言って通してもらえるだろうか?
まぁ、そこらへんはよく知らないし、とりあえず当たってみるか。


……保険証の提示だけで普通に入れた。対応したのが先月に彼女を連れ戻した看護師さんだからというのもあるかもしれないが、お見舞いの手続きってこんなもんだっけ。もっとなんかあるのではと思っていた……この病院が緩いだけという説もあるか。

看護師さんに教えてもらった部屋番号のドアをノックすると、中から「陽太ようたくんなら入ってー!!」という声が聞こえた。あれ、先月は名字呼びじゃなかったか? と思ったが、名前間違える訳でもないし良いか、と、そのまま扉を開けた。

真っ白なドアの先では、1ヶ月後に手術を控える側弯患者・輪仲奏わなかかなでが文庫本に栞を挟んでいた。

「輪仲奏楽園パラダイスにようこそー!! ……引かないで!?」
「いや、病室をパラダイスって言うのかーと思って……」
「引いてるじゃん!! ただのネタだよネタ!!」

必死に「冗談だから引かないで!!」と伝え続ける、先月と全く変わっていない輪仲さんを見て、僕は笑った。
嗚呼、この時間は好きだ。自分が存在する意義が此処ではあるような気がする。

「もー……」

輪仲さんは拗ねる。すると、「あ」と声をあげ、何かを思い出したようにベッドの横にある棚に行った。本の隙間から音をあまりさせず何かを取ると、僕に差し出した。

「はいこれ。来てくれてありがとう」

彼女から差し出されたのは画用紙で作られている一枚の郵便ハガキ。黒髪の男子学生の絵がかわいく描かれていて、そのキャラの肩にはデフォルメした輪仲さんらしき女子が乗っている。黒インクと色鉛筆で描かれたと思われるそれの右上には、丸っこい文字で『ありがとう!!』とある。彼女の絵柄と字のクセを知り、嬉しく思った。

「陽太くんと私を描いたつもりなんだけど……どう?」
「嬉しいよ。輪仲さんって絵上手いんだね」
「えっへん、そうでしょ!!」

輪仲さんがドヤ顔でそう言うと、僕は笑った。彼女と居ると楽しい。心からそう思った。
そんな僕を見た彼女も笑いがこみ上げてきたようで、笑いだし、病室に僕らの笑い声が響いた。

しばらくすると落ち着いてきて、少しずつ音量が下がってきた。彼女は背中を少し掻くと、そろそろ帰らないと、親御さん心配してるんじゃない? と言った。携帯を見ると家を出てからちょうど2時間半経っていると示していた。「そうだね、そろそろ帰るよ」と伝える。僕はドアに向かい、そのままま家路に着く……はずだった。

「待って、何この痣」

目についたのは、彼女の肩にある青い痣、それが何個も。うっかり何処かにぶつけて出来たとは到底思えないものだった。
僕がそれを見つけて、「なんでこんな所に痣があるの」と聞こうとした時、顔を曇らせている彼女が口を開いた。

「そんなの、なんでもない傷だよ。気にしなくていいって」
「でも……」
「いいから。早く帰らないと親御さん心配するよ」
「____うん、分かったよ。来月の手術頑張ってね」

結局押しに負け、貰った絵を持って病室を出てしまった。
目を閉じると、青く変色した痣が見える。一体、なんであんな所にできたのだろうか。

元は郵送しようと思っていたのだろうか、絵の裏側には郵便番号を書くスペースが書かれ、修正テープが貼られてある紙を新品のサコッシュに入れ、病院を後にした。

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