まじないランナー(台本ver)

砂浜

まじないランナー

まじないランナー

【キャラ紹介】
*ネタバレ有

雪村 遊ゆきむら ゆう
お嬢様。以前ジュニア代表に選ばれたこともある陸上選手。だがその選ばれ方に不審な点があり、そこから呪いの少女と呼ばれている。

桐生 海斗きりゅう かいと
不良。素行も見た目(ひねくれた風に見える)も悪く、教師からも目をつけられている。が、根は優しく熱く、ガッツのある人間。本作主人公。

雪村 龍ゆきむら りゅう
海斗の親友。陸上部であり、過去の遊を知っている。まさかの兄オチ。色々頑張ってくれる男。


遊の元パートナー。辞退する。

客たち
遊を野次る人たち。

モブ
龍の仲良い人たち。

【本編】

1
SE:チャイム
海斗「ったく、今日もこんな遅くまで雑用させやがって、あの教師…」
海斗「やっと帰れそうだぜ、やれやれ」
SE:足音
男「ごめん!でも僕には無理なんだ!」
海斗N(ん、なんだ??)
??「そ、そんな!あなたがダメなら私はどうすれば…」
男「やっぱり雪村さん呪われてるよ、僕じゃ無理だ…」
??「っ!呪いなんてオカルトな話で誤魔化さないでください!」
海斗N(痴話喧嘩…にしては妙な雰囲気だな。それに、"呪い"だと?)
男「うっ…と、とにかく僕には君の相手はできないよ!そ、それじゃあ!」
SE:走る足音
??「あ!そんな待ちなさ――。行っちゃった……」
海斗N(この女、やけに切羽詰まってるな。どうしたってんだ)
??「ううっ…どうしてまたこうなるの…なんで私は…」
海斗N(泣き出しちゃったか…まぁ俺には関係ねぇ話だ、さっさと離れよう)
SE:物音
??「っ!誰!?」
海斗N(げ!めんどくせぇな畜生…)
海斗「よう女、覗くつもりはなかったが見えちまってな、悪かったな」
??「…謝罪は必要ありません。誰なのかと聞いています」
海斗「……お前、珍しいな。俺を知らないなんて」
??「その妙に自信に満ちた態度…もしや学校一の不良と名高いあの桐生きりゅうさん?」
海斗「すげぇ失礼な覚え方してんな…。俺ほど素行の良い奴なんていないってのに」
遊「これは初めまして、私は雪村遊ゆきむらゆうと申します。あなたの事は知っていましたが、声は知らなかったもので」
海斗「声?声より顔だろ。面が怖いせいで人が近寄って来ないってのは困りもんだぞ?」
遊「……私にとっては顔より声ですよ」
海斗「へー、見かけで判断しないのはいい事だな」
遊「そんなことはともかく。どこまで見ましたか」
海斗「どこまでって?」
遊「見ていたんでしょう?私と彼の会話」
海斗「まぁ少しはな」
海斗「んと…そうだな……お前が呪われてて泣いてたってくらいだな」
遊「っ!呪い、ですか……。くだらない話ですね、さっさと忘れてください。…失礼します」
海斗「あ、おい待てよ!……ちっ、なんなんだあの女は…」

2
SE:ちゅんちゅん
海斗(今朝の俺は凄まじく不機嫌だ。あいつはマジでなんなんだ、俺を怖がらない所も気に食わん)
??「珍しく考え込んでるね、どうしたんだい」
海斗「なんだよりゅう、お前みたいな顔も性格もイケてるやつよりは悩むことの一つや二つあるっての」
龍「お世辞はよしてくれよ。…にしても、海斗かいとが真面目に考え込んでるのは少し怖いな」
海斗「お前ですら怖がるのに、なんであの呪いの女は俺を怖がらんのかねぇ」
龍「呪いの女?……もしかして、遊ちゃんのこと?」
海斗「お前、知ってるのか」
龍「知ってるも何も…………。同じ陸上部でもあるしね」
海斗「なら話は早い、あいつの事を教えてくれ」
龍「やけに積極的だね、お兄さん気になっちゃうぞ?」
海斗「うるせぇ、いいから話せ」
龍「はいはい、分かった分かった」
龍「あの子は将来を期待されていた選手でね、ジュニア日本代表に選ばれたこともあるんだ」
海斗「へぇ、すげぇやつなんだな」
龍「でも妙な点があってね。代表に選ばれていた他の選手に怪我・辞退が続発したんだ」
海斗「怪我や辞退がなければあいつは代表に選ばれてなかったのか?」
龍「そう。それが"呪い"と言われている。彼女の道を塞ぐと呪われる、なんてね」
海斗「はっ、くだらねーな。辞退や怪我込みでの代表だとしても、実力がなきゃ行けねーっての」
龍「その通り。でも怪我や辞退した選手のファンや家族の中には彼女を悪く捉えてしまった人もいた」
海斗「呪いで蹴落とされた、なんて思ったのかね」
龍「多分ね。その結果、彼女は酷い中傷を浴び、精神にも身体にもダメージを受けた」
海斗「ひでぇ話だ……」
龍「そして、彼女の目は色を失った。普通の陸上選手には戻れなくなってしまった」
海斗「…………え?見えてなかった…のか……?」
龍「ぼんやりとは見えるらしいけどね」
海斗「……だから顔より声、か…」
龍「ん?」
海斗「いや、なんでもない」
龍「そうか、じゃあここらで解説終了ってことで。どうだ、満足したか?」
海斗「ああ、ありがとう。……面白くねぇな、呪いって騒ぎ立てて、才能ある若者の未来を奪うなんて」
龍「……じゃ、決まりだね。伴走者」
海斗「……は?何言ってんだ?伴奏?」
龍「伴(とも)に走るって方のばんそう。彼女、今度大会に出るらしいんだ」
海斗「おいおい、助けてやりたいとは思うが、俺とあいつの関係値はほぼ0みたいなもんだぞ?」
龍「ま、一つ聞いてくれ。昨日あの子が泣いてた理由を」
海斗「なんでお前が知ってるんだよ」
龍「種明かしは後で。……彼女の伴走者がまた怪我をして、お前とは走れないって言われたそうだ」
海斗「……そういうことか。"呪い"はまだ終わってないんだな」
龍「なぁ海斗。お前が止めてくれないか」
海斗「……ああもう真剣な顔しやがって、わーったよ」
龍「海斗!ありがとう!」

3
海斗(龍が渡してくれたメモだと、ここら辺を通るらしいが…本当に来るのか?)
海斗「……って本当に来た!おい、ゆきむ……あれ?」
龍「はぁはぁ……走るのって疲れるね。僕にはマラソンなんて無理だよ」
海斗「なんでお前があいつと一緒に走ってるんだよ!?」
龍「いやぁ、なんてったって僕らは兄妹だからね、妹の手伝いくらいするさ」
海斗「……そういやお前も雪村だったな、完全に抜けてた……。先に言えよ……」
龍「流石に気づくかなぁと思ったんだけどね、まさかここまで気づかないとは」
遊「えと、あの、お兄ちゃん……?どういうこと?」
龍「ああ、説明が遅れたね。あいつが桐生海斗。俺の親友であり、お前の伴走者だ」
遊「……はい?え、なんであの人が手伝ってくれることになってるの!?」
海斗「お前の兄たってのお願いだ。にしても、兄の前だと年相応な感じなのな」
遊「う、うるさいです!…………でも、どうして伴走してくれるんですか」
海斗「だからさっき言ったろ?兄の頼みだからって。本当は一銭の足しにもならない事したくもないさ」
遊「だ、だったらやらなきゃいいじゃないですか!別に大会なんて他にもありますし、大丈夫ですよ?」
海斗「……雪村、お前ビビってるな?」
遊「……やだな、言いがかりはよしてくださいよ。単純に都合が合わない時は仕方ないですし」
海斗「悪いが俺はお前の事情を概ね知ってるんだ。都合が合わない時ばっかり、じゃないのか?」
遊「なんで……!お兄ちゃん、どうして言ったの……!?」
龍「そりゃパートナーには伝えとかないとね」
遊「そうかもだけど!言ったところでなんの得にもならないよ……」
海斗「いいや、俺は得したよ。呪いってのはさ、意外と簡単に解けるってことを証明できそうで」
遊「え?」
海斗「いいか、雪村。俺は絶対に怪我しねぇし辞めねぇから安心しろ。だから、一緒に走るぞ」
遊「…………わかり、ました。で、でも私とは極力関わらない方がいいですよ、不幸が起きます」
海斗「は?おいおい、お前ごときの影響で不幸になるわけないだろ、俺だぞ?」
龍「な、こいつを信じてみないか」
遊「………うん、分かった。えと、これから暫くよろしくお願いします、桐生さん」
海斗「…………おう」

4
海斗(大会までの期間は短いながらも、順調に練習は進んでいた。しかし、どうやら平和には行かなそうだ……)
海斗「龍、これなんだと思う?」
龍「海斗の引き出しに入ってた手紙?…ラブレターとかか?」
海斗「正解はなんと、脅迫状でした!!」
龍「くっそー外した……………って待てなんて言った?」
海斗「だから脅迫状だって」
龍「はい??」
海斗「なになに……雪村遊の伴走者をやめろ、さもなくばお前たちに呪いが訪れるだろう、だってさ」
龍「げ、思った以上に脅迫状じゃないか」
海斗「どうやら向こうもだいぶ焦ってるみたいだな」
龍「待て待て、どういうことだ、向こうってなんだ」
海斗「俺はな、呪いなんて最初から信じてなかったが、不審な怪我や辞退には裏があると思ってたんだ」
龍「まぁ一理あるね。偶然という可能性も勿論否定しきれないけど」
海斗「で、俺は一人問い詰めれるやつが居たから調べさせて貰ったんだよ」
龍「問い詰めれるやつ?知り合いに代表選手でも居たか?」
海斗「まさか。答えは以前にパートナーを組んでたあの男だ」
龍「ああ、なるほど!呪いの影響を受けた最も手近な存在だもんな」
海斗「それに、あいつが辞退したのは怪我が一因らしいからな。だとしたら不審な点がある」
龍「なんだよ不審な点って」
海斗「あいつが断った時、俺の前を走って通り過ぎて行ったんだよ」
龍「あ!」
海斗「そう、走れる足があるのに怪我で辞退するなんておかしいよな?」
龍「海斗、お前今なら偏差値70くらいあるんじゃないか……!」
海斗「そんなに褒めるな照れるぜ?」
海斗「まぁそれはおいといて、問い詰めた結果、俺と同様に脅迫状が来て、 恐怖に耐えかねたみたいだ」
龍「脅迫状が来てもペアを組み続けるのは相当な度胸がいるからな」
海斗「ま、呪いの正体なんて案外こんなもんだ。あとは俺が屈さなければいいだけだ」
龍「でも待てよ、俺はお前に危ない目にあって欲しくない」
海斗「だったらなんだ、俺も辞退しろってか?冗談じゃねぇ、本末転倒もいいとこだ」
龍「でも――」
海斗「でもじゃねぇ。やるしかないんだよ」
海斗「いいか、龍。お前は精々全力で応援してくれ、お前のファンの女でもかき集めてな」
龍「ファンクラブがあるかは知らないけど……分かった。絶対無理はするなよ」
海斗「任せろ」

5
海斗(そして迎えた大会当日。あの後、相手は何の行動も起こしてこなかった……逆に怖いな)
遊「なんとかここまで来れたんだ……私、頑張りますね」
海斗「おう、それにあれだけ練習してきたし大丈夫だ、行けるさ」
海斗(ちなみに雪村には脅迫状の話はしていない。余計な心配なんてかけられない)
遊「その割に難しい顔してますね、笑いましょう」
海斗「お、おう」
遊「ぷぷっ、変な顔ですね」
海斗「なんだよ随分余裕じゃねぇか、安心させてくれるな」
海斗(俺たちが出場するのは5キロマラソン。妥当な距離だし、これなら大丈夫なはず…)
海斗(さぁ、競技開始――)
SE:ざわざわ
客「ん?もしかしてあれ、雪村じゃない?」
客「えーうそ?もう陸上やめてると思ったわ」
客「どの面下げて帰ってきてんだよ」
遊「っ……!」
海斗「チッ……」
海斗(くそ……やりやがったな……!ジュニア代表の頃の話を覚えてて、かつ野次る連中が都合よく居てたまるか……!)
遊「ひっ、あっ、あああ…ち、違う、私は何も……何もしてないのに………!」
遊「あ、ああ、ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
海斗「雪村!!」
遊「ごめんなさい!!」
海斗「…………大丈夫だ、お前はちゃんとやってきた。周りの汚い声ばかりに耳を傾けるな」
遊「え……?」
海斗「耳を澄ましてみろよ」
龍「遊ちゃーーーん!!頑張れーー!!!」
モブ「妹ちゃんファイトー!」
モブ「負けるなーー!」
海斗「な、応援してくれる人もいっぱい居るんだ。だから大丈夫」
遊「あっ………うん!」
海斗「よし、じゃあいっちょ頑張りますかぁ!」
SE:カラス(夕暮れ感)
海斗「ま、ざっとこんなもんよな」
遊「うぅ…優勝出来なかった……」
海斗(単純な話、目が見えなくなってから走る量が減っていて、その分スタミナが落ちていた事が響いてしまった)
龍「2人ともお疲れ様。3位だって立派な成績だよ!」
海斗(でも、久しぶりのマラソンでこれだけの成績を残せたあたり、こいつってすげーんだな)
遊「うええええ疲れたあああああ」
海斗「お疲れ、頑張ったな」
遊「うん………ありがとう。桐生さんが居なかったら私、走れなかったよ」
海斗「俺は何もしてねぇよ、お前が頑張ったからこの結果が出たんだよ」
遊「うん……そうかも」
海斗「おい、ちょっとは謙遜しろよ」
遊「でもね……」
海斗「なんだ?」
遊「呪いを解いてくれたのは、間違いなくあなただったから。だから、ありがとう」
海斗「…………いいってことよ」
龍「めでたしめでたし、って感じだね」
海斗「何言ってんだ、むしろ今呪いが解けたから終わりどころか始まりだっての」
遊「ふふふ、ついに呪いの女卒業だ!」
龍「じゃ、祝勝会と行きますか」
海斗「勝ってはないけどな」
龍「3位は勝ちの部類だろ」
遊「そうだそうだー」
海斗「ま、そうだな。じゃ、幸せを噛み締めにいこうぜ」
龍 遊「「おー!!」」

〜fin〜

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