冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話

黒杉くろん

61:願った未来へ

 私は完全にこちらの異世界の冬姫エル……になったんだ。

 腰から尻尾がゆらりと生えているし、人間の耳も無くなってしまった。
 人間の耳があった場所は、つるりと皮膚が覆っている。とてもビックリだよね!?
 もしかして獣姿にもなれるのかなぁ……?

 不思議に思っていると、またフェンリルに引き寄せられて、口付けられた。

「んむっ!?」
「…………っはあ、すまない。エルの魔力はやはり莫大でな……っ少々、分かち合ってもらった」
「そ、そう、なんだ……うん、私としては失くした魔力が戻ってきてむしろ体調がいいから、全然オッケー」

 ……全然オッケーってなんだ!?
 ちょっと待って、私は何を口走っているの……顔真っ赤だから、フェンリルそんなに見ないで。恥ずかしい。

「今後、これを日課にすれば上手いこと魔力を分かち合えそうだな」
「NIKKA」
「エル?  照れているのか?」
「……そりゃあもう!?」
「そうか」

 フェンリルは幸福そうに笑ってみせるものだから、私はもう何も言えない……!
 一瞬処理落ちしたわ。

 これが、日課に?  
 私、心臓止まってしまわない?

「お互いの魔力が均等になれば……同じ時間だけ生きることができるだろう。ともに約500年くらいだろうか?」
「それがいい!」

 思わずガッツリ食らいついてしまった。
 ハッと動作停止した私に、フェンリルがまた口付けた。

 キス魔!!!!
 いや私の望み通り!!!!
 なんなんだ!?!?

 蚊の鳴くような声で「一緒に生きていきたい……」と伝えるのが背一杯だった。
 これまで何度、二人でこう確認しただろうか。
 ただの儚い夢だったこの願い事が、まさか確実な未来になってくれそうだなんて。

「落ち着いたら、改めてプロポーズするとしよう」

 柔らかな熱がこもったフェンリルの声がさわりと私の獣耳に入ってきた。
 一生、忘れられそうもない。


「「<心から祝福致しますーーーー!!>」」
<<キャーー!  キャーー!>>

 全く落ち着きがない大歓声がガツンと背中を打った。

 会話に区切りがついたと見るやいなや、グレアがユニコーン姿のまま器用にひれ伏していて、クリスは大号泣しているし、ミシェーラは頬を染めてにっこにこの笑顔でこちらを凝視している。

 オーブとティトはバシバシとお互いの肩を叩いてはしゃぎ口笛を吹き、私たちを全力でひやかした。

 ちょっと!?!?
 怪物がまだいるっていうのに……ほ、ほら!  警戒しよう!?

 ピカッ!  と氷の中のタブレット端末がフラッシュを浴びせてきた。
 ──カシャ。カシャカシャカシャカシャ

「ちょっと!?  それ連続撮影じゃないの!?」

 手のひらに振動。スマホだ。
 発信源はタブレット端末。

『婚約誠におめでとうございます』

 なんと私とフェンリルが寄り添う高解像度写真が、白い花とウエディングベルのフレームで彩られている。

「粋な計らい!!」
『恐れ入ります』

 なんなんだ!?
 ……すっかり肩の力が抜けてしまった。
 …………。

 スマホの姿が一瞬、ブレた。
 ……ってことは……?

「この世界を不安定にさせていた異物……藤岡エル、について教えて」
『存在を確認できません』

 タブレット端末がそう告げた。

 氷の中で、奇妙な怪物の姿もブレ始めている。

 落とし物たちをこの世界に繋げていた縁が切れて、日本に還ろうとしているのだ。



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