冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話

黒杉くろん

40:雪山の祭壇

 父に連絡をしてしばらくたつと返信がきた。
 待たせていたんだなぁと……今更ながら実感する。
 メールを見るの、怖かったけど、フェンリルに寄りかかってグレアに寄り添ってもらって、雪山の頂上でスマホのボタンを押した。

『ーーそうか。元気でよかった。柊(ノエル)が自分から言ってくれるのを待っている』

「はーーーーー」

 思い切り長く息を吐いた。げっほ、ごほっ!  ちょっとむせたら、グレアが呆れた顔で私を眺めてきた。でも馬耳が伏せているから、つまんで立たせておく。

<どうだった?  エル……>

 フェンリルは心配そうに私に尋ねる。

「えーっとね……私からまた連絡するの、待ってるって。それから、私が元気で良かった……って」

 フェンリルは我が事のように喜んで、微笑んでくれる。グレアも。目頭が熱くなる。本当に、あなたたちのおかげだよ。

「今ならね、すごい魔法が使えるような気がするー!  すごく気持ちが晴れやかだから」

「やって見せてくれるか」

 フェンリルが期待してる!  よーし!  じゃあ、見てて。
 私は足をダンっと強く踏み鳴らした。

 足元から魔力が溢れて、青の魔法陣を広げていく。
 タタン、と軽く足踏みすると、雪色の魔法文字が浮かび上がって、魔法陣の端に氷の支柱を六本作り上げる。
 くるりとターン!  支柱からカーブした氷の道が天高く伸びて、ドームに。
 仕上げの手拍子、ドームのてっぺんに巨大な氷の結晶を作り上げた。

「溶けませんように」

 フェンリルが作ったみたいな溶けない氷になったらいいなぁ。手を合わせて結晶を拝んでおく。
 ポッカーンとしているフェンリルたちを振り返って、

「氷の祭壇ができましたよー!  さあフェンリルっ、さあさあー!」

<私でいいのか?>

「あなたがいいの!」

 一番に登っていいのか気になったんだろうけど、ここに登るフェンリルが見たくて作ったんだよね。
 グレアも目を輝かせている。きっと私も同じ状態だだろうな。
 二人のギャラリーに見送られながらフェンリルが祭壇に登った。

 ”グオオオオーーーン!”

 迫力のある遠吠えがはるか遠方にまで響いていく。
 怖くなんてなくて、私たちは心地よく耳を揺らした。贅沢なコンサートみたい。あれっ、私の感性、まるで雪山の獣になったようだ。
 まあいいや、それよりも隣で感激しているグレアにハンカチを渡しておく。

 声は王国まで届いただろう。みんな信者みたいだし、歓喜してるかもね?

 そんなことを考えてたら、ちんまりと見えている王城から青い光が空に伸びて、ドドーン!!  と青の花火を咲かせた。
 ミシェーーラーー!?  だよねコレ!?  すんごい!

<ははっ!>

 フェンリルが楽しげに笑ってる。彼はずっと、五年間冬を呼べなかったことを気に病んでいたけど、完全に元気になった……かな?  なんだか私たちまで嬉しくなった。

<素晴らしい経験をありがとう、エル。祭壇からの眺めは最高だった。今度は一緒に登ろう>

「うんっ」

 せっかく誘ってもらえたんだけど、ここで雪妖精からのヘルプ。冬毛になっていない動物が発見されたんだって。急いで行ってあげなくちゃ。
 祭壇に登るのは本当にまた今度、になった。未来に楽しみがあるっていいよね。全てに無気力で暗い部屋でおちこんでいた日本でのことも、遠い思い出のように振り返ることができた。

<魔法を使って疲れていないか?  エル>

「全然大丈夫。さあ、お仕事がんばろうっ」

 この雪山が大好きだから、私にできることをしたいの。それに雪山の仕事は新鮮で楽しくて、フェンリルたちは優しいし、最高なの。
 ーー自分にもっと自信がついたら、冬姫としてここで生きていく、って言おう。そう決めた。

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