冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話

黒杉くろん

34:子の幸せ、親の喜び



 目を覚まして……白銀の世界に迎えられる。

<おはよう。エル>

「おはようございます。エル様」

「よく眠れましたか。プリンセス」

 優しい声。
 まだここちよくまどろみながら目を細める。

「おはよう」

 私の口からも柔らかな声が出た。


 ***


 今日は朝からレヴィの温泉につかる。
 んーー!  これ!  至福のあたたかさに包まれて全身の力を抜いてリラックス。
<冬姫様は本当にレヴィが好きなのね>って言いながらレヴィが後ろから抱きついてきたから、湯の乙女を背もたれにしてだらーんと足を伸ばした。
 朝日が雪景色を照らす。
 白が眩しいくらい輝いている。
 きれいだな、と感動しながら温泉から上がった。
 水着スタイルからいつもの冬ドレスに変身する。

 今日のご飯は!  薄切り肉に温泉卵。

「グレアこれ好きだねぇ」

「栄養価が高いですから」

 グレアはそんなことをツンとすましながら言う。
 薄切り肉の味付けは岩塩。
 これはクリストファー王子が持っていたものだから、心からお礼を言った。塩大好きだーー!

「フェンリル。どう?  人型での食事は」

 めちゃくちゃ美人の人型フェンリルがもぐもぐと上品にお肉を咀嚼している。
 私たち三人はわくわくと気持ちをシンクロさせながら彼を見つめる。

「豊かな味が感じられて食事がいっそう楽しい」

「やったー!」

 味の感想を聞いてやったーって意味わかんないでしょ?
 でもこのフェンリルの微笑みを見てたらなんか勝手に言葉が飛び出してくるんだってば!  ほんと体感してほしい。多分みんなこうなるって。
 フェンリルに信仰心も抱くわ。

 みんなで食事を楽しんだ。
 獲物を狩ってくるって習慣にも慣れてきたなぁ。

「!」

 私が立ち上がると、ポシェットからスマホが転がり落ちた。
 雪の上に落ちて画面が壊れることはなかったけど、すんっごい冷や汗かいたぁ……!  も、もう!  
 あれ。私以外の3人の方が、ビクゥッ!  って飛び上がって驚いてる。どうして?  ……あ。怪物を見たあとだからこれが怖いのかな。

「あのね。これは怪物の一部じゃないよ!  異世界の通信道具で……」

「知っ……」

 王子様にグレアがラリアットをかました。
 何!?!?

「仲良しだな」

「そうなの!?」

「昨夜いろいろと2人は話をしたのだ。王国と雪原、フェンリル族を守るためにともに力を合わせようと合意していた。今では名前で呼び合う仲だ」

「そうなんだぁ」

 力関係は相変わらずグレアの方が上っぽいけど。
 相手、王位継承権第1位の王子様だからね?  じゃれあいはそろそろ自重しようね?  
 グレアの背後にこっそり忍び寄って、フーっと首筋に冷風を吹きかけてみたら飛び上がって驚いていた。
 ごっめーん!  あはは!

 グレアに追われて走っていると、フェンリルにぶつかった。いつの間に前に!?
 顔を手で包まれて、まっすぐに見つめ合う。

「エル。その機械……以前、親から、エルのことを心配するメッセージが届いていたな。返事を送ることができるのだろう?  伝えてあげなさい」

 息が止まった。
 私、考えないようにしていたから……。

「今が幸せだ、と保証してあげる内容だと親は嬉しいと思うよ。同じくエルを愛娘だと思う私の気持ちだ。
 エルが、今の状況をそう感じてくれているといいのだが……」

「それは確実だよ」

 私はすぐに肯定した。フェンリルの耳が伏せていたから、不安なのかなって、思わず。
 そしたらとても綺麗に微笑んでくれた。
 安心できる。

「……返信の内容、考えて、みるね」

「そうしよう」

 フェンリルにゆっくりと抱きしめられて、背中をトントンと叩かれた。
 長い髪がふわりと私を包む。獣の時に毛並みに埋もれている感覚を思い出す。人型の時でもやっぱりフェンリルはフェンリルだな、魔力がなじんで、すごく落ち着く……。

 そっと頷いて、スマホをポシェットにしまい直した。
 フェンリルたちには伝えてない詳細な事情もあるから……三年は仕事を続けなさいってとことか……ええと……文面を考えて、また、あとで、きっと、返事をしよう。

「子どもの幸せが親の喜び……かぁ」

 なんだか胸がいっぱいになりながら、みんなの後に続いて洞窟の外に出た。
 遠くでソリの鈴の音が聞こえてきている。
 ミシェーラ姫たちがやってきたらしい。

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