冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話
24:ミシェーラ姫の悩み
(ミシェーラ視点)
倒れたお兄様を冷めた目で見下ろす。
原因は分かっています。あちらの麗しい冬姫様に初恋をしたのでしょう。
それでもこのような大事な場面で気絶など使者として、第一王子として許されません。
フェンリル様たちはお優しくご厚意で看病してくれているからよかったものの……もしも失礼な態度と捉えられて、不快にさせてしまったらどうするのです!?
しっかりなさって下さいませ!
「クリストファー王子、ずいぶんと努力してここまで来て下さったんですね。体調不良になるほど」
お兄様のおでこに手を当てながら、冬姫様が心配そうにおっしゃる。
ああ、そのように受け取ってくださり本当によかった。
「ご配慮感謝申し上げますわ」
「いえいえ。ご足労頂いたんですし」
会話が成り立つ半獣人の冬姫様を、不思議そうに見つめる。
美しい人。
異世界人なのだと聞いて本当に驚きました。
今まで人が訪れることなどありませんでしたから。
「どうかミシェーラと呼んで下さいませ。冬姫様」
高位人物と距離を縮めるのは大切です。
冬姫様が近くにいる今のうちにそっと囁く。
「冬姫様、って呼びづらくないですか?  私もエルと呼んで下さい。ミシェーラ」
「よろしいのですか?  大変嬉しいです!  エル様」
「うーん。じゃあそれで」
親密度アップだわ!  やりました!
エル様のはにかむような微笑みに少しの間見惚れた。
「んん……」
あら、お兄様、ようやくお目覚めかしら?
お覚悟なさいませ。
「体調が回復したんですね!」
「……ップリンセスーーー!?」
バターン!  と、雪に毛布を敷いたベッドから転がり落ちる。
最悪です。頭が痛いですよ?  もーー!
「す、すみません、近くてびっくりして」
「驚かせちゃってごめんなさい」
エル様の獣耳がぺたんと伏せる。
フェンリル様とユニコーン様のご機嫌があきらかに急降下ですよお兄様ーー!?
ちらりと目配せして眼力で(お兄様を隔離)と騎士団長たちに伝える。
服についた雪を従者がはらうフリで、少し後ろに下がってもらった。
「申し訳ございませんエル様。お兄様ったら……珍しい食材に目がなくて、森林で飛び上がりキノコを食べてしまったのです」
「と、飛び上がりキノコ?」
「気絶後にジャンプしたくなるキノコです」
「へ、へぇ」
エル様は「魔法世界には不思議がいっぱいなんだねぇ」とおっしゃっている。
苦しい言い訳だったけど、彼女が異世界の方でよかった……!
あ、実際に存在する毒キノコなんですよ。
フェンリル様たちの視線が生ぬるくなりましたが、勉強料と思って下さいませお兄様。
「素晴らしい氷魔法の使い手ですのね。エル様は」
「照れるなぁ。フェンリルが丁寧に教えてくれるからだよ」
フェンリル様とエル様はとても仲睦まじく見つめ合っている。
……もっともっと仲良くなって下さいませ。
そうしたら、わたくしは、きっと……祈るような気持ちで考える。
「エル様はフェンリル様の後継ですからね」
ユニコーン様がおっしゃる。
「素晴らしいですわ!」
すぐさま肯定した。
実績を作る。
ユニコーン様がわたくしを見る。
「つまりミシェーラ姫はもうあの魔法陣で呼ばれることはありません。エル様がおりますから。ご自由に生きて下さいませ」
「ーーーー!!」
それはわたくしがずっと望んでいた言葉でした。
ユニコーン様はフェンリル様のお気持ちを代弁なさった。
わたくしは、本当に自由……ーー!
「投げやり。グレアー」「連絡は簡潔にわかりやすく、ですよ」「ぐぅ」なんて会話が聞こえてきますが、投げやり大歓迎ですわ!!!!
レールが消滅し、わたくしの未来が広く拓(ひら)かれたのです。
「ミシェーラ?  目が潤んでるけど、大丈夫?」
あっ、もうわたくしったら、取り繕わないと。
微笑んで頷いたら、涙がポロリと落ちた。ああっ、もうっ!  こんなはずじゃ。
「……不安に思うよね。いきなり道が無くなると」
大歓迎ですけれど???
エル様はとても辛そうな表情でわたくしの手を握ります。
心配されているのでしょうか。
大丈夫、と返すのは簡単ですけれど、彼女は真剣なのでわたくしも最後まで話を聞きます。
「ミシェーラ、これからどうしたい?  やりたいこと、夢はある?
私があなたの魔法陣に割り入っちゃったから、なにか……手伝えることがあれば手伝いたいんだ」
エル様はフェンリル様の後継となった運命を幸せに感じているのですね……。だからわたくしに申し訳ないと考えてしまう。
「わたくしのやりたいことは」
「うんっ。教えて」
「フェルスノゥ王国初の女王陛下となり、国を治めることですわ!!」
とても明るい笑顔と声で言い切った!
この好機を逃すものですか!
エル様もフェンリル様たちも騎士団も、お兄様も唖然と言葉を失っている。
お気持ちはわかります。
しかし現実を受け入れて下さいませ。
「……ミシェーラ!?  何を言って……本気なのか!?」
「お兄様。夢を聞かれたのでお答えいたしました。わたくしの長年の望みです」
そのために幼い頃から勉学、話術、武術など全てを努力してきたのです。
だから……フェンリル様の後継に選ばれた時には絶望しました。
光栄な立場とは分かっておりましたが……それでも、15年の全てを忘れて獣として生きていかなくてはならないなんて、とても辛かった。
皆の前で毅然と立ち振る舞う裏で、なんども泣きました。
「お兄様。わたくしは帰ったらお父様たちにこの気持ちをお話ししようと思います」
「なんだって!?  ぐっ……父上はそんなこと認め、る、かも……しれない……」
「柔軟ですものね」
お兄様ががっくり肩を落とした。
「それでは僕はどうしたらいいというんだ。次期王はクリストファー・レア・シエルフォンと決まっている。実の妹と権力争いなんてしたくない……!」
「席を譲って下さいませ」
「!?」
驚くお兄様をまっすぐ射抜くように見つめる。
「わたくしは知っていますわ。お兄様が本当は王になりたくないこと。
昔から自然の中を歩き回ることが大好きで、植物や動物のことをよくわたくしに教えて下さいましたね。お勉強の最中にこっそり図鑑を眺めていたことも知っています。
お兄様、今がチャンスです」
「な、なにを……そんな……」
「今しかございませんわ」
お兄様がしどろもどろと青い顔で言いよどむ。
そういうところですよ?  お兄様は感情が顔にでますし、交渉ごとが苦手ですよね。
無理をして政治の場に出続けていると、そのうちすり減って倒れてしまいますわ。
お兄様が抱えているたくさんの政務、わたくしなら全て滞りなくこなせます。
「わたくしにとってもお兄様にとっても最善の提案をしています」
「ま、待って下さい!」
騎士団長たちが割り込んでくる。むぅ。
「こちらで即決というのはあまりに無茶です。短慮すぎます。せめてもっと会議を重ねて……」
「フェンリル様たちがいる場で決めてしまった方がスムーズでしょう?  フェルスノゥ王国とフェンリル様たちはこれからも手を取り合ってゆくのですから」
光の祝福を与えられたような気持ちで、わたくしは気持ちを高揚させたまま、高らかに告げた。
「それに、フェンリル様が認めれば異論はでないから便利、と?  利用されるのは不愉快ですね」
ユニコーン様がおっしゃる。
ーーしまった!
つい言い過ぎましたわ……
「そ、そんなつもりじゃ!」
わたくし、はしゃぎ過ぎてしまいました。
夢が叶うかも、と嬉しくて。
外交としてダメでしたね……。
「そんな言い方しないであげてよ」
エル様がかばってくれます。
相変わらずお優しいですが、よろしいのですか……?
「ミシェーラが自分がやりたいことを言ったのは、私が聞いたからだよ。
大きな夢があって、叶えたいって断言できるのはとてもすごいと思う……。ミシェーラがこんなにしっかりしてるのも、きっと昔から女王様になりたくて努力してたからなんだよね。
話、ここでしてみてもいいんじゃないかな?
フェンリルがいるから決定、とかではないと思うし、兄妹でゆっくり相談できるのって今しかないと思う」
「エル様……ありがとうございます」
感激いたしました。
心まで綺麗で聡明な方なのですね。
深く感謝しながら、頭を下げます。
フェンリル様とユニコーン様も頷いた。さすが後継様でいらっしゃいます。
「冬姫エル様をわたくしミシェーラは心からお慕いしておりますわ!」
「あ、ありがとう」
エル様は照れたように微笑んだ。
お兄様!!
おかしな悲鳴を上げている場合じゃありませんわ!!
さあ。お話とまいりましょう。
倒れたお兄様を冷めた目で見下ろす。
原因は分かっています。あちらの麗しい冬姫様に初恋をしたのでしょう。
それでもこのような大事な場面で気絶など使者として、第一王子として許されません。
フェンリル様たちはお優しくご厚意で看病してくれているからよかったものの……もしも失礼な態度と捉えられて、不快にさせてしまったらどうするのです!?
しっかりなさって下さいませ!
「クリストファー王子、ずいぶんと努力してここまで来て下さったんですね。体調不良になるほど」
お兄様のおでこに手を当てながら、冬姫様が心配そうにおっしゃる。
ああ、そのように受け取ってくださり本当によかった。
「ご配慮感謝申し上げますわ」
「いえいえ。ご足労頂いたんですし」
会話が成り立つ半獣人の冬姫様を、不思議そうに見つめる。
美しい人。
異世界人なのだと聞いて本当に驚きました。
今まで人が訪れることなどありませんでしたから。
「どうかミシェーラと呼んで下さいませ。冬姫様」
高位人物と距離を縮めるのは大切です。
冬姫様が近くにいる今のうちにそっと囁く。
「冬姫様、って呼びづらくないですか?  私もエルと呼んで下さい。ミシェーラ」
「よろしいのですか?  大変嬉しいです!  エル様」
「うーん。じゃあそれで」
親密度アップだわ!  やりました!
エル様のはにかむような微笑みに少しの間見惚れた。
「んん……」
あら、お兄様、ようやくお目覚めかしら?
お覚悟なさいませ。
「体調が回復したんですね!」
「……ップリンセスーーー!?」
バターン!  と、雪に毛布を敷いたベッドから転がり落ちる。
最悪です。頭が痛いですよ?  もーー!
「す、すみません、近くてびっくりして」
「驚かせちゃってごめんなさい」
エル様の獣耳がぺたんと伏せる。
フェンリル様とユニコーン様のご機嫌があきらかに急降下ですよお兄様ーー!?
ちらりと目配せして眼力で(お兄様を隔離)と騎士団長たちに伝える。
服についた雪を従者がはらうフリで、少し後ろに下がってもらった。
「申し訳ございませんエル様。お兄様ったら……珍しい食材に目がなくて、森林で飛び上がりキノコを食べてしまったのです」
「と、飛び上がりキノコ?」
「気絶後にジャンプしたくなるキノコです」
「へ、へぇ」
エル様は「魔法世界には不思議がいっぱいなんだねぇ」とおっしゃっている。
苦しい言い訳だったけど、彼女が異世界の方でよかった……!
あ、実際に存在する毒キノコなんですよ。
フェンリル様たちの視線が生ぬるくなりましたが、勉強料と思って下さいませお兄様。
「素晴らしい氷魔法の使い手ですのね。エル様は」
「照れるなぁ。フェンリルが丁寧に教えてくれるからだよ」
フェンリル様とエル様はとても仲睦まじく見つめ合っている。
……もっともっと仲良くなって下さいませ。
そうしたら、わたくしは、きっと……祈るような気持ちで考える。
「エル様はフェンリル様の後継ですからね」
ユニコーン様がおっしゃる。
「素晴らしいですわ!」
すぐさま肯定した。
実績を作る。
ユニコーン様がわたくしを見る。
「つまりミシェーラ姫はもうあの魔法陣で呼ばれることはありません。エル様がおりますから。ご自由に生きて下さいませ」
「ーーーー!!」
それはわたくしがずっと望んでいた言葉でした。
ユニコーン様はフェンリル様のお気持ちを代弁なさった。
わたくしは、本当に自由……ーー!
「投げやり。グレアー」「連絡は簡潔にわかりやすく、ですよ」「ぐぅ」なんて会話が聞こえてきますが、投げやり大歓迎ですわ!!!!
レールが消滅し、わたくしの未来が広く拓(ひら)かれたのです。
「ミシェーラ?  目が潤んでるけど、大丈夫?」
あっ、もうわたくしったら、取り繕わないと。
微笑んで頷いたら、涙がポロリと落ちた。ああっ、もうっ!  こんなはずじゃ。
「……不安に思うよね。いきなり道が無くなると」
大歓迎ですけれど???
エル様はとても辛そうな表情でわたくしの手を握ります。
心配されているのでしょうか。
大丈夫、と返すのは簡単ですけれど、彼女は真剣なのでわたくしも最後まで話を聞きます。
「ミシェーラ、これからどうしたい?  やりたいこと、夢はある?
私があなたの魔法陣に割り入っちゃったから、なにか……手伝えることがあれば手伝いたいんだ」
エル様はフェンリル様の後継となった運命を幸せに感じているのですね……。だからわたくしに申し訳ないと考えてしまう。
「わたくしのやりたいことは」
「うんっ。教えて」
「フェルスノゥ王国初の女王陛下となり、国を治めることですわ!!」
とても明るい笑顔と声で言い切った!
この好機を逃すものですか!
エル様もフェンリル様たちも騎士団も、お兄様も唖然と言葉を失っている。
お気持ちはわかります。
しかし現実を受け入れて下さいませ。
「……ミシェーラ!?  何を言って……本気なのか!?」
「お兄様。夢を聞かれたのでお答えいたしました。わたくしの長年の望みです」
そのために幼い頃から勉学、話術、武術など全てを努力してきたのです。
だから……フェンリル様の後継に選ばれた時には絶望しました。
光栄な立場とは分かっておりましたが……それでも、15年の全てを忘れて獣として生きていかなくてはならないなんて、とても辛かった。
皆の前で毅然と立ち振る舞う裏で、なんども泣きました。
「お兄様。わたくしは帰ったらお父様たちにこの気持ちをお話ししようと思います」
「なんだって!?  ぐっ……父上はそんなこと認め、る、かも……しれない……」
「柔軟ですものね」
お兄様ががっくり肩を落とした。
「それでは僕はどうしたらいいというんだ。次期王はクリストファー・レア・シエルフォンと決まっている。実の妹と権力争いなんてしたくない……!」
「席を譲って下さいませ」
「!?」
驚くお兄様をまっすぐ射抜くように見つめる。
「わたくしは知っていますわ。お兄様が本当は王になりたくないこと。
昔から自然の中を歩き回ることが大好きで、植物や動物のことをよくわたくしに教えて下さいましたね。お勉強の最中にこっそり図鑑を眺めていたことも知っています。
お兄様、今がチャンスです」
「な、なにを……そんな……」
「今しかございませんわ」
お兄様がしどろもどろと青い顔で言いよどむ。
そういうところですよ?  お兄様は感情が顔にでますし、交渉ごとが苦手ですよね。
無理をして政治の場に出続けていると、そのうちすり減って倒れてしまいますわ。
お兄様が抱えているたくさんの政務、わたくしなら全て滞りなくこなせます。
「わたくしにとってもお兄様にとっても最善の提案をしています」
「ま、待って下さい!」
騎士団長たちが割り込んでくる。むぅ。
「こちらで即決というのはあまりに無茶です。短慮すぎます。せめてもっと会議を重ねて……」
「フェンリル様たちがいる場で決めてしまった方がスムーズでしょう?  フェルスノゥ王国とフェンリル様たちはこれからも手を取り合ってゆくのですから」
光の祝福を与えられたような気持ちで、わたくしは気持ちを高揚させたまま、高らかに告げた。
「それに、フェンリル様が認めれば異論はでないから便利、と?  利用されるのは不愉快ですね」
ユニコーン様がおっしゃる。
ーーしまった!
つい言い過ぎましたわ……
「そ、そんなつもりじゃ!」
わたくし、はしゃぎ過ぎてしまいました。
夢が叶うかも、と嬉しくて。
外交としてダメでしたね……。
「そんな言い方しないであげてよ」
エル様がかばってくれます。
相変わらずお優しいですが、よろしいのですか……?
「ミシェーラが自分がやりたいことを言ったのは、私が聞いたからだよ。
大きな夢があって、叶えたいって断言できるのはとてもすごいと思う……。ミシェーラがこんなにしっかりしてるのも、きっと昔から女王様になりたくて努力してたからなんだよね。
話、ここでしてみてもいいんじゃないかな?
フェンリルがいるから決定、とかではないと思うし、兄妹でゆっくり相談できるのって今しかないと思う」
「エル様……ありがとうございます」
感激いたしました。
心まで綺麗で聡明な方なのですね。
深く感謝しながら、頭を下げます。
フェンリル様とユニコーン様も頷いた。さすが後継様でいらっしゃいます。
「冬姫エル様をわたくしミシェーラは心からお慕いしておりますわ!」
「あ、ありがとう」
エル様は照れたように微笑んだ。
お兄様!!
おかしな悲鳴を上げている場合じゃありませんわ!!
さあ。お話とまいりましょう。
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