冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話
17:保護者たちの相談
(グレア視点)
洞窟に妙な音がなり、エル様が取り乱して、彼女の状況についてそれなりに理解した。
泣きじゃくっていて本人の説明も上手くなかったし、かわいそうに感じて俺たちも問い詰めることはなかった。
泣き疲れて、俺の隣で眠っている。
気づいていないかもしれないが、彼女はきつくこちらの手を握っていて離さなかった。
<では、今宵はそこで眠れ、グレア。相談にのってもらった礼だ>
「!?!?よろしいのですか!?!?」
しまった不意打ちすぎて反応が気持ち悪い!
静まれ、俺!!
きっとユニコーン姿だったらぶんぶん尻尾を振っていたんだろうな。やべぇ。
フェンリル様をお慕いしているからこそ、失態は見せたくないのだが。
光栄が過ぎたんだ。
エル様の今後の相談をするのは当然のことですのに。
ありがたくご厚意を賜ることにした。
丁寧に背中に雪のイスを作ってくださる。
お優しさにいっそう信仰心が高まります!!!!
そんなことを考えながらも、スコッと気絶するように眠ってしまった。
どうやら、俺なりにとても頑張った一日だったらしい。
***
フェンリル様のお声で目覚める。
最高の目覚めだが、自発的に起きるつもりでいたのに申し訳ない。
そんなことを謝られても困るだろうから、言わないけど。
<耳が伏せているぞ。そう気にするな>
耳立ちやがれ!!!!  ちくしょう!!
「失態を失礼いたしました」
フェンリル様は少し体を震わせた。笑っているようだ。
エル様と出会ってから、フェンリル様はずっと楽しそうで、前よりも表情が豊かになった。
<エルが起きるまで、そのスマホとやらの話をしよう>
「そうですね」
いまだに、エル様の手に大切そうに握られている機械。
実の親の愛情への執着は、俺には分からないが、エル様にとって大切なのだろうと想像はできる。
取り上げたり、記憶を消すことはしないとフェンリル様はおっしゃった。
<エルの負担をできるだけ軽くしてやりたい。実の親の言葉は、まあ責めるものではなく、娘を心配するものだった。それならば、返信してやればいいのではないだろうか>
「……難しいですね」
すぐには頷けない。
エル様は文面の全てを読み上げたわけではないのでは?  と、あの時の言葉の詰まらせ方から思ったんだ。
「返信したら、またあちらからも返信がありますよ。その内容が今度こそ、エル様を傷つけるものかもしれません」
<ううむ……。心配の文面だけでも、エルはあんなにも悩んでいたからなぁ>
フェンリル様が心底困ったように顔を顰めた。
異種族の彼の表情は分かりにくいものですが、俺は完璧に理解できますよ。
<しかし、便りの返信がなければ、親が「何事だ」と問い詰めることもあるのでは?>
「やはりエル様の記憶を消したほうがよいかと」
<こらこら>
俺は本当にそう思うんですよ。
だって、エル様がもしも心の奥で異世界に帰りたいと思っていたとしても、そんな手段は誰も知らなくて帰れない。
フェンリル様の後継としてバツグンの適性があり、愛娘として愛されて、俺のサポートがあり、こちらにいれば何の不自由もないでしょう?
栄光の道が約束されています。
「スマホに連絡があるまで、エル様ははしゃいでいて楽しそうでしたよね?」
<……ううむ>
「記憶は大切なものです。しかし時には不必要。
忘れた方が、気兼ねなく今を豊かに生きられることもあると思います。
昼間はしゃいでいたエル様は、一時的につらいことを忘れた状態だったのでしょう」
……思い出すつもりはなかったが、仕方ない。本心で真剣に語ろう。
「ユニコーン仲間に容姿を貶されたことや、親からの冷たい視線など、俺は覚えていません。
毎度記憶を消していましたから。
まあ故郷に帰るたびに同じ対応をされ、最近はどうでもよくなり記憶を消していませんが。
昔は、毎度気に病んでいたように思います」
恥ずかしいことだ。
しかし議論のため、すべて打ち明けるべきと判断した。
「他者からの評価は時に猛毒になり、自尊心を蝕みます。
そんなことで自分を疑い、自信をなくしてしまえば、あとは暗いところに落ちていくだけ。
忘れることも薬になりますよ」
<オマエも茨の道を突き進んできたのだなあ>
フェンリル様が苦笑している。
<その通りだ、と全肯定はできかねるが……グレアが言いたいことは理解できるし、補佐になってくれて助かっているよ。現状に礼を言おう>
「光栄です!!!!」
あああもうなんと尊いのか!!!!
おっと、今はエル様の話題の最中なので必死にそちらに集中する。
落ち着け、俺。
フェンリル様のため息の冷風のおかげで、頭が冷え……るわけはないんだよなぁ。この距離感がスペシャルすぎて俺のファン魂が荒ぶっている。いえ抑えつけてみせます。
<……私も記憶がない身だ。獣の姿となった時に、王子であった十数年間のことは忘れた。
それは必要なことだったと思うよ。
先代フェンリル様の愛子として獣の生活をしていくのだから。いつまでも人のつもりでいては、この牙で狩りをすることもできない>
フェンリル様がぐあっと口を開くと、鋭い歯が覗く。
なるほど、人は血まみれの獲物を口で運んだりしませんからね。
森林の獣たちと会話をする時には、獣姿の方が抵抗なく受け入れられる。
逆に、人と話す時には人型の方が受け入れられやすい。
森林を拠点に暮らすならば、フェンリル様は獣型をスタンダードにせざるを得ないのだ。
「フェンリルの半獣人、冬姫エル様として、彼女はこれから生きていくのですから」
断言した。
フェンリル様はまだ悩んでいるから、俺が言うんだ。
やはり困った顔をなさった。
<そうなればいいな、とは思っている>
「俺はそうなると信じております」
エル様は選ぶでしょう。後継になることを。
だって、どれだけたくさんの愛情をフェンリル様に注がれていることか。
長らく会っていなかったような実の親よりも、こちらを選ぶはずでしょう?
フェンリル様はしばらく沈黙した。
思案なさっているようだ。
<ーーエルには、返信を勧めてみよう。あちらも娘を想う親だ、きっと悪いようにはならないさ。
エルはいつか乗り越えてくれると思う。そのために、これまで以上の愛情を注ごう>
フェンリル様がご尊顔をエル様にすり寄せて、エル様がふんわりと白銀の毛並みに埋もれる。
つまり俺も巻き添えです大変ありがとうございます。
この世のものとは思えない至上の心地よさです大変ありがとうございます。
直接毛並みに触れていると体調を崩すかも、という懸念は、俺のハイテンションの前に敗れ去り、今はめちゃくちゃ体調が良いくらいだ。
<ああ、すまないなグレア。つい長く寄り添ってしまった>
「いえ!  むしろ体調が良くなりましたので」
<???>
しまった俺のバカ。さあ次の話に行こうか。
「まとめます。
エル様が起きたら、通信への返信を勧める。
フェンリル様はこれまで以上に愛情を注ぎ、彼女のメンタルケアをしていくのですね」
<その通りだ。やるべきことが決まって、気持ちが少々楽になったな……。ああ、ひとつ付け加え忘れているぞ?>
「承知しています。あとひとつ、言うつもりでしたよ」
「<会社は潰す>」
フェンリル様と俺は黒い笑みを突き合わせた。
<あの不快なメロディは覚えた。あれがカイシャの着信なのだな?  おのれ……!>
「恨みの念を送っておきましょう。ユニコーンの濁りの念って怨嗟の呪い的に効くんですよ。たっぷり送っておきますね。崩壊しろ」
ブツブツと呟いて、俺はすんごく不気味な顔をしているだろうが、フェンリル様は止めない。
それどころかお褒め下さった。ありがとうございます!
<大切な存在を守るために怒ることは、別に悪じゃない>
「俺もそう思います」
ユニコーンがいつまでも暗い気持ちでいると治癒力にさしさわるので、怨念はまとめてカイシャにぶつけておいた。
あースッキリ。ってことは絶対に向こうに届いてるな、コレ。思い知るといい……こんなにもエル様を傷つけた罪と代償を。
「ん……」
エル様がもぞもぞと動き始める。
起きそうだ。
一気にフェンリル様の表情が和らぐ。
ああ、はやりそのお顔が好きです。なんと美しい。
ロイヤルブルーサファイアの瞳が覗く。ああこちらも美しいな。内側から輝くような瞳だ。
「……おはよう……あれ?」
「毎度のことながら寝すぎで……」
おっと……つい嫌味な言葉が出てしまいそうに。いけない、これから矯正してまいりますね。
俺は穏やかで心を乱さない完璧なユニコーンになるのです。
「おっきなオオカミと紫美形……」
エ、ル、様!!!!!!
ご発言にはお気をつけ下さいませ!!
ユニコーンの容姿はもちろん美しいですが、ただの紫美形ではなくあなたの補佐のグレアです。どうか名前で!
エル様は手強すぎる。
彼女が笑ってくれたから、心底ホッとした。
落ち込んでいたが、たっぷりと寝て、気力回復できたのだろう。
俺の治癒術も効いたみたいだって?  そうですか、光栄です。ではまたエル様が落ち込んだ時には、手を繋ぎましょう。
<では狩りに行こうか>
「ノーーーーーー!?」
エル様の叫び声はいつも愉快ですね。
あとでひっそりと、フェンリル様と獣の唸り声で話した。
<……結局、エルに返信を勧めることを忘れてしまっていた……もう年だからな……>
ああああ、フェンリル様の背に影が……!
<そんなことを仰らないでください。俺も忘れていました……会話が賑やかすぎて。きっとフェンリル様はエル様が愛おしすぎるので言いそびれたのだと思います>
<それは納得だ>
頭の中が敬愛する存在でいっぱいになる感覚、よく分かりますから!
<返信を勧めるのは、また今度だな。エルも今は考えたくないようだし。
ああ、今日も愛娘の笑顔が可愛すぎる>
フェンリル様が幸せそうでなによりです。
俺はこの日常を守ってまいります。
深く頭を下げたら、エル様が前のめりに転がりかけて、たてがみに顔を突っ込まれながら文句を言われた。
しかえし!  と毛並みを撫でくりまわされる。
うおおおおわあああなんだその撫で技術はああああ……!?
なんでもありませんから!!!!  仕事!  使命!  よし、平常心だ、俺!!
今日も張り切ってまいりますよ!
洞窟に妙な音がなり、エル様が取り乱して、彼女の状況についてそれなりに理解した。
泣きじゃくっていて本人の説明も上手くなかったし、かわいそうに感じて俺たちも問い詰めることはなかった。
泣き疲れて、俺の隣で眠っている。
気づいていないかもしれないが、彼女はきつくこちらの手を握っていて離さなかった。
<では、今宵はそこで眠れ、グレア。相談にのってもらった礼だ>
「!?!?よろしいのですか!?!?」
しまった不意打ちすぎて反応が気持ち悪い!
静まれ、俺!!
きっとユニコーン姿だったらぶんぶん尻尾を振っていたんだろうな。やべぇ。
フェンリル様をお慕いしているからこそ、失態は見せたくないのだが。
光栄が過ぎたんだ。
エル様の今後の相談をするのは当然のことですのに。
ありがたくご厚意を賜ることにした。
丁寧に背中に雪のイスを作ってくださる。
お優しさにいっそう信仰心が高まります!!!!
そんなことを考えながらも、スコッと気絶するように眠ってしまった。
どうやら、俺なりにとても頑張った一日だったらしい。
***
フェンリル様のお声で目覚める。
最高の目覚めだが、自発的に起きるつもりでいたのに申し訳ない。
そんなことを謝られても困るだろうから、言わないけど。
<耳が伏せているぞ。そう気にするな>
耳立ちやがれ!!!!  ちくしょう!!
「失態を失礼いたしました」
フェンリル様は少し体を震わせた。笑っているようだ。
エル様と出会ってから、フェンリル様はずっと楽しそうで、前よりも表情が豊かになった。
<エルが起きるまで、そのスマホとやらの話をしよう>
「そうですね」
いまだに、エル様の手に大切そうに握られている機械。
実の親の愛情への執着は、俺には分からないが、エル様にとって大切なのだろうと想像はできる。
取り上げたり、記憶を消すことはしないとフェンリル様はおっしゃった。
<エルの負担をできるだけ軽くしてやりたい。実の親の言葉は、まあ責めるものではなく、娘を心配するものだった。それならば、返信してやればいいのではないだろうか>
「……難しいですね」
すぐには頷けない。
エル様は文面の全てを読み上げたわけではないのでは?  と、あの時の言葉の詰まらせ方から思ったんだ。
「返信したら、またあちらからも返信がありますよ。その内容が今度こそ、エル様を傷つけるものかもしれません」
<ううむ……。心配の文面だけでも、エルはあんなにも悩んでいたからなぁ>
フェンリル様が心底困ったように顔を顰めた。
異種族の彼の表情は分かりにくいものですが、俺は完璧に理解できますよ。
<しかし、便りの返信がなければ、親が「何事だ」と問い詰めることもあるのでは?>
「やはりエル様の記憶を消したほうがよいかと」
<こらこら>
俺は本当にそう思うんですよ。
だって、エル様がもしも心の奥で異世界に帰りたいと思っていたとしても、そんな手段は誰も知らなくて帰れない。
フェンリル様の後継としてバツグンの適性があり、愛娘として愛されて、俺のサポートがあり、こちらにいれば何の不自由もないでしょう?
栄光の道が約束されています。
「スマホに連絡があるまで、エル様ははしゃいでいて楽しそうでしたよね?」
<……ううむ>
「記憶は大切なものです。しかし時には不必要。
忘れた方が、気兼ねなく今を豊かに生きられることもあると思います。
昼間はしゃいでいたエル様は、一時的につらいことを忘れた状態だったのでしょう」
……思い出すつもりはなかったが、仕方ない。本心で真剣に語ろう。
「ユニコーン仲間に容姿を貶されたことや、親からの冷たい視線など、俺は覚えていません。
毎度記憶を消していましたから。
まあ故郷に帰るたびに同じ対応をされ、最近はどうでもよくなり記憶を消していませんが。
昔は、毎度気に病んでいたように思います」
恥ずかしいことだ。
しかし議論のため、すべて打ち明けるべきと判断した。
「他者からの評価は時に猛毒になり、自尊心を蝕みます。
そんなことで自分を疑い、自信をなくしてしまえば、あとは暗いところに落ちていくだけ。
忘れることも薬になりますよ」
<オマエも茨の道を突き進んできたのだなあ>
フェンリル様が苦笑している。
<その通りだ、と全肯定はできかねるが……グレアが言いたいことは理解できるし、補佐になってくれて助かっているよ。現状に礼を言おう>
「光栄です!!!!」
あああもうなんと尊いのか!!!!
おっと、今はエル様の話題の最中なので必死にそちらに集中する。
落ち着け、俺。
フェンリル様のため息の冷風のおかげで、頭が冷え……るわけはないんだよなぁ。この距離感がスペシャルすぎて俺のファン魂が荒ぶっている。いえ抑えつけてみせます。
<……私も記憶がない身だ。獣の姿となった時に、王子であった十数年間のことは忘れた。
それは必要なことだったと思うよ。
先代フェンリル様の愛子として獣の生活をしていくのだから。いつまでも人のつもりでいては、この牙で狩りをすることもできない>
フェンリル様がぐあっと口を開くと、鋭い歯が覗く。
なるほど、人は血まみれの獲物を口で運んだりしませんからね。
森林の獣たちと会話をする時には、獣姿の方が抵抗なく受け入れられる。
逆に、人と話す時には人型の方が受け入れられやすい。
森林を拠点に暮らすならば、フェンリル様は獣型をスタンダードにせざるを得ないのだ。
「フェンリルの半獣人、冬姫エル様として、彼女はこれから生きていくのですから」
断言した。
フェンリル様はまだ悩んでいるから、俺が言うんだ。
やはり困った顔をなさった。
<そうなればいいな、とは思っている>
「俺はそうなると信じております」
エル様は選ぶでしょう。後継になることを。
だって、どれだけたくさんの愛情をフェンリル様に注がれていることか。
長らく会っていなかったような実の親よりも、こちらを選ぶはずでしょう?
フェンリル様はしばらく沈黙した。
思案なさっているようだ。
<ーーエルには、返信を勧めてみよう。あちらも娘を想う親だ、きっと悪いようにはならないさ。
エルはいつか乗り越えてくれると思う。そのために、これまで以上の愛情を注ごう>
フェンリル様がご尊顔をエル様にすり寄せて、エル様がふんわりと白銀の毛並みに埋もれる。
つまり俺も巻き添えです大変ありがとうございます。
この世のものとは思えない至上の心地よさです大変ありがとうございます。
直接毛並みに触れていると体調を崩すかも、という懸念は、俺のハイテンションの前に敗れ去り、今はめちゃくちゃ体調が良いくらいだ。
<ああ、すまないなグレア。つい長く寄り添ってしまった>
「いえ!  むしろ体調が良くなりましたので」
<???>
しまった俺のバカ。さあ次の話に行こうか。
「まとめます。
エル様が起きたら、通信への返信を勧める。
フェンリル様はこれまで以上に愛情を注ぎ、彼女のメンタルケアをしていくのですね」
<その通りだ。やるべきことが決まって、気持ちが少々楽になったな……。ああ、ひとつ付け加え忘れているぞ?>
「承知しています。あとひとつ、言うつもりでしたよ」
「<会社は潰す>」
フェンリル様と俺は黒い笑みを突き合わせた。
<あの不快なメロディは覚えた。あれがカイシャの着信なのだな?  おのれ……!>
「恨みの念を送っておきましょう。ユニコーンの濁りの念って怨嗟の呪い的に効くんですよ。たっぷり送っておきますね。崩壊しろ」
ブツブツと呟いて、俺はすんごく不気味な顔をしているだろうが、フェンリル様は止めない。
それどころかお褒め下さった。ありがとうございます!
<大切な存在を守るために怒ることは、別に悪じゃない>
「俺もそう思います」
ユニコーンがいつまでも暗い気持ちでいると治癒力にさしさわるので、怨念はまとめてカイシャにぶつけておいた。
あースッキリ。ってことは絶対に向こうに届いてるな、コレ。思い知るといい……こんなにもエル様を傷つけた罪と代償を。
「ん……」
エル様がもぞもぞと動き始める。
起きそうだ。
一気にフェンリル様の表情が和らぐ。
ああ、はやりそのお顔が好きです。なんと美しい。
ロイヤルブルーサファイアの瞳が覗く。ああこちらも美しいな。内側から輝くような瞳だ。
「……おはよう……あれ?」
「毎度のことながら寝すぎで……」
おっと……つい嫌味な言葉が出てしまいそうに。いけない、これから矯正してまいりますね。
俺は穏やかで心を乱さない完璧なユニコーンになるのです。
「おっきなオオカミと紫美形……」
エ、ル、様!!!!!!
ご発言にはお気をつけ下さいませ!!
ユニコーンの容姿はもちろん美しいですが、ただの紫美形ではなくあなたの補佐のグレアです。どうか名前で!
エル様は手強すぎる。
彼女が笑ってくれたから、心底ホッとした。
落ち込んでいたが、たっぷりと寝て、気力回復できたのだろう。
俺の治癒術も効いたみたいだって?  そうですか、光栄です。ではまたエル様が落ち込んだ時には、手を繋ぎましょう。
<では狩りに行こうか>
「ノーーーーーー!?」
エル様の叫び声はいつも愉快ですね。
あとでひっそりと、フェンリル様と獣の唸り声で話した。
<……結局、エルに返信を勧めることを忘れてしまっていた……もう年だからな……>
ああああ、フェンリル様の背に影が……!
<そんなことを仰らないでください。俺も忘れていました……会話が賑やかすぎて。きっとフェンリル様はエル様が愛おしすぎるので言いそびれたのだと思います>
<それは納得だ>
頭の中が敬愛する存在でいっぱいになる感覚、よく分かりますから!
<返信を勧めるのは、また今度だな。エルも今は考えたくないようだし。
ああ、今日も愛娘の笑顔が可愛すぎる>
フェンリル様が幸せそうでなによりです。
俺はこの日常を守ってまいります。
深く頭を下げたら、エル様が前のめりに転がりかけて、たてがみに顔を突っ込まれながら文句を言われた。
しかえし!  と毛並みを撫でくりまわされる。
うおおおおわあああなんだその撫で技術はああああ……!?
なんでもありませんから!!!!  仕事!  使命!  よし、平常心だ、俺!!
今日も張り切ってまいりますよ!
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