冬フェンリルの愛子となった私が、絶望から癒されていく話

黒杉くろん

10:スノーマンの雪崩



<雪妖精たちに協力してもらおうか>

 そう言って、フェンリルが魔法陣をつくる。
 たくさんの雪妖精が現れた。
 うわーお!  ご機嫌だからかな、絶好調だね?

<私たちは森林の見回りをするつもりだ。どこかに困っている者がいないか、探す手伝いをしてくれ>

 雪妖精たちはくるりと一回転すると、四方に飛び去っていった。

「雪妖精って、魔法陣の中に住んでいるの?」

<妖精の泉があるんだ。森林の中にいくつか。その周辺で暮らしているが、私が呼べばいつも協力してくれる>

「人望がある!」

<獣だが、まあ、人望か>

 あっ、そうだね。フェンリルがにまっと楽しげに笑った。

「それにしても、妖精の泉かー。メルヘンだー」

<行ってみたいか?  エル>

「興味があるかも。綺麗なところ?」

<とても清らかで綺麗な場所だ。そして魔力が濃い。
 妖精が泉に足をつけていると、魔力が全快するほどの効能がある。
 何かが落ちると、おかしな変化をすることがあるので、いたずらしてはいけないぞ>

「し、しないよ!?  えっ私、今、疑われちゃった?」

<ははは。それくらいエルが元気になって嬉しい>

「誤魔化せてない誤魔化せてない」

 フェンリルはからかってきたみたい。もー。
 妖精の泉、興味はあるけど、ちょっと……怖いかも。効能強すぎ。あっでも私が作ったツリーもたいがい…………。………………。まあいいや!
 そんなに特殊な場所って聞くと、好奇心よりも警戒の方が勝つなぁ。
 別に絶対に見なきゃいけないわけでもないし、この森林の風景も十分綺麗で楽しめているし、すぐに行かなくってもいいや。

 そう伝える。

<そうか。では機会があれば、としておこう>

 よろしくお願いします。
 あっ、雪妖精がひとり、もどってきた。

<あちらか。ふむ、宝石の洞窟があるな>

「え!  すごいね」

 どんな宝石があるんだろう?  鉱山ってことかな。ちょっぴりワクワクしちゃう。
 おっと、グレアが半眼でじっとり見てるから思考やめとこう。
 そんなに変な顔してただろうか?

「グレア、私のこと見過ぎじゃない?  そんなに首を曲げて」

<おかしな気配を察知したもので>

 生真面目な性質が気配察知をやってのけたらしい。
 本当に、心労で倒れないように気をつけてね?
 と、思ってたら…………

「のわっ!?」

 グレアが急にぴょんと飛び跳ねた!

「なにぃ!?」

 しがみつきながら苦情を言うと、またステップで息を奪われる。

<スノーマンの雪崩です!  逃げますよ!>

「ひゃーーーー!?」

 私たちは揃って逃げるー!  
 後ろから、ゴゴゴゴッと聞きなれない音がするぅぅ!  
 でもこの雪崩の音、遠くから近づいてきたんじゃなくていきなり発生したように感じたんだけど?

 10メートルほど逃げたところで、私たちはストップした。
 振り返ると、雪崩が止まっている。けっこう小規模だったんだね。それにしてはこんもりと大量の雪が積もっているけど。

「ん?  顔がある……?」

 木の棒やニンジンで子どもが作ったような、スノーマンの顔。崩れてるけどね。
 子供の頃のおぼろげな記憶を一瞬だけ思い出した。

「雪だるまだ」

<スノーマンと申し上げましたでしょう>

 グレアの物言いは嫌みっぽいぞー。雪だるまもスノーマンも意味は一緒でしょ?  あっ、スノーマンってもしかして種族名?

 フェンリルが二回、とんとんと前脚で雪を叩くしぐさ。
 雪を動かし、スノーマンを作り直してあげた。わあ、3段重ね!  おっきぃーー!

 思わず手を振ったら、木の棒の手を振り返してくれた。性格いいね、スノーマン。

<フェンリルさま、ありがとうございます。ことしのゆきは、さらさらしていて、からだがじょうずにつくれなかったのです>

<なるほど。慣れそうか?>

<きっと、これから>

 スノーマンがいちに、さんし、と体を動かしてみる。
 フェンリルが魔法を組み込んで直したからかな?  雪はまるで崩れない。
 もう一度スノーマンがフェンリルにお礼を言った。

<その体で冬中動いていれば、来年の冬になったら雪のまとめ方を学んでいるだろう。もう大丈夫そうだな>

<はい。うごけます。フェンリルさまのおかげ。でも……なかまは、いろんなところで、なだれになっているかも?>

 フェンリルがため息のように唸りながら、洞窟があるらしき方角を眺める。

<そのようだ。これから雪妖精の案内で洞窟に向かうが、そこの悩みごともスノーマンの雪崩についてらしい>

 め、面目ない〜……!
 雪が特殊なのは私のせいだから、申し訳ないよぉ。
 しょんぼりとすると、頭に違和感。あっ、獣耳もしょんぼり伏せてる?  感情としっかりリンクするようになってしまった。

<ふゆひめさまですか>

 スノーマンが大きな体をゆっくり傾けて、私を見下ろして一礼。
 ど迫力!
 私は思わず会釈を返した。

<すてきなふゆを、ありがとうございます。ここにあらわれるの、ごねんぶり>

「!」

 そっか……冬が来なかったんだもんねぇ。
 あ、フェンリルの獣耳が伏せた。ぷっ!  あとで慰めようかな……傷を舐め合うみたいになるけど、まあ、ここではいいよね?
 会社では以下略。

<ふゆ、たのしいな>

 スノーマンはきゅっきゅっと体をひねりながら動いて(足はないの。まん丸ボディの三段目を動かしている)立ち去った。

「……冬、楽しいって。そういう純粋な気持ち、大切な気がするね」

 フェンリルに話しかける。おいでおいでって手招き。よし寄ってきた。

<ああ、冬はいいものだからな>

 ふわふわふわふわ〜〜!  フェンリルの首を撫でてみると、とても心地よさそう。
 癒されていたらいいなぁ。
 ついでにフェンリルに近づかれているグレアが癒されまくった様子なのはもう毎度の流れとなりそうなので、説明を省略します。
 ほんっとにメロメロだな。

 洞窟へゴー!

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コメント

  • ノベルバユーザー325425

    自分の今まで見た中で一番続きが気になった作品です。なので元気に健康に長く作品を作って下さい。

    4
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