冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ

sazae9

魔の森を駆け巡る黒い影

「「「ニャニャニャニャニャ!!」」」


森の中を三つの黒い影が駆け抜ける。
その後ろからは神々しい光を放ちそうな人物が、魔物を回収している。


「ニャニャ!! あっちだラウールサクラ!!」


一番小さな黒いものが言葉を発した。


「ニャニャに!! わかったニャン! 行くわよニャンラウール!」


メスと思われる、1mほどの黒いものが答える。


「行くニャンサクラ!! あっちだニャン! にゃんが抜けてるニャンクロウ!!」


オスらしき黒いものが突っ込む。


「我忘れてたニャン! 御免ニャンラウール!」


小さな黒きものが反省している。




・・・・
・・・・


そう、ここには三匹の黒猫がいる。
黒猫というには大きいものが二匹いるが、黒猫たちが森を駆け巡っている。


「これはどういう事でしょう? ラウール達が生き生きしていますね・・・。」
三匹の後ろをついて走っているソフィアが呟いた。






お判りいただけただろうか・・・。
今この魔の森を駆け抜けている者の正体。
それは、ラウールとサクラ、クロウが変化の術を使い、黒猫の姿で森の魔物を狩っている現場である。


少し時はさかのぼる・・・・。


・・・・・
・・・・・
・・・・・


「ねえラウール? 変化の術も完璧になって来たし、周りには人もいないし・・・・、あれをしない?」


夕食を食べ終わり、体もきれいにしてくつろいでいるときだった。
サクラが唐突に提案してきたのは、あれをしない? だった。


「あれって何? 変化の術はほぼほぼ完ぺきだと思うけど・・・、変化の術を覚えて、あれって?」


ラウールは今の会話だけでは何のことを言っているのか理解できなかった。


「あれって言ったらあれよ! 私も恥ずかしいんだから察してよ!」


ラウールはそう言われても理解できなかった。
言葉にしてもらわないと理解できな男。
察することは難しい男、それがラウールだ。


「あれでなくて、ちゃんと言ってよ・・・。わからないよあれだけで・・・。何をしたらいいのサクラ?」


「ん~、恥ずかしいな・・・。ちゃんと言うから一回でちゃんと聞いてね。・・・・・・、黒猫モードよ!」


ラウールは、あ~! と心の中で叫んだ。
サクラが意外に気に入っていることに気づかなかったことを後悔もした。


「あ~それね! それで分かったよ! それそれ、それをしたいんだね!」


そこにクロウも口を挟んできた。
クロウは今の会話を聞いても何も浮かばなかった。
なんとなく仲間外れになっているようで悲しかった。


「ラウール? サクラ? 黒猫モードって何? 我知らない?」


ラウールとサクラはクロウの前で黒猫モードになったことがなかったか考えた。
うん、あの時はクロースとクリスに猫モードをさせただけだったなと思い出した。


「ごめんクロウ。僕達だけで冒険者をしているときにやった事だった。たとえるなら、クロースとクリスがやっていたことを僕たちがするんだよ!」


「そうよクロウ! 黒い猫ね! 見た目が黒猫で魔物を殲滅するのよ!! 面白そうでしょクロウ! 変化の術を覚えたから、本物の黒猫モードよ!」


サクラは興奮している。
変化の術を覚えたことで、まねではなく、姿は黒猫になる。
黒いものを装備するのではなく、黒猫になることを想像して。


「黒猫? あの姿だったら我もする! 我も黒猫モードで魔物を殲滅する!」


その言葉が決定打となった。
ラウールとサクラ、クロウで次の日は一日黒猫の姿で魔の森を駆け巡ると決まった瞬間だった。


「私はやりませんよ? 私は変化の術は覚えていませんし、黒猫にはなれませんので。でも、仲間外れは悲しいので、後ろをついて魔物を回収していきます。題して・・・・、ハイエルフと三匹の黒猫作戦ですね?」


ソフィアは名前の付け方のセンスがなかった・・・。




・・・・・
・・・・・
・・・・・


そして現在に至る。
すでに半日が過ぎており、拠点の周りの魔物は大多数が狩られていた。
Sランクの魔物もいたであろうに、すれ違いざまに、一撃で死を迎えている。


後ろをついて走っているソフィアは、産まれてから見たことのない状況にワクワクしていた。


その後も魔物を狩り続け、ラスボスの緑龍に到着した。


緑龍には、念話の腕輪を渡し、会話できる状況になっていた。
緑龍もノリノリで、最後は俺と戦えと言い出した。
変化の術を教えたお礼は、戦いでいいと。


ここに、【黒猫】と緑龍の戦いの火ぶたが切って落とされた。


「行くニャンサクラ! 緑龍をやっつけるニャン!」


「は~はははっ!! 俺を簡単に倒せると思うなよ! 我こそは緑龍! 魔の森の支配者である!!」


「我はニャンクロウニャン! 今こそお前を倒すニャン!!」


そう言うとクロウは緑龍の、体のわりに短い腕を切りつけようとした。


「そんな攻撃はくらうか!」


緑龍は身を引いて躱した。


「今ニャンラウール! 私が右ニャン! ラウールは左をニャン!」


サクラは右に回り込み、爪で背中を切り裂こうと前足を振り上げた。
ラウールは左から攻め込み、腹部に頭突きをするように突っ込む。


「くっ! やるな! だが!」


そう言って緑龍は体を回転させ、前に出ることで爪と頭の攻撃をかわそうとした。
しかし二匹で攻め込んでいたため、背中の鱗が一枚はげることになった。


「痛!!」


緑龍の体がラウールとサクラの攻撃から逃れようとしたとき、クロウも動き出した。


「我を忘れるなニャン! 我の噛みつきを喰らうニャン!」


クロウが小さい体で大きく口を開けて、緑龍の鬚にかみついた。
そして緑龍の鬚にぶら下がり、食い下がっている。


「おい! バランスが取れないぞ! クロウ! 離れろ!」


「離れろって言われて、離れるわけがないニャン!!」


バランスを崩している緑龍。
そこへラウールとサクラの渾身の攻撃が加えられた。


「「肉球パンチニャン!!」」


クロウも鬚から離れて攻撃をし始めた。


「我も肉球パンチニャン!!」


三匹から放たれる肉球パンチ。
斬撃とは違い、肉体の外部に傷がつくことはない。
しかし、肉球を通して与えられる攻撃は、肉体内部にダメージを与える。


「おい! 結構・・・、いや、かなりやばいぞ俺は~! 龍を殺す気か~!!」


思っていた以上にダメージを喰らった緑龍は叫んでしまった。
肉球パンチはやばい!
肉体の内部から殺していく・・・。


回復魔法も使いながら、四匹の御遊びは続いた。
みんながいい笑顔でじゃれているような、少し間違うと誰かが死ぬような・・・。


それを見たソフィアがポツリと呟いた。


「みんな楽しそうですね。そんなみんなを見ている私も楽しいです。これまでの長い人生の中でも、きっと一番楽しいとき。これからも長いときを生きていくことになりますが、一生忘れませんよ。ありがとう、【黒猫】。緑龍もありがとう・・・。」


ソフィアの思いは伝わっていないが、ハイエルフの長い人生に影響を与えた【黒猫】だった。

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