冒険者パーティー【黒猫】の気まぐれ

sazae9

【黒猫】は呼び出される

カーシン伯爵に言われ僕たちは首都サーシンに移動していた。
そこで国王からの呼び出しを待っているところだ。
僕たちはわざわざ国王に会わずとも、お金などで報酬をもらえたら十分なことを伝えたが、一番の勝利への貢献者をそういった扱いにはできないと言われてしまった。


僕たちは今回の戦争で敵とはいえ大量虐殺をしてしまったことをしばらく後悔していた。
しかし両親に会いに行き事情を話したところ、戦争とはそういうものだと言われ、頑張ったなとほめてくれた。
単純な僕とサクラはそれで心のつかえのほとんどがとれた。
クロウは元々気にもしていないが・・・。


王宮での話し合いがまとまらないようで、馬車で移動してきたにもかかわらず、数日間待っている状況だ。
クロースに聞いても、カーシン伯爵は時々帰ってくるだけで、状況は確認できていないと言う。


依頼を受ける気にもならず、ただ街を探索したり、サクラやクロウと遊んでいる状態だ。
冒険者ギルドに顔も出したが、カーシン伯爵の周りには冒険者がいなかったことと、周りの人は口止めされていることで、僕たちがしたことは誰も知らない様子だった。
ただ、サーシンの冒険者ギルドのギルマスであるギルバートは何かを知っているようで、冒険者ギルドであった時には笑いかけられた。やはりギルバートは王国からの要請で王宮に行っていたようだ。


今回は王国の要請には答えていないが、冒険者ギルドとして戦争に協力した帝国はどうなるのか聞いてみたいところだったが、すぐに立ち去ったので聞けなかった。


~~~~~


そこから更に数日が経過したときに、ようやく国王からの遣いを名乗る者が現れ、明日王宮に出向くようにと手紙を受け取った。しっかりと国王の紋章付きの招待状が入っていた。


このころになると戦争で圧勝したことが街の中でもささやかれており、お祝いムードになっていた。
くわしい状況を知るにつれ、争いがあったとは言えないくらいの勝利に沸いていた。


僕たちは普段着で良いと言う罠のような内容の手紙を受け取り、どんな服装で出向くか話し合った。
両親は正装で行くべきだと言うが、あいにく明日までに準備できるものではなかった。
クロースに合う事も出来ず、冒険者ギルドでギルバートに聞いてみた。
ギルバートは、冒険者として出向くのであれば、武器を待たずに普段の装備で出向けばいいとアドバイスをしてくれた。


~~~~~


とうとう王宮に出向く日になった。
僕たちは結局怪しい格好だが、黒ローブで出向いた・・・・わけもなく、黒ローブは戦場で来ていたため、今までのダンジョン攻略で手に入れた中のましな装備を身に着けた。
僕はミスリルの軽鎧に茶色の魔物の革のマントを羽織った。
サクラもミスリルの軽鎧に赤い魔物の革マントを羽織った。
クロウは・・・、自前の羽毛だ。


王宮につき招待状を門に立つ騎士に渡すと、すぐに案内の者が現れた。
こちらもセバスと言いたくなるような、立派な執事だった。


執事は王宮の一室に僕たちを案内してくれた。
その後上品な紅茶のようなものを飲んでいると、ノックされ、カーシン伯爵が現れた。


「お久しぶりですカーシン伯爵。」


「おう! 待たせたな。なかなか報償が決まらなくてな。お前たち以外の者はすぐに決まったのだがな・・・。今回の戦場ではほとんどの者が活躍できなかったからな。」


「それは申し訳ありません・・・。」


「いや、被害が少なく、うれしいことだ! 戦争とは戦場だけのものでない。だから、お前たち以外にもきちんと褒美は出ている。」


「そうですよね? 戦争は情報、準備、戦い、後始末と、その場だけではないですよね? 僕達だけの手柄になるのは心苦しかったので・・・。」


「いや! 何も苦しむことはない! おかげで家族の元へ帰ることが出来た兵士も多い。そして怪我をして現役を引退することもないのは、今後の王国にとっても良いことだ!」


「そう言っていただけると助かります。」


僕とカーシン伯爵が会話を終えると、カーシン伯爵が今日の手順を教えてくれた。
そしてその通りに行動した。


まずは門が開かれたら前に進む。
王を見ず、絨毯の切れ目のところまで進み片膝をつき頭を下げる。
王が顔を上げるように言ったら顔を上げて王を見る。


王は思ったよりも普通な印象だった。
金髪で耳にかかる程度の髪の毛。
中肉中背で、背もそんなに高くないように見える。
そして王の周りには貴族っ!と見える人が並んでいた。
中には苦々しい顔をして僕たちを見ている者もいる。


「この度の戦の活躍は王国にとって喜ばしい。よってラウール、サクラの両名には褒美を与える。」
そう宣言すると横に立っていた貴族が、目録を読み始めた。
莫大な金銭、貴重な素材、首都サーシン内にある家、そして・・・、定番の爵位・・・。


僕はカーシンに言われた通り、自分の思いを伝えた。


「国王様。僕たちの報酬は金銭と素材でお願いします。家と爵位はいりません。僕たちは冒険者で、まだ定住先を決めてはおりません。そして、両親の家もあります。また、爵位は僕達には不相応なので辞退させていただきたい。」


周りの貴族がざわめく。
そしてその中でも苦々しい顔をして僕を見ていた貴族が大声を上げた。


「不敬だぞ!! 国王が報酬とした物を辞退するだと!! 冒険者風情が何様だ!!」


「それですから爵位は辞退するのです。冒険者風情に爵位は似合わないでしょう?」


「なんだと~! 冒険者風情に似合う似合わないではない!! 国王に反するのか聞いているのだ!!」


「国王様には逆らうつもりはございません。」


「だったら素直に受け取るのだ!!」


「貴族が冒険者をするのではなくて、冒険者が貴族になっても蔑まないと?」


「は~?! 冒険者ごときが貴族になっても貴族ではないだろ~!! お情けだ!!」


ザワザワザワザワ・・・


そこへカーシン伯爵が口を出した。


「少し黙ってもらおうか? ダンブンド伯爵? 私がラウール君に言ったのだよ。私は断りたいものは断るようにね。ラウール君が王国に悪い印象を持った場合、あなたは責任がとれるのですかな?」


「責任? 冒険者風情が悪い印象を持ったとして何ができるんだ!!」


「聞いていないのか戦場の事を?」


「聞いたがなんな話、大げさすぎるだろ!!」


「は~。私の目の前で起きているんだよ。このカーシン、冗談でそう言う事を言うとでも? このラウール君たちは、二人と一匹で2万人の敵を一瞬で殲滅できるんだぞ? そして味方にいた裏切り者だけをも正確に撃てる魔法を、独自に使えるのだぞ?」


「なっ!!」


「王国の敵になる者だけを選択した魔法・・・。もしその制限もなく魔法を使用した場合は? 少しも疲れた様子もなかったぞ。そして息子に聞いた話になるが、体術や隠密行動も得意だそうだ。」


・・・・・
・・・・・


・・・・


もう誰も反対の声を上げなかった。


「それでラウール君はどうしたい?」


・・・・


「家の代わりに僕の大切な人の身の安全の保障を。両親とその周りの数人だけでいいです。爵位の代わりに敵対する者への反撃しても罪にならない保証をいただきたい。」


・・・・
・・・・・


長い沈黙の後に国王が口を開いた。


「わかった。サクラもそれでいいのか?」


「はい。」


「それでは金銭と素材、ラウールの両親とその周りの者の身の安全。後でカーシン伯爵にでも名前を伝えてくれ。そして、敵対した者に反撃し殺してしまったとしても罪には問わぬ。しかし罪なき者へ反撃と偽ることは許さん。以上をもって報償とする!」


国王の一言でこの場はお開きとなった。


僕たちは、一番先に案内された部屋に戻りカーシン伯爵と打ち合わせをした。
そして身の安全御保障をしてほしい人の名前を伝えた。
その後カーシン伯爵が一度退席し、戻って来た手には、公式文章があった。
そして、王国の紋章が入ったナイフも渡された。
このナイフがラウール達の立場を証明するものになるそうだ。






気疲れする謁見も終わり、その日は両親とともに過ごしたラウール達だった。

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