君と剣と魔法を紡ぐ物語〜私達がお尋ね者っ!?〜

高見 燈

第5話 ケネトスの台地▷▷アムズ

ーーシェーンの森を抜ける。

月の明かりが照らすその大きな森。
三頭の馬は走りやすいのか、その脚は軽やかだった。

森はこの道を囲む様に木々で覆う。
今は夜だからなのか、時々……葉音と獣の鳴き声程度が、聞こえるだけでひっそりとしていた。

でも、私は魔物がでてこないかどうか……内心。ビクビクしていた。

そんな私に気がついたのかどうかは、わからないけど、前を走るカルデラさんが声をあげた。

「この森はな。“森の精霊”とやらが棲む森なんだ。魔物はここにはおらん。それ故、安全で戦士の通り道になっている。」

と、そう言ったのだ。

「森の精霊?」

私はなんだかちょっと女神みたいのを、想像してしまった。森の奥深くの泉とかに出てくる女神を。

「そうじゃ。滅多に人の前には姿は見せんがな。」

と、カルデラさんは馬を走らせながらそう言ったのだ。

精霊と妖精エルフって言うのがいるのか。どう違うんだろう。

「ねぇ? カルデラさん。妖精エルフと精霊ってどう違うの?」

私は聞いてみた。

「昔は、妖精エルフは精霊の“付き人”みたいな者だった。それが、今では“確立した存在”になってしまったがな。精霊の棲む地には、エルフがたくさんいたんだ。」

カルデラさんは、声を張り上げながら話をしてくれた。

「対立したってこと?」

と、私が聞くと

「わかり易く言うとそうじゃな。だが、中には今も精霊と仲良く暮らすエルフもおるぞ。」

と、カルデラさんはそう言った。

う〜ん。上司に逆らう部下みたいなものなのかな。人間で言うと。

「この世界には、人間だけでなく“多種族”と呼ばれる者達が、棲んでおる。彼等もまたこのイシュタリアの長い歴史の中で、様々に生きてきた。ワシら人間よりも長い年月の中で生きてきておる。」

カルデラさんは黒馬を、颯爽と走らせながらそう言った。

「その間には“色んな事”があったのだ。わかってくるとは思うがな。」

と、そう言った。

なんだか“馬を走らせながらする話”ではなさそうだ。声のトーンが少し低い。

争いや揉め事があった。そう言いたい様な気がする。少しずつ知っていこう。

知るのも怖いけど。

「おお。見えてきたぞ。“自由の街 アムズ”じゃ。」

自由の街?

なんだか楽しそうだけど。

私はカルデラさんの声に、先を見つめた。
森の出口から見えるのは灯りだ。
灯りが一帯に集まってる。

なんだかとても大きい街みたいだ。

シェーンの森を抜け、草原を走るとその街は目の前に現れた。

街の向こう側は、大河だ。なんだか海みたいだ。でも、川なんだとカルデラさんは教えてくれた。


“自由の街アムズ”ーーは、本当に大きな街だった。
大きな大河の側にある街。
炭鉱でもあるのか……少し煤の臭いがするけど、賑やかで人も多い。

私達は、馬を連れて街の中を歩いた。

街は大きな建物ばかりが、建ち並ぶ。
なんだろう? 日本で言うマンションみたいなものなのかな?

かなり高そうな建物ばかりだ。
緩やかな坂道に同じ様な建物が並び、窓から灯りがこぼれていた。

ベランダと言うものはないみたいだが、開いている窓もあった。
住宅地みたいだった。同じ様な上が円形の窓が、幾つも並ぶ。

白っほい壁が主流なのかな?
どれも同じ色をしていた。
屋根は青とか、茶だけど。

どこも煙突がある。もくもくと煙が立ち昇ってる。この煙の元も、“紅炎の原石”で燃やされているのかな?

街の中には街灯みたいのも建ってて、オレンジ色の灯りが照らしてる。

緑の街灯なんてお洒落だ。

この通りも広い。
私達三人と馬が並んで通っても全然平気。
石……で出来た地面の通り。

少し古い外国の映画とかに出てきそうな雰囲気。
なんだっけ?
シャンゼリゼ通り? なんとなくそれを思い出した。

行き交う人たちは、女性はやっぱりワンピースみたいなふわっとした格好。大体の人が同じスタイル。腰には白いエプロン。

ワンピースは、色も様々だ。
さすがにピンクは無いみたいだけど、落ち着いたネイビー、グレー、ブラウン系。

若い人は赤っぽいのを着てたりしていた。
不思議と髪の色も様々だった。
でも、赤茶系色が多い。

カルデラさんやマリーさんの様に、明るめのオレンジっぽい髪の色。

黒髪はいないみたいだ。

男性はグレーや黒のパンツスタイル。

白やクリーム色、茶系のシャツを着ていて、ハンチング帽みたいのや、スカーフみたいのを首から巻いていたりしている。

「飛翠。なんか映画の世界みたいだね。」
「ああ。それも昔の外国の映画な。」

どうやら飛翠も同じ事を考えていた様だ。

住宅地を抜けると、坂道ではなくなった。
建物も高いものではなく、二階建てが目立つ。高くても三階建て。

看板が出ていて、広い通りには屋台みたいなお店が、並んでいる。色んな薫りが漂う。煙と湯気に囲まれたその通りは、賑わっていた。

「ねぇ? 飛翠……。“文字”読める?」

私は隣の飛翠にそう聞いた。

「いや? 読めねー。言葉は共通みてーだけどな。」

と、飛翠はそう言った。

「やっぱり……」

看板の文字はやっぱり象形文字にしか見えない。
→みたいなマークが乱立してる。

言葉はわかるけど、文字が読めないって不便だよね。これから。

あ。黒崎さんに聞いておくべきだった。

「着いたぞ。」

カルデラさんが、そう言って立ち止まったのは、賑わっていた通りから少し離れた所だった。

隣に馬小屋のある建物。

五階建てなのかな? 窓があるからよくわかる。

けれど、クレイルの宿みたいな洋館っぽい造りではなく、どちらかと言うとビルみたいだ。

白い壁が平面だから、ビルみたいに思うのかな。

上には屋根と煙突。
煙が上がっていた。

それにしても星空が、凄い。
降ってきそうだ。

私達は、馬を馬小屋の主人に預けると宿に入った。

談話室みたいだった。
ソファーが並んでいて、男の人や女の人が座って話をしていた。

でも軽装だけど、胸当てや膝当てなどをつけていて、槍、弓矢、剣なんかを持っている。

旅人ーーとか、言うのかな?
あ。違うか。えっと……“冒険者”だっけ?
本でよく出てくる。王子様にお姫様の居場所を教える道先案内人。

それが冒険者って言う設定もあったな。

などと、私が思っていると

「飯にするか。」

カルデラさんが、戻ってきたのだ。
フロントの人と、話は終わったのかな。速い。

茶色のテーブルの向こう側。フロントの人は、男の人だ。私達の事をじっ。と、見ているけど……。

あ。この格好かな? セーラー服にブレザーだもんね。けど、マントとポンチョだから上は見えないと思うんだけど。

飛翠は丸見えか。マントの前が開けてるから。

「お腹すいた……」

そう。さすがに私も限界です。
いつもなら夕飯を、食べ終わってる頃だろうか。

そういえば……時計と言うのを見ないな。
ないのかな? 壁にも掛かってないし。

「そうじゃろ。そうじゃろ。ここのメシはウマいぞ。ほれ。行くぞ。」

カルデラさんはなんだかとても嬉しそうだ。

私と飛翠はロッドと大剣を持ち、カルデラさんの後をついていく。
大事な教科書入りのこのバッグも、忘れずに。

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