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ココロの距離感

近衞

4話【助けて】

 3階の音楽室に、私は大急ぎで走った。








中学時代に100mで12秒90で走った
走力があまり衰えていない事を、
私は心の中で感謝する。













太鼓は台車があれば1人でも運べる。

音楽室の中から入れる
音楽予備室なら台車が有るはずだ。










そして私は、
誰よりも早く音楽室に到着した。








私は太鼓をしまっている
音楽予備室のドアに手をかけ___…



























































パシャ、とカメラのシャッター音が
音楽室に鳴り響いた。



「はい、犯人かくほ〜〜」




「犯人は現場に戻るって本当だったんだね〜〜」




「え…?貴女達は…!」




裕海の前に姿を現したのは、
実行委員を決める際に裕海を
謗ったあの2人だ。




「悪いけどさあ、あんたキモいんだよね」




「ほんと、意識高い系マジきもいわ」



と、2人は近づいてくる。




「まさか、貴女達…太鼓を…」





「そう!おもっきし破いちゃいましたー!」





「「あはははははははひゃひゃ!!」」






2人の笑い声に、耳元で羽虫が
うろつくような不快感を覚える。




「何でこんなことを!?」




「だってえ、意識高い系がうざいんだもん」



「なんかさ、媚び売ってる感じが!」




「マジそれー!だからさあ」






裕海の頰を勢いよく殴り飛ばし、












「死んで?うざいから。」




と、もう1人が制服に手をかけた。






「なっ、やめて!!」





「ウーケールー!ねえねえ、こいつの
下着姿エロサイトにアップしようよ!」




「賛成ー!やろやろ!」



と、制服を掴む力は強くなる。







「やめて!やめなさい!」




「は?やめて欲しかったら土下座しなよ」




「それが礼儀だよねー」




「っ…!!」




「早くやれよ」








「はいどーげーざ!どーげーざ!」






「「どーげーざ!どーげーざ!」」















瞼に涙が溜まる。










それは、受験で合格した時に流した涙
とは違った。













まるで、1人で校内で彷徨っている中で
冷えてしまった手のような冷たさだった。













どうして、こんな人達に土下座なんか
しないといけないの…?













私の眼から、一粒の涙が零れ落ちた。














助けて、佑磨君______…



































「そこまでだ!!」













瞬間、聞き慣れたハスキーボイスが
音楽室に響き渡る。













私は、思わず声がした方を向いた。













「話は聞かせてもらったよ。
よくもウチの実行委員を泣かせてくれたね。」













願いが届いたように、彼はそこに現れた。



「はあ?何今のセリフ!聞いた?」




「ちょーウケるんですけど!」




彼は私の所に歩み寄る。






「今の会話、全て聞かせてもらったよ。
君達、何をしたか分かってるのか?」



「は?何言ってるかわかんない!
言いがかりつけんなよスケコマシ!」




「いや、お前らやりすぎたよ」




と、入り口から山田先生が入ってきて、



「は?山田先生!?」




「一応聞く。
お前らこんなとこで何やってた?」



「た、太鼓破った犯人捕まえたんですよ!」




と、スマホには
裕海が音楽準備室のドアノブに
手を掛ける瞬間が映し出されていた。





「そ、そうっすよ!で、抵抗したから殴ったんすよ!セートーボーエーですよ!
あたしらずっとここで待ち伏せしてた!」





「お前ら、よくもそんな嘘を…」




「嘘だって言うんなら証拠見せてよ!
私らが太鼓破ってないって証拠!」




ぐっ、と痛いところを突かれ、
山田先生はたじろぐ。





が、
佑磨はおもむろにロッカーに手を入れた。





「はい、言質とれた」




と、彼はロッカーからスマートフォンを
取り出していたのだ。






「は?何それ!?盗撮じゃん!」




「盗撮じゃないよ。君らの行動が怪しくてね。仕掛けさせてもらった。


これは機種変更する前に使ってた
スマホでね。

もうメールとかはできないけど、
カメラとかならまだ生きてる。」




と、彼は動画を再生した。














《かたっ!この太鼓マジ硬い!おらっ!》 




《なんかやると気持ちいいねー》





《マジそれ、んであの女に押し付けんの》





《さいこー!青春だわー!》




《あひゃひゃひゃひゃ!》










と、動画には2人が太鼓の鼓面を
ナイフで破る様子、
裕海を殴る様子などが映し出された。





2人の顔色はみるみるうちに青くなる。



「朝早くに壊していたんだね。
それを上手く気づかせないようにして、
用具班に持って行かせた、と。」





「ち、違…これは…えと…」




「ね、捏造だし!」



「そうだ、君達なんで太鼓が破られてたって知ってるの?」



「そ、それは、この女から!」




「裕海さんそんなこと一言も言ってないよ?てか自分で言ってなかった?」




「た、体育館で聞いた!」




「君らのずっとここで待ち伏せしてたんだよね?確か」



矢継ぎ早に責めるが、
落ち着いた佑磨に、2人はたじろぐ。





「…なんか言い訳あるか?」



と、山田先生が2人に迫る。





「…」




と、2人は黙り込んでしまった。





そこへ、他の実行委員も駆けつける。





「山田先生!」




「太鼓運べ!」




「はい!」



と、続々と音楽準備室に入っていった。






「裕海さん」



佑磨は裕海の殴られた顔を撫でながら、




「遅れてごめんな。」




私はその言葉に涙腺が緩み、




「うう…怖かったよぉ…」




と、あの日のように泣きついてしまった。




「加藤、牧田が落ち着いたら戻れ。
こいつらは俺が連れてく。」




「はい、分かりました。」




と、山田先生は2人を連れ
音楽室を去った。









「…ごめんね、また…制服汚して…」




と、まだ嗚咽が残る声で言う。



「いや、いいよ。歩ける?戻れる?」




「う、うん…平気。」




佑磨は裕海の手を優しく握り、




「じゃあ、行こうか」



「うん。」

















入学式から、少し大きくなった背中。




裕海は後ろから、
握られた手とその背中を見ながら

教室を後にした。

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