がーるずベースボール!

近衞

6.5話⚾︎八幡絵里⚾︎

蝉が命を謡う季節。


少女達は、白球を追っていた。






「アウト!ゲームセット!」


一年前、河川敷。


まだ高貴がソニックがーるずに入団していなかった頃。


新生野球チーム・ソニックがーるずは、
7月の初勝利を最後に白星から
遠ざかってしまっている。


ベンチの雰囲気は、自然と暗くなっていた。





「み、みんな、お疲れ様!」


「あー、だりい。さっさと帰りてえ。」



八幡がだらしなく前の席に
脚を乗せてのたまう。


「…八幡さん、だらしないわよ。」



「うるせえな、勝てなきゃだりいだけだろ」



「おい八幡!いい加減にしないか!」




「やめて!」





響子の叫びにベンチが静まる。




「…今日はお疲れ様。また頑張ろうね」



と言って、響子はバッグを掴んで
走って行ってしまった。





「響子!」





聖川はバッグを掴み響子を追う。





「…ケッ。」


八幡は少し乱暴にバッグを背負い、
ベンチを出る。




「待ちなさい」



たなびく赤い髪を払いながら、
駒田は八幡を呼び止める。



「なんだよ」



「さっきの発言、あれはさすがにないんじゃないかしら。」



「ああ?正論だろうが」



「正論ではないわ。感情論よ。
貴女だけが悔しいわけではないのに、
貴女だけがそれを態度に出すのはいかがなものかしら。」



「ああ!?なんだとテメエ!!」



八幡は駒田の胸グラを掴む。





「ちょ、やめなよ2人とも!」


慌てて船田が止めに入る。


「大丈夫よ、船田さん。」


と駒田は船田を制してみせ、


「八幡さん、試合に勝てなくて不満なのは私も同じよ。けれど1番苦しいのは湯浅さんのはずだわ。」


「あ?どういうことだよ」


「今日湯浅さんは6回無失点の投球をしているわ。

その後みんなでピッチャーをして点を取られてしまった。

自分は役目を果たしても、他の人のミスで負けてしまって、どうすればいいのか分からないのよ。」


「…」


八幡の掴む力が弱くなる


「みんなで勝つ。それが私達の野球よ。
湯浅さんはよくやってくれているわ。」


「そうでス。私達はもっともっと強くならなければならないのですヨ。」



八幡は駒田を掴んでいた手を離して、



「…行ってくらあ。」




と快速を飛ばした。



「八幡さん、どこに向かったの?」


「…玉原君のところじゃないかしら」






















まな板一面に、もやし。



裏の家庭菜園で栽培した
俺オリジナルのもやしだ。



水や肥料を与えるタイミング、
日光を与える量…等。



様々な要素を頭に叩き込み、
俺はコウキオリジナルの栽培に成功した。



そんなもやしを、俺は煮込んでいた。




「よし、この柔らかさ…成功だ!」














すると、ドアを叩く音が聞こえる。



俺は火を止め、ドアを開けた。



そこには、珍しい客がいた。






「…八幡?どうしてここに」



息を切らしながら、八幡は言葉を紡ぐ。



「…話、あんだけどよ。」














俺は小さなテーブルに2人ぶんの
お茶を置き、八幡と向き合う。



「で、話って?」



「…その」















__…。




「なるほどな。それで響子に謝りたいけど、どうすればいいか分からない、と。」




「…そうだよ。」





「…ま、当たって砕ければ?」




「…どういう意味だよ」



「借り物の言葉を俺からもらっても、
お前は納得しないだろ。
なら自分の言葉でちゃんと伝えろ」




「それができりゃあ苦労は」



「ああ。しないな。
でも、する前に無理と決める気か?」




「…!」




「…お茶、飲んでけよ。」




八幡はお茶を一気に飲み干すと、
礼だけ言って直ぐにプレハブを飛び出した。





「…いい仲間を持ったな、響子。」


















河川敷の裏にある、小さな公園。


響子はそこで、少し考えていた。



どうすれば勝てる?



どうすればみんなに楽しいって
言ってもらえる?






迷宮に迷い込み、脳がさらに
回らなくなっている。



「響子」



聖川が優しく声をかける。


聖川はこのチームの創設者の1人で、
いつもこうやって悩みを聞いてくれる。



「八幡のことは別に気にするな。
頭が冷えればその内…」



「湯浅!」










声がした方を見ると、
息を荒げこちらに向かってくる八幡の姿があった。



肩で息をしながらも、
八幡は2人の前に立つ。



聖川は八幡を睨みつけ、


「…何の用だ?八幡。」



その声からは怒気が溢れ出していた。










だが、八幡は頭を下げ、


「…ごめん、あたし湯浅の気持ちとか全然考えてなかった。」


「…え?」



「あたし、何やっても続かなくてよ、
ああやって悪態ついて辞めちまったんだ。」


八幡は頭をあげ、2人を見据える。




「でも、野球なら続けられる。
だって、あんなに面白くていいやつら
と出会えたの初めてだから。」



八幡は一呼吸置いて、



「…さっきの発言、許して欲しいとは言わねえ。でも…その…」



「八幡」



聖川が言葉を遮る。



「…反省はしているのだな?」



「してる。」



聖川はしばらく八幡の眼を見た後、



「そうか。ならいい。」



「は?」



「響子、お前もそうだろ?」




「うん、絵里ちゃん、野球嫌いになってなくて安心したから。」





「…許して…くれんの?」



「許すとかじゃなくて、
別に気にしてないよ。それよりも、
絵里ちゃんの本心が聞けてうれしいな。」  












「だって、絵里ちゃん優しいから。」






優しい。



そんな事を言われたのは初めてだった。












自然と、彼女の眼から涙が溢れた。



































後日。



コンコン、と優しくドアを叩く音。




俺はそれに反応してドアに向かう。



「あれ?八幡じゃないか」



「よ、よう…」



少し顔を紅潮させた八幡が
目の前に立っていた。



チラチラと眼を合わしたりそらしたりしながら、



「そ、その前は…あんがとな」



「気にするな。ちゃんと仲直りできたんだな。響子から聞いたぞ。」




「そ、そうかよ。」




「お前、将来は良い嫁さんになるな」




「は、はあっ!?」












瞬間、八幡の顔は絵の具をぶち撒けた
ように真っ赤に染まる。



「ななななな何言ってんだよ!?」



「いや、だからいい嫁に」




「み、みなまで言うんじゃねえー!!」






とビンタが飛んでくるが、
俺はそれをデッドボールを避ける
要領で避けてみせた。




「なんで避けんだよ!」



「いや、危ないだろ!」




「ここここのスケコマシー!!」




と顔を真っ赤にしたまま八幡は
走り去ってしまった。



「…何だったんだ?八幡のやつ…」


















「…ううう。」



知らなかった。私にこんな一面があるなんて。




「もうあいつの顔みれねえじゃん…」





八幡は両手で顔を覆い、















「好きになっちまったよ…馬鹿やろぉ…」




この呟きは、八幡以外の誰にも聞こえる事なく、静かに消えた。


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