がーるずベースボール!

近衞

4.5話⚾︎みんなでアルバイト⚾︎

 水曜日。


開校記念日で学校が休みとなり、
午前中に全体練習が終わった後、
俺はある場所へとひた走る。




そして走り始めて5分程度で、
目的地に到着する。



トビスケ野球喫茶という看板を構えた
それは、俺が響子の父上に
紹介してもらったアルバイト先だ。






まかないは出ないが、時給1250円と
高校生からすればかなりの好待遇である。




そしてここは喫茶店の横に
野球ショップとバッティングセンター、
簡素だがブルペンまで併設されている。



営業時間は、喫茶店が9時〜20時
ショップとバッセンは9時〜21時である。



バッティングセンターだけでなく、
響子の母、奏子さんが厨房を仕切る
喫茶店はオムライスが大人気。



プロ顔負けの見た目と味、そして
何より母ちゃんの飯の味がすると話題で、
雑誌でも取り上げられた実績を持つ。



昼と夜になると、その味を求めて
喫茶店ラッシュが必ず起こるのだ。



以上のことから、週末は野球好きでごった返すこともあるほど。



良く響子と聖川が
練習の後ランチを楽しんでいるのを眼にする。






「おはようございます!」


「おう!おはよう!」






時間帯に関係無く、社会の挨拶は
おはようございます。だ。


挨拶を返してくれたのは、
響子の父上、鳶亮さん。



このトビスケ野球喫茶のオーナー。
だが何故か社長と呼ぶように言われている。



かっこいいから、
というどこか抜けた理由が
響子にそっくりだ。



「あらおはよう!今日も元気ね!」


「はい!今日も頑張りましょう!」


といつも会話をしたら、職務開始だ。






12時30分、アルバイトスタート。








俺の仕事は多い。



総じて、

・喫茶店のオーダー確認
・料理の配膳
・テーブルの後片付け
・野球ショップの店員
・バッティングセンターの店員
・機械の調整、修理
・店の中全体の掃除


である。


昼時は特に喫茶店が忙しく、
カウンターに所狭しと完成した
料理が並ぶ。



「お待たせいたしました。
オムライスになります!」


「すいませーん」


「はい!只今!」


こんな会話はザラである。





気がつけば昼時は過ぎ、
喫茶店でも空席が目につくようになった。



「今日も乗り越えたわね〜お昼ラッシュ」


「ええ…ここぞとばかりにね…」



時計は既に14時を過ぎていた。



そんなに時間が経っていたのか、
ともう驚きもしない。



他の店員さん、まだ来ないのかな。
シフト開始の時間過ぎてるぞ。



俺は溜息をついて、



「さて、夕方のバッセンラッシュに
備えるとしますかね。」












「あ!高貴だ!」


聞き覚えのある声が耳に入り、
反射的に振り向く。



そこには、ツインテールを揺らして
手を振る響子がいた。



横には会釈をする井上、
バットを片手で担ぐ聖川がいる。


「おお、さっきぶりだな。」



「今は大丈夫なの?」



「落ち着いたところだ。
珍しいメンバーだな。」



「なんか練習物足りなくてさー、
練習しにきちゃった。」



「うむ。もう少しで強い打球を飛ばすコツが掴めそうなのだ。」


「そうか。ま、無理すんなよ。」


「はーい。」











「コウ!コウはいるか!」



コウ、とは鳶亮さんからの俺の呼び名。



何やら慌てた様子でショップからやってきた。


「どうしたんですか?」



「あのバイトバックれやがった!」



「またですか!?」




俺の2時間遅れで入る事になっている
同じバイトの男性がいるのだが…



いかんせん時間にルーズで、
遅刻や無断欠勤を繰り返している。



「あの人いなきゃ夕方回りませんよ!?」



奏子さんは機械に弱いから、
ショップの店員はできても
バッセンの店員はできない。



ウチのバッセンは高さ、球種、速さを
どのタイミングでどこになげるか
自由に選ぶ事が出来る。



その高性能っぷりが人気と激務に拍車をかけ、ボールの減りが早いのなんの。



ボールの補充も俺たちの仕事だ。




更にもう一つ厄介なのが、
速さの調整はどうしても稼働機種の
使用上手作業が強いられる。


70kmから140kmまであり、
別料金で170kmまで上げられる。




作業自体は簡単だが、握力がいる。


さらに打席数が12と多く、
3人でどうにか回せるくらいだ。




160年前に165kmを投げる
右投手がいたらしいが、本当だろうか。



野球ブームのこのご時世、
野球好きが仕事や学校帰りに
ここへやってくる。



昼と夕方に、この店にはラッシュが発生するのだ。


だからこそ、この店の時給は高い。




それ故に、休まれると本当に回らなくなる。



「お父さん、何かあったの?」




「おお、響子!実はバイトがバックれやがってな…」



「バイトさんが…」




響子は何やら考えて、




「よし、私も手伝う!」




「本気か?」




「うん!」



「響子がやるなら私もやるぞ!」



「私も…やります…」




と、次々と名乗りを上げる。




「気持ちは嬉しいが…女の子に力仕事をやらせるのはなぁ…」


と鳶亮さんは渋る。











「あれ?高貴と響子じゃねえか!」


「絵里!みんなも!」


喫茶店の入り口には、
八幡、駒田、相沢、船田、ドロッセルと
チームメイトが勢揃いしていた。



「こんなとこで何してん?」


「それはだな。」


聖川が5人に説明する。



「面白そうじゃねえか!やろーぜ!」



「そうですネ!楽しそうでス!」



「やるわ。他ならぬ湯浅さんのお父上の
頼みだから。」



「うん!賛成!」


と、皆が名乗り出てくれた。



「社長、上手く交代していけば
バッセンラッシュに耐えられるのでは?」



「んんん…すまないが、頼めるか?」



「「「「承知しました!社長!」」」」




…心強い。


俺がまず感じたのはそれだった。


社長がすげえ嬉しいそうで…
てか嬉し泣きしてるよ。




「…みんな、ありがとう。助かるよ。」



「普段玉原さんにはお世話になってまス!」


「ええ、少しくらい手伝わせて。」




2人の温かい言葉に、
俺は瞼が熱くなるが、
歯を食いしばってこらえる。



「よし、じゃあ配置を決めるぞ!」
































21時01分。


俺、退勤。


配置転換がはまったのか、
過去最高の売り上げを記録した。



みんなバイト代を得られたことと、
バッセンの回数券を貰えてホクホクだ。



さすがに夜だったので、
事情を説明して親御さんに
連れて帰ってもらった。



そして、俺は響子を送っている。



「みんなに礼を言わないとな。」



「そんなのいいよ、やりたくてやったんだから。」



「いや、それじゃ俺の気が済まん。」



「本当律儀だなぁ。」



俺は宵闇に輝く満点の星たちを見上げ、



「響子、今日は本当にありがとな」



「どういたしまして、だよ。」



「なんか、仲間と一緒に何かをするって楽しいな。」




「でしょ?私もそう思うんだ!」



響子は高貴の前に立ち、



「これからも、
みんなで助け合っていこうね!高貴!」



高貴は優しく微笑んで、



「ああ、そうだな。」 




と、充実に満ちた笑顔で
その言葉を紡いだ。



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