がーるずベースボール!

近衞

9.5話⚾︎井上優姫⚾︎

 チームの花火の火付け役、井上優姫。


金髪碧眼と目立つ容姿をしてはいるが、
実際は動物と触れ合うのが好きな
心優しい女子高生である。


今日も河川敷で練習をする為、
選手の装いでグラウンドに向かっていた。


その道中。


足元に、豆腐のように真っ白な
毛並みの猫がすり寄ってきた。


まだ、赤子だろうか。


「はぁ〜可愛いぃ〜 ︎」


甘い声を上げて、
彼女はその場にしゃがみこむ。


ナァ、と鳴いた猫は
服従のサインを井上に送る。


明らかに懐いている野良猫を自前の
猫じゃすりで毛繕いをする。



「可愛いね〜、よ〜しよ〜し」



普段の内気な彼女からは
考えられない姿だが、
更に動物好きが加速していく。


彼女の両親は動物アレルギーである為、
自宅で動物が飼えないことも、
動物好きを加速させる要因だ。


そんな彼女の夢は、

野球で稼いだお金で家を借りてたくさんの動物と暮らすことだ。



高校生にして動物のブリーダー資格を
取得しているあたり、
もう彼女の動物好きを止める者はだれもいない。



ちなみに、今日は井上の誕生日である。


誕生日の朝から可愛い猫に会えたのは僥倖だ。



「可愛いぃね〜 ︎背中も撫でてあげよっか?」


と普段とは比べ物にならない程の
饒舌な口調で猫に話しかける。


水をすくうように優しく、
まだ幼い猫を抱き上げた。












「あら、井上さん。こんな所で何をしているのかしら?」


「ひゃうっ!?」


井上は思わず子猫を抱きしめる。




「…そんなに驚かれても困るのだけれど」


「あ…ご…ごめんなさい」



駒田は井上が大事に抱きしめる
白い子猫を一瞥し、



「…野良猫を抱きしめるのは、
衛生上良くないわよ。」



「あ…その…えっと…」



「…遅れないようにね。じゃあ、私は行くわ。」



「あ、う、うん…じゃあね…」



グラウンドに猫を抱きしめて行く
わけには行かないので、
1度知り合いに預けグラウンドに向かった。














練習後。


自宅で外出用の洋服を着た後、


猫を引き取りに知り合いの家に行く。



そして井上は、ある場所に向かう。


学校の近く、入り組んだ所にそれはあった。



「みんな、良い子にしてた〜?」



そう、動物カフェである。



この店は清潔にした動物であれば持込可能であり、井上の憩いの場となっている。


更には野良猫や保健所の動物を
引き取る活動もしており、
井上にとっての最後の砦でもある。


井上は流れるような動きで
設置されたちゃぶ台の前に正座する。


井上の姿を見て、その場にいた動物達は
嬉々としていた。


井上にすり寄ってくる
猫や犬達と触れ合いながら、


「いい子にしてましたか〜?
本当に君達はかわいいなぁ〜 ︎」


1匹の猫が膝の上に乗る。


「可愛いなぁ〜なぁ〜なぁ〜にゃ〜 ︎」




この店の常連である井上は、
完全にリラックスしきっていた。


その笑顔には、愛情と母性が溢れていた。


今日は私の特別な日。


大好きな動物達に囲まれて、
今私は世界一幸せだ____…






















「あれ?井上?」










聞き覚えのあるハスキーな声に
井上は思わず顔を上げる。













「奇遇だな、井上。」












「な、何で…」





そこには、チームの選手兼任監督
玉原高貴が立っていた。






「俺今日だけここでアルバイトしてるんだよ。」



「そ、そうなんですか…。」




井上は今までの姿を見られていた
事に気付き、

トマト以上に顔を赤く染めた。




「その…井上って、動物好きなのか?」


申し訳なさが滲み出る声で、
高貴は井上に訊く。


「は、はい…」


「そ、そうか…」



言葉が出てこない。


さっきのあの笑顔と声が頭に焼き付いて
言語中枢が麻痺している。




「こ、ここ良く来るのか?」


「は…はい…」



「そ、そうか…」




会話は弾む事なく、
見事に沈黙へと帰る。











「あれ?玉原君だ!」


沈黙が消失する。


そこに現れたのは、
ラフな格好をした
チームのしっかり者の船田だ。


「何してるの?」


「俺はアルバイトの代理だ。
で、井上と会った。」


「ふーん…あ、そうだ!」


船田は井上の隣に腰を下ろし、







「井上さん!お誕生日おめでとう!」


突然の事に、井上は目を見開いて驚いた。


「あ、あり…がとう…ございます」




「井上、今日は誕生日だったのか。
ところで船田、何でここにいるんだ?」



「ここ、私の親戚の人がやってる店で
ここ河川敷に近いからよく来るの。

ほら、明日ランク戦でしょ?
少しでも負担は減らしたいし。

今は店番変わったの。」


船田はしゃがみこんで、


「猫ちゃんやワンちゃんと一緒に居られるしね〜 ︎」


と、近くの黒い柴犬を撫でながら。


「なるほど、確かにな。」



「あ、そうだ!みんなを呼ばない?
井上さんのお誕生日会しようよ!」



「いいな。響子に連絡するよ。」


「べ、別に…私は…」


「1人よりみんなの方が楽しいよ!
じゃ、私みんなよんで来るから!
玉原君店番お願いね!」


と言い残して船田は店の裏へと
消えて行った。


「あ…」


「井上、別に謝ろうなんて考えないでいい。
今日は井上の特別な日なんだから、
少しくらい甘えても文句は言わないさ。」


「は…はい」















かくして
店のドアには貸切の表札がかけられ、


チームメイト達がこの猫カフェに集結した。







「「「「お誕生日おめでとう!」」」」 


「おめでとう、優姫ちゃん!」


「おめでとう!」


「おめでとさんやで、井上ちゃん」





「あ、あり…がとうございます。」



クラッカーや拍手は動物のストレスになる
ので、言葉だけ。


顔を赤くしているが、
井上は嬉しいようだ。


蝋燭の火も危ないので、机には
ショートケーキワンホールそのままで
置かれてある。


朝方に拾い、連れてきた猫を撫で
照れているのをごまかす。


「その子猫、結局連れてきたのね。」


駒田が指差してそう微笑む。


「は…はい」


「私にも撫でさせてもらっていいかしら」


「は…はい!」



井上は猫じゃすりを駒田に渡し、
礼を言ったあと駒田はそれで
猫を撫でていく。



井上は事細かに撫での極意を
駒田に伝えていく。



難しいわね…と言いながらも
猫は気持ち良さそうにしていた。




そんな姿が微笑ましい。




「井上」




「はい…?」





「みんなの方が、楽しいだろ?」





井上はきょとん、とした後
無邪気な子供のように笑い、
















「はい。楽しいです!」





その言葉に、皆は笑みを零す。














また、思い出のページが埋まった。

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